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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第210話

 俺は外に出てゴーレムを三十体作り、魔眼と天眼を入れ替えた。魔眼を俺、つまりは指揮官として行かせるのだ。

 ゴーレムの欠点として、一度与えられた命令は完了するか、別の命令があるまで遂行することが挙げられる(当然、破壊されれば止まる)。例えば、『敵を殲滅せよ』と命令した場合、人質を取られても攻撃を続ける。その場合、術者が『止め』と命令せねば止まらぬ。それにそもそも敵味方を判別させるなど、余程の使い手でないと不可能だ。


 今回、人質に取られるとしたら俺の弟妹かユキかカイの五名であるが、この五名はいずれも人質に取られるほど弱くない。だが、もしも、ということがある。

 レリアを害するのは敵側にも出来ぬであろうし、そんな事をすれば俺が許さぬということも態度で伝えたつもりだ。なので、今回は人質は取られぬであろうが、レリアが敵として参加している可能性も無くは無い。ゆえに魔眼()がついて行く。


 ゴーレム三十体は地上を進み、俺の魔眼はその上空を進み始めた。本拠地はそれ程遠くない。


 本拠地に向かう途中、俺の魔眼が十名ほどの一隊を確認した。ローラン殿が先頭に立っており、それ以外の者は顔を隠している。ゴーレムには気づいておらぬようだ。


 ゴーレムのうち、十体を正面から近づけ、残りの二十体を二隊に分けて三方から囲み、正面の十体を更に近づけた。ちなみにゴーレムはクラウディウス程の体格にし、巨大な盾と刺股を持たせている。盾の意味は無いが、威圧感があるので持たせた。


 正面のゴーレム十体に気付いた一隊は剣を抜き、ローラン殿が何か叫んだ。音が聞こえぬな。

 ローラン殿が何を言ったか知らぬが、三体一組で拘束させた。ローラン殿に刺股を一本折られたが、被害はそれだけだ。


 ローラン殿達十名の武装を解除し、ゴーレムに背負わせて本拠地に向かわせた。叫んだり暴れたりしているようなので、どうにか気を失わさせた。


 本拠地は小屋のような建物で、誰かが潜んでいるとは思えぬほど荒んでいる。

 土魔法で巨大な石柱を作り、ローラン殿達十名を縛り付けておいた。


 ゴーレム二十体で包囲し、十体を突入させた。中では小さな洋灯(ランプ)の火を囲んだ三名が寛いでいた。まさか襲撃されるとは思わなかったのだろう。

 三名を拘束し、石柱に縛り付けて、ゴーレムを土に還した。

 ローラン殿達を放置し、魔眼を帰還させた。二日間くらい何も食べなくても大丈夫であろう。それに誰かが助けに来るかもしれぬ。


 翌朝。プリシラは何も知らずに起きてきた。まあ知っているわけが無いし、教えるつもりもない。


 朝食を終え、居間で寛いでいると、誰かが来た。門を叩いている。


「プリシラ、動くでないぞ」


「いきなりどうしたんです?」


「誰か来た。出てくる」


「分かりました」


 俺は魔眼を残して家を出た。

 門を開けると、レリアが立っていた。首から『侍女役。レリアではない』と書かれた看板をぶら下げている。


「ご主人様、差し入れです。奥様と食べてください」


 レリアが感情を込めておらぬ声でそう言った。昼食を持ってきてくれたのか。


「そうか。わざわざ来てくれたのだ。ゆっくりしていくと良い」


「すぐ戻ってくるように、と」


「いや、それは申し訳ない。茶でも飲んでいったら良かろう」


「…ちょっと強引に連れ込んで」


 レリアが小声でそう言った。気配は感じぬが、誰かが聞いているのかもしれぬ。


「主人の言う事を聞けぬ者を雇った覚えはない」


 俺は少し大きめの声でそう言い、レリアを抱き上げて家に戻った。


「まだご主人様を演じててね。奴隷の()が聞いてるかもしれないから」


「分かった」


「あたしも侍女役をするから、いい感じにノッてね」


「ああ」


 俺とレリアは廊下でそれだけ話すと、居間に戻った。まだ抱き上げたままだ。離すつもりは無い。


「プリシラ、差し入れだそうだ」


「そうですか。では帰って頂いてもよろしいですか?」


「いや、ダメだ。三人で茶を飲むと決めたのだ」


「…そうですか。お茶を淹れますので、少々お待ちください」


「ああ」


 俺はレリアをソファに座らせ、隣に座った。逃げぬように手を繋いでおかねば。逃してはならぬからな。

 プリシラが茶を持って戻ってきた。差し入れを開けると、茶菓子が入っていた。念の為、ラヴィニアに毒見をさせた。


『毒を検知しました。危険です』


「何と…」


 俺がレリアを見ると、レリアは目を逸らした。なるほど、買収された侍女役か。ちょうど良い。


「プリシラ、食べるでないぞ。毒は俺が始末しておく」


「はい」


「それから、俺はこの侍女を()()する。二階の個室がいくつか空いていたであろう。そのいずれかにいる。用があれば呼びに来てくれ」


「はい。お気をつけて」


「ああ。おい、裏切り者め、行くぞ」


 俺は申し訳なさそうな演技をしているレリアを粗雑に見えるように、だが、丁寧に抱え、二階の個室に向かった。もちろん、魔眼を残してきているので大丈夫だ。それに結界を破れる者がいるとは思えぬ。

