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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第237話

 二十八日夜半、いや、二十九日の早朝と言うべき頃、パッセルスが二十人の部下を連れて自室を訪ねてきた。ちなみに俺に宛てがわれた部屋からは引き払い、アキに宛てがわれた部屋を二人で使っている。アキの望みだ。


「朝早く申し訳ない。国王陛下への謁見の申し込みは早い方が良いかと思ってな」


「では行きましょう」


 俺はアキとエヴラールを連れ、パッセルス達と城外に出た。そして王都近郊に転移した。

 ちょうど王都の門が開く頃であった。もしかするとパッセルスはこれを見越していたのかもしれぬな。偶然かもしれぬが。

 衛兵が駆け寄ってきたが、パッセルスが前に出た。


「東方国境にて発生した叛乱鎮圧の任を仰せつかった、第一将軍格家退役当主パッセルスと申す。国王陛下にお目通り願いたい」


「はっ。客将閣下もご一緒ですな?」


「ここにいる」


 俺はパッセルスの半馬身後ろから衛兵に応えた。今回、俺は前に出過ぎてはならぬ。あくまでパッセルスの麾下に配属された身だ。


「ご案内いたします。こちらへ」


「うむ」


 パッセルスはそう言い、衛兵の案内に従って王宮に向かった。

 王宮に着き、馬を預けると、アキやエヴラール、パッセルスの部下達は別室に案内された。


 俺とパッセルスは侍従の案内で控え室に案内された。いつもはすぐに会えるが、これが正規の謁見だそうだ。


「ご案内いたします」


「お早いですな」


「は。公爵閣下がいらした際は、報告するよう仰せつかっておりますので。こちらへどうぞ」


 先導する侍従の目を盗み、パッセルスが俺に肩を寄せた。


「いつもこうなのか?」


「ええ、まあ。待ったことは無い」


「気に入られているようだな」


「ありがたいことに」


「普段なら妬いてしまうが今回は礼を言っておこう」


「それはありがたい」


 パッセルスと話しているうちに着いた。すぐ近くなのだ。

 入室するがまだ玉座は空席だ。以前と同じだ。俺はパッセルスの一歩後ろに跪いて陛下を待った。


「第三十代サヌスト国王エジット陛下、ご入来!」


 という声と同時に陛下が入ってきた。むろん、頭を下げている。


「面を上げよ」


 俺とパッセルスは陛下の声で顔を上げた。


「何用か、パッセルス」


「はっ。戦勝のご報告をいたします」


「申せ」


「は。我が軍はクラヴジック城を奪還いたしました。しかしながら、我が軍は軽微とは言い難き損害を被り、アマット、ネルヴィルの両将を始めとする、勇敢と称すべき将兵約三万名を喪った事を、深くお詫びいたしまする。全ての責は我が身のみにあると存じますゆえ、生還した将兵らについては厚く報いてくださるよう、切に願います」


「ふむ。続けよ」


「は。サヌスト王国正統政府と僭称する叛乱軍のうち、ヴァンサン侯爵、アントワン伯爵、ギャスパー子爵、トリスタン子爵、オクタヴ男爵、アルトュル男爵を捕縛いたしました。しかしながら、アルフレッド元王太子、その副将スヴェインなるダークエルフを始めとした大部分を取り逃したことを、深くお詫び申し上げます」


「シルヴェストルの件はどうなった?私財を貯め込んでいたと聞き及んでいるが」


「は。現在、調査中でございます。故シルヴェストル東方守護将軍の記録によれば、金貨十五億枚以上がクラヴジック城内各地に隠されているとの事であります。また、多数ある金庫のうち、最大の金庫の最奥には、魔王の右腕が封印されているとの事でありますが、金貨が邪魔をし、その確認ができかねる状態です。九日後には金貨の回収が終了する見通しであります」


 改めて纏められると、かなりの被害を出しているな。それに対して得たものと言えば、叛逆貴族の身柄とクラヴジック城のみである。勝利と言って良いものか…


「分かった。騎兵のみ五万騎の援軍を出す。周囲の平定を進めよ」


「はっ」


「第一将軍格家退役当主パッセルスをクラヴジック城の暫定城主とし、東方守護部隊の総帥とする。ただちに帰還し、その防衛に努めよ」


「はっ」


 暫定的とは言え、パッセルスがクラヴジック城の城主か。ならば俺はクラヴジック城の暫定的な副城主くらいにはなるかもしれぬな。


「客将ジル・デシャン・クロード公爵には、援軍と宰相ヴァーノンを始めとする文官団の行軍指揮及び護衛を任せる。兵員と糧食は三日で整える。王都で待機せよ」


「はっ」


 ヴァーノン卿をクラヴジック城に派遣するか。想定外だな。せいぜい財政責任者くらいかと思っていた。王都にも余裕が出てきたのか?


