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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第181話

 何事もなくホテル・ド・エスプレットに着いた。いや、本を二十冊も抱えていたので目立ったが、それ以外は何も無かった。

 ホテル・ド・エスプリットに着くと、部屋に案内された。ラポーニヤ城の俺の部屋よりは狭いが、王都の屋敷の俺の部屋よりは広いか。まあ正確に測った訳では無いので分からぬが感覚的にはそんな感じだ。


 夕食を待っている間、給仕が部屋に入ってきた。


「ジル様にお荷物が届いております。お持ちしてもよろしいでしょうか?」


「ああ」


 おそらく一軒目の本屋で買ったものが届いたのだろう。

 しばらくすると、木箱が五つ運び込まれた。


「こちらの差出人はアシル・クロード様です」


「アシルから?」


 木箱を開けてみると、金貨百枚ほどが入った皮袋が三十個ほど入っていた。そしてメモのような紙も入っている。


『兄上、遠慮はするな。パーッと使え。アシル』


 と書いてあった。普段は使いすぎるな、と言われるが何かあったのだろうか。寝る前にでも念話で聞いてみよう。


「こちらとこちらの差出人は第十七本屋です」


「第十七本屋?」


「一軒目の本屋さんだよ。王都の本屋さんはだいたい番号が店名なんだって。百年くらい前に本屋さんが流行ったんだけど、その時に店主の生年を店の名前にするのが流行ったんだって。ほら、ここに書いてあるでしょ」


 レリアはそう言いながら、ガイドブックの一部を指さした。

 確かに同じようなことが小さく書いてある。百年ほど前、時の国王が王都民の教養を深めようと本屋に対して異常なほどの支援金を配ったそうだ。

 初見では気付かぬくらいの大きさの文字で書かれている。よく読み込んだようだ。


 木箱を開けると、本が一冊ずつ丁寧に梱包されていた。梱包が丁寧すぎて二箱になってしまっているが、まあ良い。

 それにしてもこの短時間でこんなにもしてくれるのか。良い店だ。また行こう。


「こちらの差出人は…コンツェン王国の王弟リヒャルド殿下です!」


「…あの男が?少し待て」


 俺はそう言って手紙を書いた。ジュスト殿への謝罪の手紙だ。わざわざリヒャルドの荷物を俺に送ってきてくれたが、送り返してしまうことの謝罪だ。


「これを付けて送り返してくれ」


「承知致しました」


「で、最後の一つは?」


「差出人はヴァルンタン様です」


「ヴァルンタン?知らぬな。まあ良いか」


 ヴァルンタンとやらが送り付けてきた箱を開けてみると、蜜蝋漬けにされた生首と血塗れの短剣、それから手紙が入っていた。


「レリア、今日の寝巻きを用意していてくれぬか」


「別にいいけど、何で?」


「いや、俺は大丈夫だが、レリアはこれを見た後に食事をする気にはならぬだろう」


「じゃあ、待ってるね」


 レリアはそう言って荷物の方に行き、荷物を広げ始めた。


「おい、中身を確認せずに寄越したのか?」


「申し訳ありません。ですが、中身は確認せずにお渡しすることになっております」


「そうか」


 それならば仕方あるまいが、毒でも入っていたら危ない。

 俺は箱に入っていた手紙を読んだ。血文字で書かれていた。


 手紙の内容はヴェンダース王国のモーゼス将軍の長子ヴァルンタンが俺個人に宛てた宣戦布告だ。まあ無視でよかろう。

 もし兵を率いて攻め込んできたら、ドリュケール城を守るサミュエル卿とマニュエル卿が撃退してくれるだろう。いや、報告くらいはしておくべきか。


 手紙によると、この生首はヴェンダース国内のサヌスト人奴隷だそうで、拷問の末、殺されたそうだ。サヌスト国内に身内はおらぬだろう。陛下に報告し、丁重に弔ってやろう。


「王宮に伝えよ。この者を丁寧に弔ってくれ、と。それからこの手紙も陛下かヴァーノン卿に渡すように伝えてくれ。何なら一筆書こう」


「承知致しました。お願いします」


「分かった……一筆とは何を書くのだ?」


 俺は給仕に聞きながら一筆書いた。用件と俺の名、それから陛下に取り次ぐように書いた。


「では頼んだ」

 

「はい」


 給仕はそう言ってヴァルンタンが送り付けてきた箱に生首と手紙を戻し、部屋を出ていった。

 その給仕と入れ替わるように夕食が運ばれてきた。


「レリア、ご飯だ。もう見ても良いぞ」


「ちょっと待って。ジル、どっちがいいと思う?」


 レリアは俺の寝巻きを二着持ってきてそう言った。

 本当に選んでいたのか。生首からレリアを遠ざける為に言っただけだが、まあ嬉しいので良い。ちなみに二人とも犬人と猫人の職人に頼み、今日の為に寝巻きを用意してもらっていた。


「今日はそちらにしよう。左の方は明日の夜着る」


「わかった。じゃあ、置いておくね」


「ああ」


 レリアはベッドの上に寝巻きを置き、俺の隣に座った。こういう時は対面で座るものかと思っていたが、まあ良いか。


「では食べよう。いただきます」


「いただきまーす!」


 俺とレリアが食事を始めると、横で給仕が解説を始めた。それはどこの食材で、山奥にしか生息していないとか、成長に何年かかるとか、色々説明された。だが、それで料理の味が変わる訳では無いので、止めさせた。


