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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第186話

 俺達はリノ殿に案内され、詰め所の隊長室に通された。俺とレリア、イリナ、リノ殿以外の者は部屋から出された。


「で、うちのイリナに何か用か?」


 リノ殿は俺を威圧するようにそう言った。逆にレリアとイリナに睨まれているが、本人は気づいておらぬようだ。

 こんな事を聞くために、わざわざアシルを訪ねて、俺を呼び出したのか。衛兵隊長も暇なのかもしれぬ。


「偶然会ったのだ」


「話した事がありましたので、挨拶だけでもしておこう、と。そしてあわよくば結婚を、と」


 イリナがリノ殿にそう説明した。王宮で仕える侍女と王都を護る衛兵隊長、どちらの方が立場が上か知らぬが、少なくともこの場ではイリナの方が畏まっている。


「姉の夫に手を出す妹と妻の妹に手を出す夫か。レリア、別れろ。イリナも手を切れ」


「妹の夫を無実の罪で捕まえようとしたのは誰?兄さん、これ以上ジルに文句言うんだったら、許さないよ」


「レリア、俺はレリアの為を思って言ってるんだ」


「じゃあ兄さんも衛兵辞めたら?そんなんじゃ、冤罪ばっか生まれちゃうよ。あ、言っておくけど、あたしも兄さんの為を思って言ったんだよ?」


「私も姉様に賛成します。兄様、衛兵を辞め、隠居なさってはどうでしょう?父様には私と姉様が言っておきます」


「お前ら!誰の為を思って言っていると思ってるんだ!」


「あたし達の事を考えてるんだったら、もう関わらないでよ」


「兄様、姉様もこう言っていますし、私もそう思います」


「恋は盲目という言葉を知らんのか!周りが止めるような恋は、だいたい問題がある!」


「兄さんこそ、ちょっとは考えたらどうなの?」


「何だと?」


 まずいな。兄妹喧嘩が始まってしまった。もしかすると、俺のせいかもしれぬな。

 殴り合いが始まりそうになったらリノ殿を殴って落ち着かせてやれるが、俺がいきなりリノ殿を殴ったら、ただの弱いものいじめだ。言葉でどうにか止めねば。


「リノ殿、レリアの為を思うのであれば、口を出さないでいただきたい。リノ殿が隠居なさると言うのであれば、止めませぬ」


「貴様ぁ!誰に向かってそのような事を!」


「リノ殿こそ。それにこのままでは、不幸になりますぞ」

 

 このままではリノ殿はレリアに嫌われてしまう。リノ殿はレリアを溺愛していたようなので、さぞ辛いだろう。この辺で止めねば。


「ジル、もういいよ。行こ」


「ああ。リノ殿、これをアシルに渡していただきたい。では」


 俺は小包を机の上に置き、部屋を出ようとした。


「貴様、逃げるのか!俺如きを説得できんで、よくもレリアを娶ろうとしたな!」


 こんな事を言われては引き下がる訳にはいくまい。だが、このように感情的になっている者には正論は通じぬ。面倒だ。


「レリア、イリナ。少し待っていてくれ」


「うん。何かごめんね」


「レリアが謝ることではあるまい」


「お義兄さん、あれでも兄様は結構強いですから」


「安心せよ。タディールでの会話を忘れたか」


「忘れてませんよ。じゃ、待ってますんで」


「ああ」


 リノ殿が暴れたら困るので、レリアとイリナには出ていってもらうことにした。ここは衛兵の詰め所だ。ヴァルンタンが刺客を送り込んできたとしても、ここでは仕掛けて来ぬだろう。


