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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第187話

 その後、右耳の小包をリノ殿の机に置いたことをエヴラールに伝え、詰め所を出た。

 詰め所を出る際、衛兵に隊長室で何があったのか聞かれた。リノ殿には悪いが、リノ殿が逆上して俺を斬ろうとし、勝手に転んで気を失った事にした。義兄がやった事なので表沙汰にするな、罪には問わない、と言っておいた。未遂なので無いとは思うが、俺の知らぬところで勝手に処刑でもされたら寝覚めが悪い。


 詰め所を出たところで気づいたが、既に影狼衆が数名、護衛に来ているようだ。姿は見えぬが、人混みに紛れている。

 影狼衆は正面から戦っても強いが、暗殺や奇襲の方が向いている。なので、イリナが襲われそうになったら、辻斬りを斬るだろう。いや、辻斬りと分かった時点で、殺すか。その許可は出ているはずだ。


 ちなみに影狼衆に新たに加わった者もいるそうだが、正確な数は教えてもらっておらぬ。まあ三百以下ではあると思うが。

 ラポーニヤ魔族の人狼と人虎のうち、子がおらぬ妻や年寄りなど、戦力としては心許ないが、遊ばせておくのはもったいない者が中心だと聞いている。まあ戦力として心許ないというのは、人魔混成団と比べた場合で、相手が人間の非魔法兵であれば、まず負けぬ。

 ヤマトワには『クノイチ』という女の乱破がいるそうだ。クノイチの術の情報も手に入れたそうで、その育成を行っているそうだ。どうやって術の情報を手に入れたか知らぬが、まあ知る必要はあるまい。


 今は先程行った服屋の姉妹店に向かって歩いている。数十年前、本当の姉妹が開店したそうだが、色々あって今の店主同士に血の繋がりはないらしい。


「お義兄さん、ホントにケガは無いんですか?」


 先程から何度もイリナがそう尋ねてくる。心配してくれるのはありがたいが、心配されすぎると少し面倒になってきた。


「何度も言っているであろう?リノ殿が勝手に転んだだけだ」


「そうだよ。それに兄さんが何千人いてもジルには勝てないでしょ?」


「ああ。非魔法兵では何人いても同じだ」


「でもほら、兄様って衛兵隊長だから、勝手に転ぶっておかしいじゃないですか。何かあったんじゃないですか?」


「運が悪かったのであろう。もしかすると、俺達を帰す為に、あえて逆上し、あえて転んだのかもしれぬ」


「そうだといいんですけどね…」


 イリナは『兄様にはそんな気遣いはできない』とでも言いたそうにこちらを見た。


「そういえば、いつ帰るの?」


「え?」


「仕事中じゃなかったの?」


 確かにレリアの言う通り、ずっとついてきている。俺とレリアの恋路を邪魔せぬので、別に良いが。


「辻斬りがいるって言われたら、一人で帰れないじゃん」


「安心せよ。既に護衛が付いている」


「そんなウソついて、私が殺されちゃったらどうするんですか?」


「いや、嘘ではない。そことそこにいる。あそこにもいるな」


 俺は一度立ち止まり、そう言って影狼衆の居場所を指さした。本来は居場所を明かさぬほうが良いが、イリナに証明する為だ。それに今指した者以外にも三名以上いる。


「気付いておられましたか」


 俺が指した三人が出てきて、跪いた。人狼二人と人虎一人だ。もちろん人化しており、いずれもクノイチだ。イリナの護衛ということで、気を遣って同性(クノイチ)にしたようだ。


「ああ。辻斬りが出ると聞いて警戒しておらねば、気付かぬ程度には隠れられていた。聞いているとは思うが、辻斬りの生け捕りは目指すな。必要であれば狼化や虎化も許可する」


