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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第192話

 走り出してしばらくすると、レリア達が乗った馬車が速度を緩めているのが見えた。護衛の騎士の誰かが気付き、アルフォンスが指示したのだろう。

 俺は虎化し、そのままの勢いで馬車の屋根に飛び乗った。すると、馬車の中から槍が三度突き出された。一突き目はかわせず、腹を貫通してしまった。痛みはあるが、すぐに治った。この体はやはりすごいな。医者要らずだ。


「曲者だ!アルフォンス殿、屋根の上だ!」


 クノイチの攻撃か。良かった。先程の騎士崩れの賊に乗っ取られていたらどうしようかと思った。


「俺だ。このまま城まで走れ」


「よろしいので?!」


「良い」


 俺は人の姿に戻り、アルフォンスにそう指示をした。少々行儀悪いが、もうすぐで着くのでこのままでも良かろう。


 城が見えてきた。

 既に城門は開いていたようで駆け込んだ。俺は屋根から飛び降りて馬車の扉を開けた。


「レリア、行こう」


「ジル、先に行ってあげて。あたしは後から追いかけるから。ね?」


「ああ。すまぬ」


 俺はウルの部屋に向けて走り出した。


 ウルの部屋の前にはエルフが見張りとして立っており、ウルファーを中心としたウルを心配して集まった者の侵入を拒んでいる。


 ウルの部屋の扉を開けると、テクジュペリの張った結界でウルが隔離されている。フーレスティエはウルの炎を水魔法でどうにか抑え込もうとしているようだ。

 ウル自身はフーレスティエ達が遊んでくれていると思っているのか、いつものように楽しそうに笑っている。熱がってはいないようだ。一先ず安心した。


「フーレスティエ、何があった?」


「ジル様、おかえりなさいませ。詳しくは分かりませんが、炎に包まれてしまったようです。詳しくはレノラ殿にお聞きください」


「レノラはどこに?」


「ここにおります」


 レノラは邪魔にならぬように座っていた。


「朝、泣いてしまったのであやしていると、いきなり炎に包まれてしまいまして…私が炎に触れると熱いのですが、ウル様自身は熱くないようです。それに布などにも燃え移らないようで、それだけが救いです」


「そうか。フーレスティエ、セリム達には連絡したのか?」


「いえ…セリム様に念話を出来る者がいませんので…」


「そうであったか」


 念話は相手の魔力を知っていなければ、繋がらぬ。俺は見ただけで相手の覚えられるが、普通は覚えられぬ。どうやって覚えているのかは知らぬが、初対面でいきなり念話を使うのは難しいらしい。


 自分の意思に魔力を込めて垂れ流せば、近くにいる者には伝わるが、それでは意味がない。いや、ろう者や何らかの事情で声を発せぬ者などには有効だが、それ以外には使い道がない。

 しかもこれは魔力をとてつもなく消費する。俺が全魔力を使ってやったとしても、サヌスト国内にいる者に一文を伝えるので精一杯だ。人間の魔力では目の前にいる相手に一音伝えるので精一杯であろう。


 とにかく、セリムには連絡していないようだ。俺からしてみよう。


 セリム、聞こえるか。


 ───聞こえます。何か御用でしょうか───


 ああ。直ちにスイを連れて戻れ。ウルを診てもらいたい。


 ───御意。呪魔導王様はよろしいですか?───


 どちらでも良い。


 ───は───


 では頼んだ。


 スイがいれば水魔法で抑えられるだろう。少なくともフーレスティエよりは水魔法に長けている。


「セリムを呼んだ」


 そう言った瞬間、セリムとスイ、クラウディウスとリリーが転移してきた。……俺も転移で戻れば良かった。わざわざ馬車で帰る必要はなかったのだ。焦っていて思いつかなかったな。


「セリム、ウルはそこだ。スイ、フーレスティエと代われ」


「「御意」」


 セリムとスイがウルの方に向かうと、フーレスティエとテクジュペリが退き、結界と水魔法を解除した。


「これは…」


「何か分かったか?」


「これは病などではありません。むしろ逆です」


「と言うと?」


「その身に余す程の魔法の才能を有していた場合、稀に魔法をその身に纏います。そして多くの場合は自身の才能に殺されてしまいますが、ウル様は完全に制御されています」


 ウルがこの魔法を制御できなかった場合、ウルは死んでいたということか。何と恐ろしい。だが、制御出来ているのであれば良かった。


「そうか。どれ程の事なのだ?」


「三万年の訓練で炎魔導王エン・ファーム様に匹敵する可能性すらあります」


「いや、そうではなくてだな。何人に一人、とかはないのか?」


「低位魔族に限った話ですと…仮に毎年十兆人が生まれる世界があった場合、五億年に一人生まれます。つまりおよそ五十垓人に一人です。それも全ての魔法、生活魔法などが含まれておりますので、攻撃魔法に限っていえば、更に確率は低くなります」


