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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第208話

 塔から案内が来て、屋敷に連れられた。部下はどこかに連れて行かれたが、魔導王軍は異空間に帰した。その際、リリーが報告してくれたのだが、呪魔導王軍の召使い三十名を回復役としてわざと脱落させたそうだ。勝手に戦力を減らした事を謝られたが、礼を言っておいた。これでジスラン様やローラン殿も大丈夫であろう。


 屋敷では例の部屋に閉じ込められ、侍女一人を除いてどこかに行ってしまった。

 何か問題でもあったのか?もしかすると、ジスラン様の膝を砕いた事が悪かったのかもしれぬ。いや、ローラン殿を殴ったことかもしれぬな。だが、規則に則って戦っただけで、単純に俺の方が圧倒的に強かっただけだ。


「ジル君、待たせたね」


 昼食を食べていると、ジスラン様が部屋に入ってきた。ジスラン様はローラン殿、アラン殿に加え、初めて見る老人を連れている。俺は立ち上がって迎えた。


「まず、ローランの歯を砕いた事は何にも思わなくていい。ただの戦力差だ」


「は」


「だが、私の膝を砕いたのがまずかった」


「なぜです?」


「総指揮官に対してのみ真剣の使用を認める、とあっただろう。総指揮官は私ではなく、父上だ」


「逃げ回っていた総指揮官だ。ベルトランと言う。息子の膝は高くつくぞ」


 ベルトラン様はそう言ってジスラン様の膝を叩いた。レリアのお祖父様が総指揮官であったか。それにしても総指揮官を別人にし、総指揮官として振る舞うのは良かったのか?まあ良いか。


「それは…申し訳ありませぬ」


「ということで、君は反則負けだ。三つ目の勝負をしよう。おい」


「はい」


 ジスラン様が呼ぶと、侍女がこちらに来た。三つ目の勝負はレリア(代り役)の護衛であったはずだが、この侍女が代り役なのか。


「ジル君、覚えているだろうが、詳しく話そう」


「護衛では?」


「その通りだが、状況設定を話してやろう。ジル君は強大な敵を亡ぼした。しかし、その残党が『妻を殺す。暗殺者を幾人か送り込んだ』と書状を送ってきた。だが、自分の腹心は全て寝込んでおり、動けるのは会ったこともないような部下だけだ。ジル君はその者らを残党のもとに送り、徹底的に亡ぼす。それにかかる期間は三日」


「ジスラン、説明が長い。ジル君、簡単に言うとこうだ。三日間、そこの奴隷を守れ。三日後に無事であれば君の勝ち、そうでなければ私達の勝ち、ということだ」


 ジスラン様の話を遮り、ベルトラン様が説明してくれた。初日も思ったが、ジスラン様は話が長いな。まあ別に良いが。


「三日間、ですな?」


「ああ。それと、その奴隷をレリアと思い、要望があれば叶えてやることだ」


「は。いつから始めますか?」


「今からだ。三日後…いや、二十六日の日の入りまでだ。半日くらいいいだろう?」


「構いませぬぞ」


「決まりだ。その奴隷について行き、指示に従え」


「は」


「ではこちらへどうぞ」


 侍女がそう言って部屋を出て、案内を始めた。


 しばらく進み、小高い丘の上にある家に来た。簡易的な塀に囲まれており、敷地内には井戸もある。建物は山奥にある山荘のような建物で、二人で過ごすにはかなり広い。

 建物は二階建てで、一階は居間や食堂、厨房、食料庫などがあり、二階に個室がいくつかあるそうだ。


「ご準備が整いましたら、外にある鐘を鳴らしてください。開始の合図となります」


「そうか。では、まず名を教えてくれ。レリアの代り役と言えど、レリアとは呼びたくない」


「プリシラです。三日間よろしくお願いいたします」


「そうか。では鳴らしてくる」


 俺は外に出て鐘を鳴らした。ナタリア様と言い、この家は鐘を合図にするのが流行っているのか。


「あなた、お夕食に使う山菜を採りに行きたいのですけれど、ご一緒に行かれます?」


 鐘を鳴らすと、空のかごを抱えたプリシラが出てきた。右半分が黒、左半分が水色のカツラを被っている。


「…山菜?」


「ええ。あなたもお好きでしょ?」


「いや、あまり好まぬ。それよりもその話し方は何だ?」


「お嬢様の、レリア様の真似をさせて頂いているのですが…」


「似ておらぬ。レリアの真似はやめろ。似ていたとしても、それはそれで不快だ」


「っ!申し訳ありません」


 プリシラは勢いよく頭を下げた。頭を下げると顔が見えなくなるので、レリアが頭を下げているように見えなくもない。いや、見えぬが、見ようと思えば、何とか見えるという程度だが、どちらでも不快だ。


「カツラも外せ。レリアは地毛だ」


「はい!申し訳ありませんでした!」


「いや、良い」


「それで…山菜の方は…?」


「いらぬ。料理は部下に届けさせる」


「ですがっ…!」


「とりあえず中に入るぞ。プリシラは狙われている」


「はい!」


 俺はプリシラを先に入らせ、敷地内を守るように結界を張った。これで魔法使い以外は入れぬ。


「料理は部下に届けさせる。異論は?」


「あります。あ、私の意思ではなく、そういう指示が出ております」


「何と?」


「はい。部下は全員寝込んでいる設定で、料理人や侍女などはそちらに付きっきりで、旦那様に構えない。だから、二人で協力しなさい、と」


「なるほど。そういう設定か」


「はい。そういう設定です」


 ならば、プリシラに料理は任せるしかあるまい。俺は料理はせぬし、そもそもプリシラは侍女として勤めているはずだ。レリアの代り役とは言え、レリア本人ではない。レリアにさせぬ事でも、プリシラにさせて良かろう。


