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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第214話

 二人への書状から何か分かるかと思ったが何も分からなかった。とりあえずキトリーにラポーニヤ城を総出で掃除するように念話を送っておいた。キトリーであれば、掃除が終わるまで食事を作らぬ、ということも出来る。胃袋を握られると逆らえぬ。


「ねえ、あたしは別にいいよ」


「いきなり何の話だ?」


「分かってるでしょ?アキと結婚してもいいよって言ってるの。もちろんあたしが一番じゃないと嫌だよ」

 

「…まさか本気にしていたのか」


「え?だって帰って欲しくないんでしょ?」


「ああ。だが別の方法を何とか考えようとしていた」


「あたし達の子どもと結婚させるとか?」


「ああ。今はそれしか思いつかぬがな」


 ルカのように会ったこともない血族が現れ、アキかカイに惚れてくれたら良いのだが、そんな幸運は起こり得ぬであろう。

 俺とレリアの子と結婚させるにしても、歳の差がありすぎる。アキが何歳か知らぬが、カイは五歳だ。今すぐレリアが女児を妊娠したとしてもカイとは五歳、いや、六歳差であろう。アキはもっと歳上であろうから、男児であった場合、幸福になるかどうか…そもそも相性が良いという確証もない。相性が悪ければ、互いに可哀想だ。


「どちらにせよ、タカミツ殿への返事は待ってもらわねばなるまい」


「うん。ただ、最終手段はあるからね」


「最終手段?」


「うん。ジルがアキを第二夫人にするってこと。あたしが言うのもなんだけど、ジルが頼めば、アキは喜ぶと思うよ」


「…本当の最終手段だ」


「あ、あとは騙すみたいで申し訳ないけど、偽装結婚って言うの?結婚したフリをするの」


「その()があったか。考えみればもっとありそうだ。アキが下山するまでの間に考えておこう。最終的な判断はアキ達を交えて相談すれば良かろう」


「それがいいね。ちなみにジルはどうなの?アキのことどう思ってるの?」


 アキをどう思っているか…考えたこともなかったが、気に入ってはいる。だが、だからと言ってレリアと競わせた訳ではなく、全く別の感情だ。恋慕の情などをアキに向けたことは無い。いや、レリアの億分の一以下であれば向けたかもしれぬが、そんなものは数える必要もあるまい。


「まあそれなりに気に入ってはいるが…それは何と言うべきか…レリアに対する感情とは違う。例えるなら…そうだな…ルカに向ける感情と、エヴラールに向ける感情の、ちょうど境界線にある感情だ」


「うーん…ほんとは?」


「ルカとエヴラールに、クラウディウスも加えておこう。三人への感情のちょうど境界線だ」


「あたしは入ってないの?」


「ああ。レリアに向ける感情、つまり恋慕の情は向けたことがない。アキに限らず、レリア以外の者には向けたことがないな」


「そっか。ありがと。もう戻ろっか。明日は忙しいみたいだし」


「ああ。そうしよう」


 俺とレリアは貸し与えられた別館に戻り、夕食を食べて、床に就いた。結局、アシル達三人は帰ってこなかった。


 翌朝。朝食を終え、ナタリア様がつけた案内人にレリアと別々にどこかへ連れられた。ファビオ達もそれぞれ案内されていた。

 案内人に連れられていくと、甲冑が用意されており、それを着用するよう求められた。儀式用の甲冑だそうで、今日のためにわざわざ手入れをしてくれたようだ。動き難いが、まあこれくらいは我慢しよう。


 その後、モンセラートの場という儀式用の広場に集められた。モンセラートとは聖女の名で、こういう場の名称によく使われるらしい。この広場は教会に準ずる神聖さを持ち、当主交代の儀や、当主と兄弟、その妻の婚礼の儀や葬儀などが行われる。

 今回は司祭としての修行を積んだアラン殿が神官役を務めるそうだ。意外と信心深い一族なのかと思ったが、アラン殿の妻の一族の関係で修行を積んだそうだ。

 モンセラートの場には祭壇を前とすると、左側にジスラン様とその一族、右側に俺の一族が並んでいる。レリアはまだ来ておらぬが、俺の隣に席が用意されている。それにしてもレリアだけでなく、女性陣が遅いな。面倒な服なのかもしれぬ。


「兄上、昨日はすまなかった」


 アシルが俺と同じような甲冑を着込んでモンセラートの場に入ってきた。ローラン殿もジスラン様となにやら話している。


「もう良い。それより掃除はしたか?」


「ああ。全兵力をあげて大掃除をしている。塵ひとつ残さんようにな。自白剤とやらが塵より大きい保証はないが、汚れを全て追い出せばさすがに大丈夫だろう」


「家具まで捨てるでないぞ」


「俺に言われてももう遅い。もっとも、レンカがそのような愚を犯すとは思わんがな」


「レンカが指揮を執っているのか」


「ああ。本職に任せておこう、というキトリーの判断だ。キトリーは相も変わらず、料理を作り続けている」


「そうか。ところでルチアはどうした?」


「やつは侍女見習いだ。兄上のお気に入りでもそれは変わらん」


「そうか。だが、俺のお気に入りではない。見張っておかねば危険だろう、という判断だ」


「そういうことにしておこう」


「ジル君、ファビオ君とは血の盟約を交わしたのかね?」


 ラポーニヤ城とルチアについてアシルと話していると、法衣を着たアラン殿にそう尋ねられた。普段とは違う話し方だが、騎士の時と、司祭の時と、分けているのだろう。


「血の盟約とは何でしょう?」


「ヤマトワなる国からやって来た、優秀な副官の話を私も聞かせてもらった」


「補佐官ですが」


「…ヤマトワの情勢が変わり、その補佐官殿が帰らねばならない状況だとか」


「ええ。私の血族と補佐官かその弟妹が婚姻を結ばねばならぬそうで」


「つまりはファビオ君が血族になれば良いという事ではないのかね?」


「血族が増えるには、新たに子が生まれるしかないでしょう。兄弟にせよ、親子にせよ、新たに子が生まれるか、行方不明だった者が発見されるか…後者の確率は限りなく低いでしょうな」