「はっ」


「という訳で、護衛は既にいる」


「そうでしたね…帰んなきゃダメですか?」


「俺はレリアが良いのであれば良い」


「あたしもイリナが解雇(クビ)になったら可哀想だから言ってただけだよ」


「二人とも好きっ」


 イリナがそう言って俺とレリアに抱きついた。嫌な気はせぬが、街中でやることではない。すぐに離れた。


「あ、でも今日だけだよ。前から二人っきりで王都旅行に行けるって楽しみにしてたんだから」


「うん。父様にはいい報告しとくね。兄様がどんな報告しても、反対されないように」


「反対するなら駆け落ちするだけだよ」


「駆け落ちなんてやめてよ。兄様以外で仲良く暮らしたらいいじゃん」


「それもそうだ。仲良くできるならそうした方が良い。脅すような事はしないでくれると嬉しい」


「そんなつもりじゃないけど…」


「ねっ!そんなことより、早く行かないと、閉まっちゃうよ。二人は買い物が長いんだから。ほら、行こ!」


 イリナはそう言って、俺とレリアの手を引いて走り出した。どうせ手を引かれるならレリアに引かれたかった。

 クノイチ達はいつの間にか消えていた。


「子どもが出来たら、こんな感じかな?」


 レリアがイリナには聞こえぬであろう声でそう言った。確かに今のイリナは子どもみたいだ。


「かもしれぬな。ずっとこれでは大変だが、楽しそうだ」


「だね」


「ちょっとー、二人でコソコソ何話してるんですかー?」


「何も言っておらぬ」


「空耳じゃない?て言うか、ずっと走ってるの、疲れちゃうんだけど」


「あ、ごめん」


 イリナはそう言って歩き出し、俺とレリアの間に割り込んだ。レリアの息が切れ始めているが、イリナはそんなことはない。普段の生活の違いか、イリナが子どものように無尽蔵の体力を持っているか、どちらかだろう。


「私は子どもじゃないんで」


「でもあたし達の間に立ってると、三人家族みたいだよ」


「家族でしょ?可愛い妹と姉夫婦、立派な家族じゃん」


「それもそうだね」


 レリアとイリナが話しているうちに、ペンツァーの姉妹店ペンタァーが見えてきた。詰め所に寄っていなければ、もう少し早く着いただろうに。


「着いたぞ」


 店に入ると、店の奥に飾ってある燕尾服が目に付いた。ペンツァーでは、ウエディングドレスが飾ってあった。姉妹店として連携しているのか。

 この店でも売子が出てきた。やはり何も話さぬようだ。


「ジル、あれ着てみてよ!」


「ああ。俺もそう思っていたところだ。売子殿、あれの試着をしたい」


「分かりました。こちらへどうぞ」


 売子はそう言って俺を試着室に案内した。レリア達は座って待っているように言われていた。


「ああ、ペンツァーからの紹介状だ」


「紹介状、ですか」


「ああ。ヘレナという売子に書いてもらった」


「ヘレナ、ですか?」


「ああ。知っているのか?」


「姉ですから」


「そうか」


 姉妹店で姉妹が働いているのか。店主同士ではなく売子同士に血の繋がりがあったようだ。

 それから売子は燕尾服を取りに行った。

 売子が戻ってくると、試着用の燕尾服を持ってきた。ウエディングドレスも一緒らしいが、展示用と試着用、販売用があるらしい。試着用を着てみて、販売用の微調整をするらしい。それゆえ、着替えを売子が手伝う。売子一人ひとりにそういった技術があるらしい。


 燕尾服を着せてもらった。鏡を見せてもらうと、なかなか似合っている。普段着に比べて動きづらいが、儀式用の服なので仕方あるまい。

 俺はレリア達が待っている所に行った。


「どうだ?」


「ジル、あたしに内緒で来てた?」


「いや、この店には来ておらぬぞ」


「それくらい似合ってる。ジルの真似しちゃった」


 レリアはそう言って笑った。愛い。可愛らしい。思わず抱きしめてしまった。なぜだろうか。いつも通りの可愛らしい笑顔だが、今日は抱きしめたくなった。


「ジル、見えないよ。もうちょっと見せて」


「ああ、すまぬ。つい」


 俺はそう言って離れた。俺もレリアのウエディングドレス姿を少しでも長く見たいと思って抱きしめなかったのだ。レリアも同じ気持ちなのかもしれぬ。


「うん。やっぱりいいね。今から式挙げちゃおうよ。あたしもドレス貰ってくるから」


「ああ。そうしよう」


「ちょっと待って、二人とも。本気で言ってる?あ、ますか?」


「いや、それくらいの気持ちだ、という表現ではないか」


「そうだよ。もしかしたら、あたし達みたいな二人の挙式中かもしれないでしょ?邪魔したら悪いじゃん」


「あ、そうだよね。そうですよね。びっくりした」


 半分本気であったが、レリアの言う通り、他の夫婦の挙式中であったら悪い。俺もレリアとの式中に邪魔されたら怒るし、恨む。


「売子殿、買おう」


「ありがとうございます。……脱がれますよね?」


「ああ。さすがにな」


 俺は再び試着室に行き、元着ていた服に着替えた。

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