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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第183話

 俺とレリアは手芸屋を出て、服屋に向かった。

 途中で昨日と同じ果物を買って食べた。甘くて美味しかったが、何という名か聞くのを忘れてしまった。まあまた食べられるだろう。この辺りではよく売っているようだ。


「あ、ここだよ、ここ。ベンツァーってお店」


「ああ。行こう」


「うん」


 服屋に入ると、奥から女の売子が出てきた。この店は女性ものが多いようだ。

 売子は出てきたが、話しかけては来ぬ。見ているだけだ。盗まぬように見ているのか?


「あ、ジル、あれ見てよ、あれ」


 レリアが店の奥に飾られているウエディングドレスを指さした。レリアの為に作られたのかと思うほど、似合いそうだ。


「俺に内緒で王都に来たのか?」


「ん?なんで?」


「レリアの為に作られたのではないかと思うほど似合いそうだと思ってな。いや、そうに違いない」


「来てないよ。あ、でもサイズ的にはピッタリあいそうだけど…」


「ご試着なさいますか?」


 売子が近づいてきてそう言った。この一言の為にいたのか。


「いいんですか?着てみたいです!」


「ではこちらへどうぞ」


「じゃあ行ってくるね」


「いや、俺も…」


「旦那様はそちらで掛けてお待ちください」


「ごめんね。ちょっと待ってて」


「…ああ。気を付けよ」


「うん」


 俺は売子に言われた椅子に座って待つことにした。

 ここからでは試着室は死角になる。心配だ。何かあるとは思わぬが、想定外のことが起こらぬとは限らぬ。


「あ、あの!」


 俺がソワソワしながら待っていると、女に話しかけられた。レリアよりも若いだろう。そして何となくレリアに似た雰囲気を感じる。


「何だ?」


「し、使徒様でございますよね?」


「ああ。俺がジル・デシャン・クロードだ。すまぬがおぬしは誰だ?」


「イリナです!覚えていないと思いますが…王宮で一度お話したことが…」


 イリナとは確かレリアの妹の名で、王宮で侍女をやっているはずだ。そしてこのイリナは王宮で話したと言う。


「………アルフレッドに襲撃された後か?」


「はい!覚えていてくださったんですか?!ありがとうございます!」


「ああ。何とか思い出した」


「嬉しいです!あの、握手してください!」


「握手か?まあ良いが…」


 イリナと名乗った女は俺の手を握ると俺の横に座った。

 レリアの妹かどうかをはっきりさせておこう。願いを聞いてやったのだ。質問するくらいよかろう。


「何と呼べば良い?」


「イリナ、と呼んでください」


「ではイリナ。俺からひとつ聞かせてもらう。レリアと言う姉がいるな?」


「何で知ってるんですか?」


「リノ殿と言う兄もいるな?それからリアン様も。弟妹にジェレミとイリスもいる」


「もしかして…」


「ああ。おそらくその通りだ」


 どうやらイリナも分かったようだ。どうやらレリアの夫ということが伝わったようだ。


「私の事をそんなに調べてくださって…不束者ですがどうぞよろしくお願いします!」


「ああ。よろしく頼む」


「はい!」


 イリナはそう言って握っていた俺の手を抱き締めた。勘違いをされているような気がしてきた。


「ちょっと待ってくれ。勘違いをしておるまいな?」


「と言うと?」


「俺はレリアの夫だ」


「じゃ、じゃあ、お姉ちゃんの次でもいいです!」


「いや、次とかではなくてだな…」


 困ったな。レリアの家族には強く言えぬぞ。もし何かあったら大変だ。そうでなくてもレリアの家族は大切にしたい。


「ジル、お待たせ!ど…う?ちょっとー!」


 ウエディングドレスを着たレリアが来た。普段より数段美しい。いや、普段も美しいが、何と言うか、やはり着飾った方が良い。


「レリア、今から教会に行って式を挙げよう。今すぐ挙げたい」


「ちょっと待って!何でジルとイリナが一緒にいるの?て言うか、なんでくっついてるの?」


「む。そうであった。イリナ、離してくれ。今からレリアと結婚式だ」


「私も一緒に挙げたいです!」


「ちょっと、ジル!あたし一人しか妻は迎えないんじゃなかったの?!」


「お姉ちゃん。よろしくね」


 まずいな。二人とも勘違いしてしまっている。少々強く言わねばわからぬか。


「イリナ、まず手を離せ」


「あ、ごめんなさい」


「レリア、まずはイリナの誤解から解かねばややこしい。すまぬが少し待ってくれ」