「で、何が入ってたの?」


「まあ色々と入っていたが…聞かぬ方が良いぞ?」


「そんなこと言われちゃうと余計に気になるんだけど…あ、じゃあ、その代わりに明日はちょっと早く出ようよ」


「分かった。だが、代わりでなくとも早く出ても良いぞ」


「いいの。じゃあ今日は早く食べて早く寝なきゃね」


「それもそうだ」


 レリアが食事のペースを上げると、給仕が何か言いたそうにしていた。まあ何か言った訳では無いので無視で良いか。


 夕食を終え、レリアが選んでくれた寝巻きに着替えてのんびりしていると、給仕が俺を呼んだ。ヴァルンタンの件か。レリアには先に休んでいてもらおう。


「すまぬが少し行ってくる。寝酒が用意できたのかもしれぬ」


「寝酒なんて飲んでるの?」


「今日は特別だ。明日が楽しみ過ぎて眠れぬ。だが、休んでおかねば楽しめぬ。レリアも飲むか?」


「あたしはいいや。どんな夜でも寝転んだら眠くなっちゃうから」


「そうか。俺は寝酒を貰ってくるが、先に寝ててくれても構わぬぞ」


「うん。じゃあおやすみ」


「ああ。おやすみ」


 レリアはそう言うと寝転んでしまった。

 俺はとりあえず部屋を出た。レリアに聞かれてしまってはまずい。せっかく隠した意味が無くなる。


「で、何の用だ?」


「王宮から遣いの方がいらしております」


「そうか。別室を用意できぬか」


「別室にお通ししております。どうぞこちらへ」


 給仕はそう言って歩き出した。

 しばらく歩くと部屋に通された。その部屋にはアシルとヴァーノンの部下の文官、それから騎士が数名立っていた。


「待たせたな」


「休暇中に申し訳ございません」


「良い。兄上はそんな事を気にするような人ではない」


「いや、良くはないが今は何も言わぬ」


 俺はアシルと文官の前に座りながらそう言った。レリアに嘘をついて来たのだ。良いはずがなかろう。


「兄上、まず兄上があの決闘状を気にする必要はない。一騎討ちの結果には誰にも文句を言う権利はないからな」


「ああ。元々無視するつもりであった」


「で、あの首…ヴェンダースのサヌスト人奴隷の弔いは大司教猊下に頼んだ」


「そうか」

 

 大司教が弔ってくれるなら少しは魂が救われるだろう。まあ来世は良い人生を送ってもらいたいものだ。

 

「兄上。ここからが本題なんだが、ここに来ることを発表したか?」


「いや、俺はしておらぬ」


「だが、現にヴァルンタンの贈り物は届いている。それも初日に、だ」


「何が言いたい?」


「どこからか情報が漏れた」


「いや、極秘で来ている訳では無い。正式に休暇を頂き、正式な手順を踏んで泊まっているのだ。調べようと思えば調べられるのではないか?それこそヴァルンタン側にアシルのような者がいればすぐにわかるであろう?」


「確かにそうだが…その件についてはこちらでも調べておくが、旅行中は義姉殿から目を離すな。何があるか分からん」


「元よりそのつもりだ」


「今日詐欺られたのはなぜだ?離れたからではないのか?全く…」


 なぜ俺が騙された事を知っているのであろうか。まあアシルは俺の周りの情報を常に集めているようなので、今日も誰かが見ていたのかもしれぬ。


「いや、これからは離れぬ。何があろうと」


「明日は義姉殿のドレスを見に行くそうだな。気をつけろ」


「ああ」


「それだけだ。何かあれば連絡をくれ。誰かは駆けつける」


「分かった」


「では」


「最後にひとつ良いか?」


「何だ?」


「これはどういう意味だ?」


 俺はそう言ってアシルが送ってきた『兄上、遠慮はするな。パーッと使え。アシル』と書かれたメモを見せた。


「ああ、その事か。七月になったら忙しくなるからな。今のうちに遊んでおけ、という意味だ」


「おい、何をさせる気だ?」


「冒険者ギルドについて調査、魔法兵の育成、軍の改革、ヤマトワとの国交の仲介。王宮内の仕事だけでこれくらいだ。教会では別の仕事も待っているだろう」


 多いな。一人でする量ではない。そもそも今挙げられたものは全て国を挙げてすることで、一人に任せるようなことではない。


「…手伝ってくれるだろうな?」


「俺は俺で色々ある。兄上は兄上の仕事を、俺は俺の仕事をするだけだ」


「そうか。まあなんとかなるであろう」


「ああ。何とかしてくれないと困る。もういいか?」


「ああ。すまぬな、呼び出して」


「俺達が勝手に駆けつけただけだ。では」


「ああ。ではな」


 アシルが文官と騎士を連れて出ていった。王宮内では俺より顔が知られているのではないだろうか。

 それにしても文官は何をしに来たのだ?騎士は護衛で分かるが、文官がいる意味がなかったような気がするが…まあ良いか。

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