「貴様!俺を無視して、あまつさえ、レリア達を隔離するか!」


「リノ殿、話したい事があるのであれば、まずは落ち着かれよ」


「何を抜かすか!だいたい貴様は何だ?使徒だと?笑わせるな!現王陛下に取り入っただけだろ!」


 色々な方面に失礼だな。訂正してやらねば、リノ殿も大変な事になる。


「不敬ですぞ。俺はヴォクラー神が遣わした使徒だ。教会にも認められているし、そのうち教皇にもなる」


「そんな事、いくらでも偽装できる!教会と現王陛下が組めば、それくらいは簡単だ。それに貴様が使徒であったとして、なぜレリアを娶ろうとする?他にもいい女はいるだろ!」


「使徒であろうと恋はする。そして俺は今までレリア以上の女に出逢った事がない」


「それじゃ、何だ。レリア以上の女と出逢えば、レリアを選んでそいつを選ぶのか?」


「よく聞かれよ。レリアとは今までの想い出がある。例え、俺と出逢った頃のレリア以上のいい女がいたとしても、レリアを選ぶ。レリアとは今までの想い出がある上、今まで互いに愛を深め合った」


「黙れ黙れ黙れ!これ以上、レリアに厄災を振りまくのであれば、俺がこの手で貴様を討ち滅ぼす!」


 リノ殿はそう言って剣の柄に手をかけた。俺は魔法が使えるとは言え、丸腰だ。丸腰の公爵相手に衛兵隊長が剣を抜き、攻撃したら、リノ殿だけの問題ではなくなるな。色々と飛び火してレリアまで罪に問われたら大変だ。そんな事は有り得ぬだろうが、もしかするともしかするかもしれぬ。


「やってみるが良い。だが、丸腰の公家貴族を討ち滅ぼして楽しいか」


「安心しろ。貴様を殺したら、俺も自害する。貴様が地獄の炎に焼き尽くされるのを、この目で見届けてやろう」


「そうか」


 俺はそう言ってリノ殿を殴った。俺は丸腰で、リノ殿は武装をして、更に剣を抜いているのだ。先制攻撃くらい良かろう。

 リノ殿はよろめき、転び、そして頭を打って気を失ってしまった。

 俺は部屋を出た。このまましばらく寝ていれば、頭も冷えるだろう。

 しまったな。つい出てきてしまったが、リノ殿がレリアの父上に変に報告したら大変だ。だが、今更戻ってももう遅いな。イリナからの報告で相殺されることを祈ろう。


「ジル様、お待ちしておりました」


「エヴラールか。何かあったか?」


 エヴラールが来ていた。レリア達と一緒に待っていた。

 エヴラールは現在、俺の代理として儀式などに出席している。アシルに任せようかとも思ったが、アシルはアシルで使徒補佐という立場があり、それも結構大事な立場なのでエヴラールに任せることにしたのだ。


「いえ。アシル様が様子を見てくるように、と」


「そうか」


「辻斬りの件は聞かれましたか?」


「いや、初耳だ。いるのか?」


「はい」


「閣下、話されるようでしたら、こちらへどうぞ」


「すまぬな。ああ、それとな、リノ殿の介抱をしてやれ。転んで気を失った」


「ははっ」


 衛兵の一人が気を利かせて机に案内してくれた。リノ殿は衛兵に任せておけば良かろう。

 流れでレリアとイリナも同席したが、二人に聞かせても良い内容か?辻斬りなど王都旅行を不安にさせるだではなかろうか。まあ辻斬り如きには負けぬが。


「で、辻斬りであったな?」


「はい。その辻斬りの目的は分かりません。顔を隠していて顔を見た者もおりません」


「同一犯ではないのではないか?」


「いえ、手口が全く同じなのです。まず、退役した兵士のみが狙われています。そして、右耳と銅貨一枚のみを奪うと、被害者の太腿に短剣を突き刺します」


 退役したとはいえ、兵士から右耳を奪うのか。相当な手練のようだ。そういえばタディールにいる時に届けられた小包にも右耳が入っていた。今はリノ殿の机の上に置いてあるので手元に無いが。


