第195話
妖魔導王軍と戦うのであれば、魔法戦となる。周りへの影響も考えねばならぬが、まあ海上にでも陣を張れば良い。幸い、クラウディウスが用意するキアラの軍勢は悪魔だ。ほとんどの悪魔は翼を持つので、海上で良い。ただ、アシルとルチアが飛べぬので、その点は考えねばならぬ。まあオディロンとロドリグの背に乗れば良いか。
こちらの戦力は俺とアシル、オディロンとロドリグ、ルチア、影狼衆、キアラの軍勢だ。
対して、妖魔導王軍の最大戦力は、妖魔導王、魔導王が十二名、準魔導王が百名以上、魔導士が千名以上だ。それに加え、妖魔導王直属の五百万、魔導王軍合計千二百万以上でその他も合わせると、合計二千万以上の悪魔だ。
悪魔一人ひとりの戦力の基準として、進化したばかりの上位悪魔の魔法は、低位魔族が五十年以上ひとつの魔法を極めた程度の強さ、だと言われている。つまり、水の悪魔であれば、水魔法のみを五十年間極めた者の実力を、進化したばかりの上位悪魔が有している。
その上で数千年、個体によっては数万年以上更に鍛えるのだ。雑兵と言えど、低位魔族では太刀打ちできぬ。
俺は七近衛を集めた。
ジュスティーヌとキトリーはこの城の防衛に、グレンとレンカはリンカ、アティソン爺と天女を連れて王都の防衛にあたるように伝えた。今回は俺の私戦であるので、王都の防衛は内密に行う。
クラウディウスにはキアラ軍の指揮を、セリムとヨルクにはレリア達の護衛を任せることにした。
今回の作戦も決めた。
まず、海上に陣を張り、ルカを囮として妖魔導王軍を海上に誘き出す。もちろんルカは、妖魔導王軍が現れれば、レリア達と同じ部屋に帰し、セリムとヨルクに護らせる。
そして、妖魔導王に話し合いが通じぬか試みる。話し合いが通じるのであれば、それで良いが、話し合いが通じぬのであれば、打ち破らねばならぬ。
作戦としては、俺がオディロンに乗ったルチアと共に、妖魔導王と魔導王三名を相手取り、ロドリグに乗ったアシルが魔導王七名を相手取る。呪魔導王と水魔導王には、妖魔導王軍と戦になる可能性を伝えておらぬので、適当な理由をつけて俺の異空間に閉じ込める。
クラウディウスとキアラ軍で残りの妖魔導王軍を相手にする。こちらは撃破する必要はなく、俺達の邪魔をさせぬようにすれば良いだけなので、任せられる。
ちなみにキアラ軍は回復の悪魔が三万、その他の悪魔が八万、天子族が一万の総勢十二万だ。
天子族についてだが、天使族の下位互換のようなもので、人狼と犬人、人虎と猫人のような関係だ。中には大国の君主を務める個体もいるらしい。また、天子族は天属性であるため、今回は有利に進められるであろう。
「リリーとスイを呼べ。話がある」
俺は誰もおらぬ部屋にリリーとスイを呼び出した。適当に話をして、適当な理由をつけて異空間に帰ってもらう。
「私に何か御用でしょうか」
「ああ。魔導王についてだ。それぞれの能力と配下の戦力を教えてくれ。俺は準妖魔導王のくせに、妖魔導王様のことを知らなさすぎると思ってな」
「承知しました」
スイが説明してくれた。
水魔導王スイ・ルー。水中戦を得意としており、陸上でなら非魔法兵三百万、水中でなら非魔法兵五百万程度の戦力だそうだ。
水魔導王軍は水の悪魔が九十万、その他の悪魔が二十万、合計百十万。
呪魔導王リリー・ディミー。永遠の命を持ち、寿命を代償とした呪殺を得意としている。非魔法兵百万程度の戦力ではあるが、本領は暗殺でこそ発揮される。
呪魔導王軍は七十万の兵士と三十万の召使いが所属しており、合計百万。
歪魔導王ワイ・ディホーム。謎に包まれた人物で、天属性の暗殺を得意としている。非魔法兵二百万程度の戦力だそうだ。
歪魔導王軍は各世界に散らばっており、詳細は不明だが、数は二百万。
炎魔導王エン・ファーム。火魔法を得意としており、火口の中であろうと生活できる。非魔法兵八百万程度の戦力だそうだ。
炎魔導王軍は炎の悪魔が九十万、火の悪魔が百二十万、合計二百十万。