「ところが、血の盟約を交わせば、それはもう血族だ」


「何と…少し考えさせていただきたい」


 俺はアシルと共に、広場の端に寄った。人に聞かれるとまずい、ということではないが念の為だ。


「交わせばいいだろう」


「…俺の血の強さを知らぬのか。おぬしでも無事では済むまい」


「それほどか」


「ああ。異種族の血を飲むということは、それだけで危険な行為だ。健康的にも、魔法的にも」


 健康的にも、と言うのはテクジュペリが言っていたことで、最悪の場合、未知の病で死ぬかもしれぬそうだ。

 人間とエルフが互いの血を飲んだ場合、エルフには耐えられて人間には耐えられぬ病と、人間には耐えられてエルフには耐えられぬ病が、未知の反応を起こして、どちらにも耐えられぬ病を生む可能性も捨てきれぬそうだ。


「魔法の方は専門家がいるだろう。なんと言ったか…」


「専門家?サヌストで一番の魔法使いは俺だぞ」


「いや、魔界から連れてきた…魔導書とか言ったか?」


妖魔導書(ラヴィニア)か。確かに専門家か」


 俺はそう言ってラヴィニアを出した。毒見役をさせていたが、いつの間にか戻っていた。まあ三番勝負は終わったので当然だが、戻した覚えはない。


『はい。まず、病に罹る可能性は限りなく低いです。その理由として、マスターは完全な健康体であり、人狼でもあることが挙げられます。例えファビオ様が何らかの病に罹っていたとしても、マスターには通じないでしょう』


「そうか。では魔法的にはどうだ?」


『はい。血の盟約を交わす場合、自らの血も飲む事になるので、新たな種族になる可能性は低くなります』


「そうか」


『ですが、マスターの血は大変強いので、魔力濃度の調節をしなければなりません。魔力濃度をファビオ様に限りなく近づけ、更に波長を合わせる必要があります。それはラヴィニアにお任せを』


「そうか。では問題はないのか」


『はい。毒の混入でもない限り、大丈夫かと』


「分かった。では血の盟約を交わそう」


『ラヴィニアはマスターの体内にて、魔力濃度の調節を行います。それに伴い、いくつかの権限を付与、または貸与していただきたいのですが』


「好きにせよ」


 俺はそう言ってラヴィニアを体内に戻した。そして申請された権限の貸与を行った。この権限は俺が無意識に行使しているもので、血液や魔力の生産、体内の魔力濃度の調節など生命維持に必要なもののようだ。まあ三日くらいであれば放置しても良いようだが。

 とにかく、血の盟約を交わす事が決定した。その旨をアラン殿に伝え、ファビオにも伝えた。


 レリア達が来る前に血の盟約を交わすことになった。


 俺とファビオは祭壇の前に立ち、ナイフを手に持ってアラン殿の聖歌を聞いた。歌詞は古代サヌスト語(魔王時代以前に使われたサヌスト語。現在のサヌスト語は魔王語の影響を少なからず受けている)なので意味は分からぬが、ところどころわかる単語を挙げると『血』だとか『神への誓い』だとか『地獄の炎』などという言葉があった。

 聖歌が終わると、アラン殿は杯を三つ用意した。そのうち大きなものに葡萄酒を注いだ。俺の目の前に置かれた杯に俺の血を注ぎ、ファビオの目の前に置かれた杯にはファビオの血を注いだ。

 俺とファビオの血を葡萄酒に混ぜた。これ程薄めるのであれば、あれほど心配する必要はなかったかもしれぬ。

 血を混ぜた葡萄酒を新しい杯で掬い、俺とファビオに差し出した。

 俺とファビオがそれを飲むと、血の盟約が成立した事を宣言した。残った血入り葡萄酒はヴォクラー神へ捧げられるそうだ。


「これでファビオは名実共に俺の弟となった訳だ」


「ほんとのアニキになったってこと?」


「ああ。そういう訳だ。そうですな、アラン殿」


「ああ。実弟とは言えんだろうが、血族とは言えるだろう」


「それは良かった。ファビオよ、これまで以上にユキを大切にせよ。そして何かあれば俺かレリアを頼れ。仲裁くらいはしてやろう」


「喧嘩なんてしないよ。アニキもしないでしょ?」


「レリアとは喧嘩などせぬ。喧嘩などと言うのは狭量同士で行うものであり、俺とレリアは二人とも広量だ」


「じゃあ、オレもユキも一緒だね」


「ああ、そういうことだ」


 何にせよ、これで問題は解決した。ファビオには問題は伝わっておらぬであろうが、ユキから伝わるかもしれぬな。まあ新たな問題になることはあるまい。

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