第204話
ジャビラの手記を読んでいると、冒険者ギルドについて記述があった。
魔王暦(ジャビラが魔王として君臨した年を紀元とする暦。諸説あるが、魔王暦千七十五年がアンドレアス暦の紀元とされている)千年頃、民衆はジャビラに対抗するため、秘密裏に反魔王組織『ギルド』を創設した。この頃は冒険者ギルドはギルドという組織の一部であったそうだ。
創設以降、ギルドは魔物を狩り、とりあえずは人々の平和を守った。ジャビラを倒すのが最終的な目的ではあるが、それは民衆の為であり、既に被害を受けている民衆を見捨てる事は、民衆を救うと言うギルドの基本原則に反するのである。
また、ギルドは魔物の危険度をランクと言う階級に分け、任務の安全化を図った。
数年後、ギルドは魔王軍の兵士十名を殺害した。ジャビラは『気概のあるヤツが出てきたな』と犯人を探させ、ギルドを発見した。発見当時、ギルドの構成員は二千名程度で、そのうち戦闘員は七百名程度であった。
ジャビラはギルドを解体するどころか、支援金を与えて活動を支援した。
ギルドが作ったランクは、ジャビラの手によって広められ、当時の戦闘力の基準となった。
上からL、S、A、B、C、D、E、F、Gがあったようだ。今の基準と違うので正確ではないが、凡その基準があるようだ。
Gランクは人間の子供程度の強さだそうだ。犬人や猫人のように、人間の子供のような戦闘力の魔物もかなりの数がいたらしい。その為、Gランクも作られたようだ。
Fランクは人間の農夫程度の強さらしい。まあ当時は今と違って魔物が出たので、農夫と言えども強かったのかもしれぬ。
Eランクは人間の農夫が徒党を組めば勝てぬことも無いが素人には危険だ、と判断される程度の強さらしい。曖昧だな。
Dランク以上にはどうあっても素人では勝てぬようだ。
Dランクは武装した人間の騎士程度の強さだそうだ。曖昧ではあるが、今のサヌスト軍の兵士のほとんどはDランクであろう。
Cランクは魔力を扱えぬ者が数十年間、武術を極めた程度だそうだ。おそらくではあるが、ジェローム卿やジュスト殿はこの辺りであろう。六割程度の人間はCランクで終わるそうだ。
Bランクは産まれたての竜程度の強さだそうだ。魔闘法と呼ばれる武術か魔法を使わねば辿り着けぬ。三割割程度の人間はBランクで終わる。
Aランクはある程度の才能を持った人間が数十年間の鍛錬を経て、ようやく辿り着ける領域だ。Aランクの者にはCランク以下の者がどれだけ群がっても勝てぬ場合が多い。
Sランク以上は人間が辿り着くのは不可能だと言われる領域だそうだ。
Sランクはギルド創設以来、百名にも見たぬほどの少数しか認定されておらぬそうだ。魔王軍の幹部などが相当する。SランクのSは特別の頭文字だそうだ。どこの言語かは伝わっておらぬが、ジャビラが暗号として使っていたものが広まり、第二ジャビラ語と呼ばれているそうだ。俺は初めて聞いた言語だ。
Lランクは称号のようなもので、Lランク相当の戦闘力を持つのはジャビラただひとりだそうだ。LランクのLは伝説の頭文字だそうだ。これも第二ジャビラ語だそうだ。
自惚れている訳ではないが、俺はSランク程度の強さはあるであろう。もしかすると、Lランクに届くかもしれぬ。何と言ってもジャビラの父の魂を取り込んでいるのだ。ジャビラより強いかもしれぬな。
Bランクの説明であった魔闘法が気になって調べたら、ローラン殿に教えてもらった技術のようだ。
『魔力を武器に纏わせ、その性能を向上させる武術』と書いてあった。手刀も武器に含むのであろう。
ジャビラの手記を読んでいると、朝になった。熱中してしまったな。印をつけてしまっておこう。
「あら、おはよう。朝が早いのね」
「おはようございます。ナタリア様こそお早いお目覚めでらっしゃいますな。水でも飲まれますかな?」