「そうか。ちなみに五十垓人に一人というのは、発現する人数か?」


「はい。制御出来る者はその中でも千人に一人程度でしょう」


「そうか」


 桁が大きすぎてよく分からぬが、ウルはかなり稀有な存在という訳か。


「つまりもうウルは大丈夫という事だな?」


「はい。魔法使いとして成長なされば、大成なさるでしょう」


「そうか。それは良かった」


 俺はウルに近づき、炎を触ってみた。確かに熱い。鉄くらいであれば溶けるであろう。俺以外であれば、かなりの重傷だ。確かレノラが触って熱かったと言っていたな。治してやらねば。


「レノラ、今更だが怪我は無かったか?」


「ありますけど、大丈夫です」


「見せてみよ。酷ければ治してやる」


「ですが、ジル様にそのような事をして頂く訳にはいきませんので」


「気にするな。我が義弟のやった事だ。責任くらい取ろう」


「ではお願い致します」


 レノラはそう言って腕を差し出した。袖を捲って見てみると、両腕の肘あたりまでが焼け、骨が所々見えている。レノラが人狼でなければ、死んでいた可能性すらあるな。

 俺はレノラに回復魔法を使い、腕を治してやった。


「痛かったろう。炎が消えぬのであれば、俺が面倒を見よう」


「いえ、大丈夫です。私の責任ですので」


「そうか。まあ無理はするな。必要があれば言え。人でも物でも用意しよう」


「ありがとうございます」


 レノラはこんな目に遭ってもウルを恐れてはいないようだ。普通は恐れてしまって近づけぬであろう。


「大丈夫だった?」


 レリアがイリナを連れて来た。息が切れているところを見ると、走ってきたようだ。それにしては少し遅いようだが、レリアはあまりこの部屋には来ぬので迷ってしまったのかもしれぬな。レリアがウルと遊ぶ時は大抵俺の部屋に連れてきてから遊ぶ。


「大丈夫だそうだ。ただの才能だそうで、病ではないそうだ」


「どういうこと?」


「その身を滅ぼしそうな程強大な才能を有していますが、その才能をも御してしまったのです。体外に溢れ出てしまっていますが、魔導具で温度を抑えられます」


「そうなの?大丈夫ならよかった」


 セリムはレリアにそう説明した。魔導具の話など俺も聞いておらぬぞ。まあ良い。


「アティソン爺に頼むのか?」


「はい。アティソン爺は炎の才能者の依頼を受けたことがあります。その時は見事、炎の低温化に成功しています」


「では頼んでおいてくれ」


「御意。では失礼」


「ああ」


 セリムとスイは部屋を出ていった。ちなみにアティソン爺と天女はこの城の一室を与えてある。聖都に引っ越したら、ちゃんとした工房を用意してやるつもりだ。


「ところでジル様、その方は?」


 フーレスティエがイリナを指してそう言った。確かに一人だけ知らぬ者がいては気になるか。


「レリアの妹のイリナだ。色々あってこの城で匿うことにした」


「あ、よろしくお願いします」


「姫様の妹君でしたか。フーレスティエです。どうぞお見知り置きを」


「どうも」


 イリナはフーレスティエに向けて軽く会釈した。レリアの服を掴んでいる。意外と人見知りなのかもしれぬな。


「では解散だ。世話になった。礼を言う」


「は。失礼致します」


 フーレスティエとテクジュペリが一礼して出ていった。


「レノラ、ウルの炎が熱いままであれば、俺が面倒を見るぞ」


 ウルは耳、髭の先、尻尾の先、そして背骨に沿って背鰭のように燃えている。また、たまに腕も燃えるし、その他の場所も無作為に燃える。先に挙げた四箇所以外、規則性はないようだ。

 つまり、ウルに触れた瞬間にその箇所が燃えるかもしれぬ。俺でなければ、危険だ。


「ジル様、お願い致します。出来る限りお支え致しますので、ウル様をよろしくお願い致します」


「ああ」


 アティソン爺の魔導具がどれくらいで出来るのかは分からぬが、それまでは俺が面倒を見ることとなった。

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