「旦那様、山菜を採りに行きたいです。どうかお願いします」


()()か?」


「はい。()()です」


「では行こう。…まさかヌーヴェルも、馬も寝込んいるとは言わぬであろうな?」


「馬小屋に繋いであるはずです。行きましょう」


「ああ」


 プリシラはかごを持って外に出た。(設定上は)狙われているくせに、危機意識が無いな。いや、もしかするとレリアには伝えておらぬ設定なのかもしれぬ。面倒な設定だな。

 俺が外に出ると、プリシラが馬小屋からヌーヴェルを連れ出しているところであった。


「すまぬな。乗れるか?」


 俺はプリシラから手網を受け取り、ヌーヴェルに飛び乗ってそう言った。

 ちなみに鞍などの馬具は常につけたままだ。ヌーヴェル自身が『馬具は服のようなもので、邪魔にはならない。むしろ裸馬である事は、騎手がいないということになり、恥となる』と言っていた。一角獣(ユニコーン)の価値観は分からぬが、つけたままで良いのであれば、その方が楽なのでつけたままにしている。


「はい。あの、前に乗せていただきたいのですが」


()()か?」


「はい。お願いします」


「そうか。では掴まれ」


 俺は手を差し出し、プリシラを引き上げた。ヌーヴェルが嫌なら念話で断られるので、大丈夫だ。まあヌーヴェルなら五人くらい乗せても平気であろうが。


「では行くぞ。山菜はどこにある?」


「あちらに」


 俺はプリシラが指す方に向けて駆け出した。

 近くの山に入りヌーヴェルから降りると、プリシラが山菜を採り始めた。俺は天眼で警戒しながら倒木に腰掛けた。


 山菜を採り終え、例の家に向けて帰り始めた。山菜を採りに行かせたのには何か理由があると思ったが、特に何も無かった。いや、警戒させることが目的なのかもしれぬ。


 家に戻り、プリシラが料理を作り始めた。

 その間、俺は魔眼をプリシラの護衛につけて外に出た。塀を高くし、掘を掘るのだ。堀には油を流し、いざとなったら火をつけて騒ぎを大きくできるようにした。


「戻ったぞ。異常は無いか?」


 俺は家に戻ってプリシラに話し掛けたが、返事が無かった。魔眼で見る限りは異常は無いようだ。無視される程嫌われる事はしておらぬはずだが、何かあったか。


「返事くらいしたらどうだ?」


 俺は厨房に入ってプリシラを探した。魔眼で見ているので場所は分かる。


「あ…すみません。お帰りなさいませ」


「ああ。忘れてもらっては困るが、俺はおぬしの護衛をしているのだ。返事くらいはして欲しい」


「申し訳ありませんでした。次からは気をつけます」


「そうしてくれ」


「はい。もうすぐお夕食ができますので、食堂でお待ちください」


「ああ」


 俺は厨房を出て食堂でプリシラを待った。魔眼はプリシラに付きっきりにしよう。暗殺者など片眼で充分だ。ともかく、プリシラが無事で良かった。


 しばらくすると、プリシラが夕食を運んできた。何となくプリシラが緊張しているような気がする。


「お待たせしました。お口に合えばいいんですが」


「安心せよ。好き嫌いはあっても、食べれぬものは無い」


「…それなら良かったです」


 プリシラの緊張をほぐしてやろうと冗談を言ったつもりだが、効果は無かったようだ。


「では食べよう。いただきます」


 今日の夕食は山菜の山菜が中心の料理で肉は一切ない。逃亡生活という設定なら仕方ないのか?

 しばらく黙って食べていると、プリシラが椅子ごと後ろに倒れた。


「どうした?」


 問いかけてみるも、プリシラは何も言わぬ。まさか毒にも警戒せよ、ということか。

 出掛けている間に、井戸に毒を入れられたか?いや、それならば俺も毒に苦しむはずだが…いや、そもそも俺に毒が効くのか?もしかすると、プリシラが自分の料理にだけ毒を入れていたのかもしれぬ。それなら緊張の理由も分かるが…

 まあいずれにしても、プリシラの奴隷根性をもっと恐れねばならぬな。


「毒か?息はできるのか?」


 プリシラはやはり反応せぬ。まあ毒など回復魔法を強めにかければ、すぐに治る。

 今回も回復魔法を強めにかけ、治してやった。


「大丈夫か?」


「はい。ありがとうございます」


「今日はもう休め。それと次からは俺が用意した水以外に触れるな」


「でも…」


「空腹が収まらぬなら、朝まで我慢せよ。一度の食事を逃したくらいでは死なぬ」


「…はい」


 俺はプリシラを二階の個室に送り、魔眼を置いてきた。

 厨房に戻ってプリシラが残した分も食べたが、やはり俺に毒は効かぬようだ。味の違いも特に感じなかった。


 食後、家の外に土魔法で作った兵士を模した人形をいくつか設置しておいた。この土人形は動かそうと思えば動かせるし、ゴーレムにもできる。

 動く土人形とゴーレムの違いだが、前者は俺が自分で動かさねばならぬのに対し、後者は簡単な命令を与えれば可能な限り遂行する。つまり、ゴーレムに命令すれば、俺は他のことに集中しても良いということだ。


 改めて天眼で索敵し、結界を五重に張り、暗殺者がおらぬことを確認してプリシラの隣室に入り、俺も休んだ。何かあってもすぐに対処できるように眠らぬが。

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