「此度の叛乱鎮圧の任に当たった全将兵に伝えよ。よくやってくれた、報酬は弾むぞ、と」


「ははっ」


 陛下はそう言うと、退室した。

 俺とパッセルスも退室し、それぞれの準備に取り掛かった。と言っても、パッセルスを部下と共にクラヴジック城に戻すだけである。

 王都の屋敷にアキとエヴラールを残し、王都近郊までパッセルス達と行き、そこからクラヴジック城に転移した。そして王都の屋敷に戻った。

 侍女のアンヌが出迎えてくれた。家令のロイクは所用で出掛けているそうだ。


「御屋形様」


「……待て。御屋形様というのは止めよ。名で呼べ」


「えっ?ですが…」


「良い。名で呼べ。屋敷の全員に通達せよ。俺の事は名で呼べ、と」


 御屋形様などと言われてもすぐに俺と気付かなかった。あまり呼称が増えると面倒だ。


「承知しました。では、ジル様、お客様です」


「誰だ?」


「アシル=クロード伯爵閣下です」


「そうか。どこに?」


「応接室です」


「どこに何があるか忘れてしまった。案内せよ」


「こちらです」


 アンヌはそう言って応接室に案内してくれた。


 途中、廊下にかざってある絵が裸婦画に変わっていたので、アンヌに片付けるように指示し、新人の画家を五人程度集めるように言っておいた。

 レリアの絵を描かせるなら、変な癖などない方がいい。そのままが一番綺麗だ。だが、見たものを見たままに描く技術は必要であろう。となると失敗したかもしれぬな。まあ一流の画家になるまで育てれば良い。五人もいれば一人くらい上手く描けるようになるだろう。


 応接室に入ると、アシルが手と足を組んで待っていた。背後に控える影狼衆の女が怯えているところを見ると、機嫌が悪いのか。


「すまぬな。パッセルス卿を送っていた」


「それはいい。兄上、なぜ断らなかった」


 なぜアシルが怒っている?俺が陛下のご命令を断るはずがないだろうに。まさか寂しいわけでもあるまい。


「いや、陛下のご指示だ。断るはずがなかろう」


「異国からの心証を悪くしないためか」


「そうであろうな」


 異国からの心証というのはよく分からぬが、叛乱の鎮圧をした将をその地の暫定的な守護者にするのはよくある事だ。


「義姉殿はどうなる?少しは気遣ってやろうと思わないのか」


「確かにレリアには申し訳ないが、サヌストのためを思えばこそだ。レリアも分かってくれよう」


「そうだと良いが…まあいい。それより兄上、クラヴジック城はどうなった?兄上の麾下に置かれるのか?」


「いや、先程から言っておろう」


「ん?」


「え?」


「何を言っている?」


「いや、おぬしこそ…」


「だから、クラヴジック城はどうなる、と」


「今まで何の話をしていたと思っている?」


「何の話…?あの獣の話だ。とうとう義姉になってしまった、と」


「獣が義姉に…アキの事か。なるほど、噛み合わぬ訳だ」


 俺は今回の叛乱鎮圧について話しているつもりであったが、アシルは俺とアキの婚姻について話していたのか。それで異国への心証か。


「で、結局どうなった?」


「どちらが?叛乱鎮圧か、アキとの婚姻か」


「叛乱鎮圧だ」


「三万の犠牲を払ってようやく勝った。その後は…魔王の右腕を探しているうちに金貨に埋もれて三日が経った。何と十五億枚以上もあったぞ」


「それで学校か。それはそうと、兄上に客だぞ。ヒナツとトモエというヤマトワ人だ。今まで大人しくしていたそうだが、まさに今、兄上の屋敷の庭に家を建て始めたようだ」


「何と…」


 もう来たのか。まあ八月まで今日を含んで三日しかない。そろそろ着いてもおかしくないか。


「止めに行くなら奴も連れて行け。話はエヴラールから聞く」


「しかし王都で待機せよ、と」


「俺が連絡してやろう。行くなら行け」


「すまぬな。では頼んだ」


 俺は応接室を出てエヴラールと交代し、アキと共に聖都近郊に転移した。

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