土魔導王ドチト・ソルテ。土魔法を得意としており、ゴーレムなども扱う。単騎で非魔法兵二百五十万、ゴーレムを扱えば非魔法兵二千万程度の戦力だそうだ。
土魔導王軍は土の悪魔八十万、その他の悪魔二十万、ゴーレム二百万(最大)、合計百万~三百万。
風魔導王フウ・トーペント。風魔法を得意としており、姿や気配を消したりできる。非魔法兵三百五十万程度の戦力だそうだ。
風魔導王軍は風の悪魔百万、その他の悪魔十万、合計百十万。
雷魔導王ライ・トゥネール。雷魔法を得意としており、光の速さで戦場を駆け抜けると噂されている。非魔法兵九百万程度の戦力だそうだ。
雷魔導王軍は雷の悪魔二百万のみの、合計二百万。
重魔導王チョー・ラガリテ。重力操作系の魔法を得意としており、本気を出せば星同士を引き合わせ、衝突させることも可能だそうだ。非魔法兵五百万程度の戦力だそうだ。
重魔導王軍は重力の悪魔三十万、その他の悪魔八十万、合計百十万。
無魔導王ムーヴ・アニューリ。敵対者の存在を消し、目撃者の記憶を消すため、能力などは分からぬ。戦力も不明。
無魔導王軍はその他の悪魔百五十万のみの、合計百五十万。
念魔導王ネン・ウーキャル。念術と呼ばれる、修行によってのみ会得可能な技術を使う。非魔法兵十万程度の戦力であるが、魔力を消費せぬので永遠に戦える。
念魔導王軍は修行中の悪魔が百二十万、修行を終えた悪魔が十万、合計百三十万。
悪魔導王アクォ・ムーヴィ。決まった技は無く、相手によって対応を変える。非魔法兵一千万程度の戦力だそうだ。
悪魔導王軍は戦闘系悪魔が九十万、非戦闘系悪魔が二十万、合計百十万。
天魔導王テン・パラディス。元々天子族であったが、悪魔の血を飲み、悪魔となった為、天力も有する。非魔法兵三百万程度の戦力だそうだ。
天魔導王軍は悪魔が百三十万、天子族が五千、合計百三十万五千。
最後に妖魔導王アリマーダス。唯一の妖魔導族であり、妖魔導王軍最大戦力。非魔法兵百億程度の戦力と言われているが、真実は分からぬ。
妖魔導王直属の配下は、空間の悪魔が三百万、妖魔導王の下僕が二百万、合計五百万。
全魔導王軍の合計が千六百六十万五千(二百万増の可能性あり)という事だ。
そして妖魔導王軍の合計は、少なく見積っても二千万は超えるという訳だ。
ちなみに非魔法兵の数は、一撃で消し去る事が可能と思われる非魔法兵の人数を魔力量から推定したもので、この数が正確かは分からぬ。ただ、一撃で数十万人以上を消し去る魔法を単独で撃てる者がこれだけいれば、世界を滅ぼすには充分だ。
もちろん、これら全てが今回の戦に参戦するとは限らぬが、やはり恐ろしいな。二千万など、大国が数ヶ国参加する大同盟ですら超えるか分からぬ。
「やはり魔界の感覚は分からぬな」
「逆に我々は人間界の感覚に慣れません。十万と聞いても少ないのではないか、と思ってしまいます」
「そうか。少しやってみたい事があるのだが、良いか?」
「何でしょう?」
「水魔導王軍と呪魔導王軍を異空間に入れた状態で、どれだけ魔法が使えるか、ふと気になってしまってな」
「それでしたら、すぐに集めましょう。少々お待ちください」
スイがそう言うと二人が出ていった。少々強引ではあったが、まあ良い。
「戻りました」
スイとリリーが戻ってきた。こんなに尽くしてもらっているのに、閉じ込めるのは気が引けるな。
「我が配下、水魔導王軍百十万、我が異空間に集合しております」
「我が配下、呪魔導王軍百十万、我が異空間に集合しております」
スイとリリーは背筋を伸ばしてそう叫んだ。妖魔導王軍では、こう報告するのが慣例なのかもしれぬ。
「分かった。では異空間に入れ」
「御意」
「失礼致します」
スイとリリーは俺の異空間に入った。セリムに聞いて訓練を積み、俺の許可無しで異空間の出入りができぬようになった。普段は許可を出したままだが、今回は許可を出さぬ。そして二人からの念話の受信もせぬ。申し訳ないが仕方ない。