「ここで話してよ」


「ああ」


 俺はイリナの方に向き直った。


「俺はレリアとしか結婚せぬ。すまぬがおぬしは他を当たってくれぬか」


「つまり、お義兄さんになるってことですよね、私の」


「ああ。そういうことだ」


「お義兄さんの子どもを産んじゃったら、どうなりますか?」


「いや、産まれぬ。そもそもそういう関係にならぬ」


「じゃあ、せめて近くにいたいんで、お義兄さんが雇ってください。報酬は体に払ってください」


「体が悪いのか。どこが悪いのだ?」


「うーん、脳みそが悪いかもしれないです」


「そうか。今度、俺の侍医に紹介しよう。レリアの家族なら特別だ」


「ありがとうございます!」


 良い感じに話がまとまった。姉の夫、つまりレリアの夫ということが分かると、ルチアのような距離感になったが、まあルチアと違って引き時を弁えているようなので良い。それにレリアの妹だ。ルチアとは全く違う。そしてルチアと違ってちゃんと冗談が通じた。いや、ルチアもたまには通じるか。


「そういう訳だ。レリア、どうか誤解しないで欲しい」


「分かったけど…そもそも何で一緒にいるの?」


 確かになぜイリナと一緒にいるのだ。もしかすると後をつけられていたのかもしれぬ。


「イリナに話しかけられた」


「イリナ?」


「だってぇ、使徒様がいたから挨拶しておいた方が縁起いいかなって。話したことあったし。それにお姉ちゃんの旦那さんって知らなかったから、玉の輿を狙ったんだよ」


 金で選ばれただけであったか。確かに宮仕えならば使徒の金銭状況くらいは分かる。


「お金で選んじゃダメだよ。運命に従わなきゃ」


「でもでも、お金が無かったら飢え死にコースだよ」


「あたしはジルと一緒なら飢え死にコースでもいいよ」


「いや、ダメだ。せめてレリアだけでも食べてもらわねば、俺が嫌だ」


「例え話に惚気話を持ち込むのは重罪ですよ。お姉ちゃんもバカなの?」


「レリアをバカ呼ばわりするな。レリアはかなり賢しい」


「もっと言ってよ、ジル」


「ストップストップ!あの人困ってるよ」


「あ、どうも」


 売子が来てそう言った。売子の存在を忘れていた。


「ジル、お昼にイリナも誘っていい?」


「ああ。俺は構わぬぞ」


「じゃ、そういうことだから、イリナ、離れちゃダメだよ」


「え、王宮に帰らなきゃ怒られるんだけど」


「心配はいらぬ。俺が何とかしよう」


「あ、ありがとうございます」


 アシルに連絡しておけば良いだろう。それでもイリナが怒られるようであれば、望み通り俺が雇ってやろう。


「旦那様、どうでしょう?」


「完璧だ。買おう」


「ありがとうございます!では金貨百八十枚いただきます」


「レリア、他には良いのか?全然見ておらぬようだが」


「んー、ちょっと見ようかな。でもその前に着替えたいかな」


「ああ。もちろんだ。売子殿、頼んだぞ」


「はい、こちらへどうぞ。あ、ヘレナです」


「そうか」


 レリアと売子が試着室に戻ってしまったので、再びイリナと二人きりになった。


「…凄いですね」


「何の話だ?」


「金貨百八十枚ですよ?それを即決って…」


「いや、たった金貨百八十枚でレリアのウエディングドレス姿が見れるのだ。この何千倍でも出せる」


「百八十枚の千倍だったら…何枚ですか?」


「十八万枚ではないか?」


「そんな金額、脳みそが追いつかないですよ」


「そうか」


 金貨十八万枚でレリアのあの姿か…まあ妥当か。いや、少し安いくらいか。


「玉の輿って言うより、玉々のお輿って感じですね」


「どういう意味だ?」


「そんな大金持ちとは思ってなかったんですよ。それに玉の輿狙いなんてお姉ちゃんを黙らせるためのウソですよ、ウソ」


「そうか」


「お義兄さん、言ってくれたじゃないですか。『ギュスターヴの指示ならば仕方あるまい。呼び止めて悪かったな。何かあれば俺の名を出せ。全責任は俺が取る。何なら人生の全責任も取らせてもらおう』って」


 初対面の女にそんな事は言わぬぞ。それに段々と思い出してきた。確実にこんな事は言っておらぬ。


「いや、そんなことは言っておらぬぞ。俺は『遅刻したら俺の名を出せ』と言っただけだ」


「一緒ですよ。もうその言葉でズッキューンですよ。て言うか、そんな細かく覚えてくれてたんですか?私の事」


「いや、そういう訳ではない」


 どんどん懐かれている。まあ嫌われるよりは良い。リノ殿など、俺を盗人呼ばわりした上で捕らえようとしたのだ。それよりは良い。

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