「あら、気が利くのね。いただくわ」
俺はいつもレリアに渡している水をナタリア様に渡した。やはり親子だな。いや、ナタリア様の方が朝に強いようだ。レリアのように朝に弱いのは愛らしいので、それはそれで良いが。
「何か読んでたの?」
「ええ。とある人物から受け継いだものです。これからは魔法の時代が来ますぞ」
「あら、そうなの。うちの人でも使えるかしら」
「ローラン殿は魔闘法という武術を修めているようです。魔闘法は魔法と似たようなものでして、ローラン殿はサヌストでも上位の強さでしょう。それが血統によるものであれば、ジスラン様も使えるでしょう」
「ローランさんが?」
「ええ。剣術だけで言えば、ローラン殿より強い者を知りませぬ」
魔闘法を剣術としても良いのかは分からぬが、まあ剣を扱っているので剣術であろう。
「それじゃ、私が着替えたら朝食を食べましょう。その時に発表があるはずよ」
「結婚を認めるか否か、ですか?」
「そうね。それもあるけど、当主を譲るか否か、とか、譲るとしても方法はどうするか、とか、譲らないとしてレリアを公爵家に嫁がせて良好な関係を築くか、とか色々話し合ってるはずよ」
「そうですか」
確かリノ殿が『レリアを娶るなら、うちの当主と次期当主に勝たねばならんぞ』と言っていた。次期当主が俺になったら、俺はジスラン様と自分を相手に戦わねばならぬのか?まあその時になれば分かるか。
「着替えるから少し待っててね」
「は。扉の前で待っていますので、どうぞごゆっくり」
「ダメよ。あなたを見張ってるようにあの人に言われたんだから」
「そうですか。では私の背中を見ながら着替えてください。扉を見つめていますので」
「そうするわ」
俺は扉の前に立ってナタリア様の着替えを待った。レリアとはかなり価値観が違うようだ。親子でも価値観は似ぬのか?
それにしてもジスラン様の命で俺と過ごしていたのか。そういう趣味があるのかと思って警戒していたが、杞憂であったか。念の為、後でレリアに説明しておこう。
「待たせたわね。さあ、行きましょう」
「は」
ナタリア様が扉を開けると、侍女が待っていた。
ナタリア様は侍女を従え、進んで行ったので俺も後を追った。
昨日、俺がジスラン様とナタリア様に挨拶をした部屋の前に来ると、侍女が扉を開けた。
昨日より広く感じる。机の右側にある七つの椅子の二番目にアシルが座っていた。
「兄上」
「アシルか。今までどこにいた?」
「それは後で説明するわ。とりあえず座りなさい」
「は」
俺はアシルの隣に座った。今はまだアシルしかおらぬようだが、おそらくファビオ、ルカ、ユキ、カイ、ルチアの分の席もある。レリアは俺の正面に座るのであろう。
ナタリア様が侍女を連れて出ていったので、アシルと二人になった。
「昨日は何があった?」
「俺はジスラン様とナタリア様に挨拶をしていた。そちらは?」
「クララ殿とエドゥアルド殿、ヴェラ殿アベル殿とその家族と宴会をしていた。義姉殿はどこかに行っていたがな」
「そうか。エドゥアルド殿とアベル殿は誰だ?」
「それぞれクララ殿とヴェラ殿の夫だ」
「そうか。どうであった?」
「歓迎はされていたと思うが、兄上の事をよく聞かれた。酒を大量に勧められたから、どういう人物か本当のところを確かめたかったのだろう。俺もファビオ達も、程度の差はあっても兄上を好いている。悪い印象は与えていないと思うが、断言はできん」
「そうか」
まあアシルなら酒も強いし、上手にやってくれているだろう。ルチアが変な事を言っておらぬと良いが、ルチアもルチアで酒を飲んでもほぼ素面なので言っておらぬと思っておこう。それにルチアの事はコンツェンからの亡命者としか伝えておらぬので、あまり信じられておらぬかもしれぬ。
まあ何とかなるであろう。