「目撃者はおらぬのか?」


「それが…衛兵を呼びに来た者以外、覚えていないと申すのです」


「そうか。何人やられた?」


「少なくとも三十人以上は。それと被害が報告されているのは今朝からです」


「今日だけで三十人以上か」


「はい。それと、こちらを」


 エヴラールは布に包まれた短剣を差し出した。太腿に刺されたという短剣か。


「俺に見せてどうする?」


「ここを」


 エヴラールが指さしたところを見ると、短剣の刃に文字が彫られている。『新公爵閣下、御命頂戴仕る』と下手くそな字ではあるが、サヌスト語でそう彫ってある。


「俺の事か」


「はい。新公爵と言えば、ジル様以外にはおりませんので」


「そうか。ならば辻斬りに伝えておけ。新公爵は逃げも隠れもせぬ、市民を巻き込むな、と」


 狙いが俺なのであれば、やりやすい。俺が倒せば良いだけだ。

 それに目撃者が辻斬りを覚えておらぬのはおそらく魔法だ。幻覚系の魔法を使える上、退役兵士に勝てる者。非魔法兵では勝てまい。


「……は?」


「ジル、辻斬りの居場所が分かるんだったら、最初っから捕まえてるでしょ」


「確かにそうであったな」


 リノ殿を落ち着かせるのに疲れてしまったか。まあレリアといればそのうち疲れは無くなる。

 それにしても、辻斬りが俺の事を狙っているのであれば、レリアやイリナが危ないかもしれぬな。レリアは俺がずっとそばにいるとして、イリナはどうしたものか。


「エヴラール、アシルに伝えろ。影狼衆をイリナの護衛に回せ、と」


「聖騎士を護衛につけましょうか?」


「いや、良い。魔法には対応できまい」


「そうでした。アシル様に伝えておきます」


 影狼衆であれば、魔法にも対応できるだろう。そもそも人狼だ。並の人間には負けまい。


「それとイリナ、不安であれば、アシルに匿ってもらえ。俺の実弟だ。実力は保証する」


「いいんですか?そんな凄い人が私の護衛なんて。身内ばっかり庇ってるように見られますよ」


「良い。レリアを不安にさせまいと思って黙っていたが、俺はとあるヴェンダース人に狙われている。なぜ辻斬りをしているかは知らぬが、おそらくその者が送り込んだ刺客だ。そうでなくても、身内を特別扱いして何が悪いか」


「そうなんですね。じゃあ、ありがたく匿ってもらいます」


「ああ」


 思い違いであれば良いが、同時期に事が起こりすぎている。ヴァルンタンからの宣戦と銅貨一枚の辻斬り、大量の右耳、そして何者かの追跡。おそらく全てヴァルンタンが手を引いている事だろう。


「ねえ、もしかして昨日言ってた寝酒って、その事を話してたの?」


「ああ。レリアを不安にしてはならぬと思って黙っていた。申し訳ない」


「それは…いいんだけど、ヴェンダース人に狙われるようなことしたの?」


「ああ。レリアと出逢う前、狩りに出掛けたら、色々あってジェローム卿が軍を連れて出向くことになった。色々あって森を捜索していると、ヴェンダース軍を見つけたが、小競り合いの末、追い返した。その時、俺とモーゼス将軍とで一騎討ちをした。結果は分かるだろうが、俺が勝った。そして、どうやらそのモーゼス将軍の長子ヴァルンタンに恨まれてしまい、狙われているようだ」


「つまり逆恨みってこと?」


「そういう事だ」


「じゃあ、大丈夫だね。あ、それからこういう事は教えてよ。あたしも心の準備が出来るし、ジルも動きやすくなるでしょ?」


「ああ。次からはそうする」


 確かにレリアの言う通り、いきなり襲われるよりも刺客が来る可能性を先に伝えられていた方が心の準備は出来る。もし刺客が来なければ、笑い話で終わる。次からは気をつけよう。

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