 個室に入り、扉を閉めてレリアを床に下ろした。防音の結界を張っておけば良かろう。天眼があれば、プリシラが呼びに来たら分かる。それに魔眼でプリシラを見ているのだ。防音の結界如きでプリシラを見失わぬ。


「ジル、ごめんね。変な事に巻き込んじゃって」


「いや、レリアが謝ることではなかろう」


 俺とレリアは部屋に置いてあったソファに隣合って座った。


「でも…」


「俺も中々楽しんでいる。だからレリアが申し訳なさそうにすることではない」


「え?どういうこと?奴隷娘との生活が楽しいの?」


 レリアに勘違いさせてしまったか。プリシラとの生活は悪くないものではあるが、良いものでもない。それに俺が楽しいと思っているのはこの緊張感であって、レリアと離れていることではない。どうにか伝えねば。


「いや、誤解するでない。戦闘の話をしているのだ。ジスラン様をはじめとして、中々の好敵手が揃っている。それにレリアに一切の危険が無いと分かっているからこそ、楽しめるのだ。本当にレリアを狙っていたら、俺は心配で倒れてしまうぞ」


「冗談だよ。ジルは何があってもあたしのとこに帰ってくるって、信じてるからね」


「ああ。信じてくれ。必ず応える」


 冗談であったか…レリアの演技が上手すぎて肝が冷えた。


「そう言えば、尋問っぽいことはしなくていいの?」


「では念の為、させてもらおう。仲間の数は?襲撃の予定は?知っている限りを全て話せ」


「誰も聞いてないからそんなふうに話さなくてもあたしが話すよ」


「尋問っぽい事をしてみただけだ。それより教えてくれ」


「あたしが知ってる限りだと、アラン叔父さんとその部下二十人と、ローラン叔父さんとその部下十人、あとはお父さんの部下が三十人だって」


「六十人強か。勝てるな」


 ジスラン様は参加せぬようだが、なにか理由があるのか…まさか俺を恐れているのではあるまいな。右の掌を貫き、両足の骨を砕き、膝を粉砕しただけだ。それに全て治してやったはずだ。


「それからね、あたしが貰った台本によると、今日の襲撃はこれで終わりで、明日の昼頃にこの家に火をつけて騎馬隊で囲むって。あ、あたし役の要望で家にいなきゃダメだから、どうにかしてね」


「ジスラン様はレリア諸共燃やすつもりか?」


「ほんとはあたしが捕まらない予定だったからね。でもジルが助けてくれるでしょ?」


 ではこの家は燃やされぬのではないか?いや、ジスラン様は俺を信じて燃やすか。そう思っておこう。警戒しておいて損は無い。


「もちろんだ。本物のレリアも、設定上のレリアも両方助ける」


「ねえ、本物のレリアっていう呼び方はやめてよ」


「すまぬ。訂正する。レリアもプリシラも両方助ける」


「うん。信じてるね」


「ああ。任せてくれ」


 いざとなれば異空間に二人を入れておけば良い。俺が死なぬ限り二人は無事だし、俺はただの炎では殺せぬ。いや、そもそも魔法を使わずに俺を殺す事など出来ぬ。


「それよりも、あたしがタダで情報を教えたみたいになったけど、いいのかな?ビンタぐらいだったら我慢するよ?」


「レリアの頼みでも、レリアにビンタなどできぬ」


「でも何かあった跡くらいはあった方がいいんじゃない?」


「拷問した跡か?」


「うん。あたしも言い訳が欲しいし」


「ならば跡だけ作ろう。ちょっと待ってくれ」


 俺は創造魔法で鎖と鞭を創った。

 鎖を三本、壁に繋いだ。鎖の反対側に手枷と首枷を創った。

 壁の鎖に『レリアが引っ張った場合のみ、新たに鎖が創られる』という効果を付与した。中々難しかったが、まあ魔力を大量に使えばできぬことも無い。

 鞭は適当に置いておいた。


「レリア、申し訳ないが、これを付けてくれぬか」


「いいけど、苦しくない?」


「ああ。引っ張れば伸びるようにした」


「じゃあ付けて」


「ああ。失礼する」


 俺はレリアに手枷と首枷をつけた。

 それから短剣を抜いて俺の手首を切り、血を良い感じに撒き散らした。

 更にコップを創って血を注いだ。


「レリア、これを口に含んですぐに吐いてくれ…念の為に聞いておくが、その服は汚れたりしても良いのか?」


「いいよ。適当に引っ張ってきた服だから」


「ではこの血を口に含み、すぐに吐いてくれ。飲んではならぬぞ。どんな病気になるか分からぬからな」


「うん」


 レリアは俺の血を口に含み、すぐに吐いた。上手いな。吐血したように見える。

 それから俺は自分の頬を殴って奥歯を抜いた。砕けたものもあったので床にばらまいた。


「良いか。俺はレリアを拷問にかけた、という設定だ」


「それであたしは喋っちゃったっていう設定ね」


「ああ。その通りだ。俺は一度プリシラと話をしてくるから、少し待っていてくれ」


「寝転んでた方がいいよね?ぐったりしてる感じに」


「ああ。だが、血で汚れるぞ」


「ジルの血でしょ?汚くないよ」


「そうとは限らぬが…まあ良い。とにかく、プリシラがこの部屋に近づく時はどうにか知らせる」


「分かった。バレないように気をつけてね」


「ああ。不快にしてすまぬ」


 俺はそう言い残して部屋を出た。防音の結界も解除しておいてよかろう。念の為に天眼も残してきた。

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