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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第178話

 リノ殿達としばらく睨み合っていると、王都の中から数騎が近づいてきた。先頭にはアシルがいる。後ろには名は知らぬが、見た事はある者がいる。文官も何人かいるな。


「兄上、何があった?」


「リノ殿…そこの隊長殿が通してくれぬのだ」


「あたしの兄さんなんだけど、全然話が通じないの」


 リノ殿を見ながらそう言うと、リノ殿が青ざめていった。さすがにアシルの顔は見たことがあるらしい。アシルは俺と違って王都に住んでいるから当然か。それにアシルが連れてきた者達もそれなりの役職に就いているようだ。おそらくあの中にはリノ殿の上官もいるだろう。

 それからアシルが連れてきた者達がリノ殿に、俺が本物の使徒で公爵であることが伝えた。そして俺もレリアと二人で、つまり護衛や従者を連れずに来たことを怒られた。せめて王都の中で解散しろ、と。


「…申し訳…ありません」


「いや、良い。公爵が護衛も連れずに歩いているとは誰も思わぬ」


 本来であれば、無罪とはいかぬだろうが、事情も事情なので、罪に問われぬ事となった。まあ俺が原因で、義兄となる人が罪人となるなど、気まずくなってしまうので良かった。


「レリアもすまなかった」


「あたしはしばらく許さないからね。あたしの事を最初から信じてたらよかった話じゃん」


「…それでいい。父上には秘密にしててくれたらそれでいい」


「言っちゃうよ。全部言うからね」


「勘弁してくれ…そうだ、お菓子を買ってあげよう。何がいい?」


 リノ殿は父上の事を恐れているようだ。それ程恐ろしいお方なのか?俺も怖くなってきた。

 それにしてもレリアはリノ殿を楽しそうにからかっている。俺はまだレリアと出逢って半年も経っておらぬが、リノ殿はレリアが生まれた頃からレリアを知っているのだ。リノ殿は俺が知らぬレリアの顔をいくつも知っているのだろう。


「あたしの事、いくつだと思ってるの?」


「二十…二か。大きくなったな」


「そうでしょ。それで兄さんは二十五でしょ。それならちゃんと責任くらい取りなよ」


「え、おい、こら。父上には言うな。言ったら鬼が出るぞ」


「出てもいいもん。鬼でも何でもジルが守ってくれるもん」


「ああ。例え魔王が復活しようと、レリアは守る」


「軟弱な公家貴族如きにそんな事ができるものか。レリアを娶るなら、うちの当主と次期当主に勝たねばならんぞ」


 初耳だ。だが、魔法を使えば、魔法を知らぬ者には負けぬ。安心だ。


「そうなのか」


「駆け落ちの準備でもしておくんだな」


「いや、公家貴族如きが武家貴族の頂点である将軍格家の当主を圧倒したら、悪評が広がるのではないか?」


「ふん。護衛に囲まれて強くなった気でいるようだが、本人はどうだ?」


「三月頃、城門を破壊されたであろう?」


「ああ。王宮が悪魔に襲撃された夜だな」


「あれは俺がやった。『お告げ』に従わぬ前王に警告してやったのだ。これ以上逆らうのであれば天誅を下すぞ、と」


「…ヴォクラー神から授かった力か?」


「一部はそうだ。だが、人間でも習得できる。そのうち正式に発表がある。その時に知ることになるだろう」


「ふん。黙れ黙れ。旅行に来たのではないのか。さっさと行け」


「ああ。ではまた後日」


「じゃあね、兄さん」


「楽しめよ」


「うん」


 俺は剣を返してもらい、リノ殿達と別れ、王都に入った。アシル達はまだ何か話があるようで残るそうだ。


 俺達はまずホテル・ド・エスプレットに荷物を置きに行かねばならぬ。荷物を持ったまま観光を楽しんだとされ、品がない行為となってしまうそうだ。まあこれは貴族の認識なので、平民には当てはまらぬ。朝から荷物を部屋に置いていくとなると、その分追加料金がかかってしまう。だが、貴族がそんな事を気にするようでは…と理由があったはずだが、まあ別に良い。


「ねえ、あれ食べよ」


「ああ。そうしよう」


 途中の屋台で朝ご飯を買い歩きながら、ホテル・ド・エスプリットに向かった。寄り道くらいであれば、品がない行為とはされぬだろう。まあ別に品がない行為をしたとしても、誰かに咎められる訳では無い。


 十軒ほどの屋台に寄り、朝ご飯を食べながら歩いていると、ホテル・ド・エスプリットに着いた。

 正装したホテルの者が道を作って待っていた。敷地内だけだが、二十名ほどいる。


「おはようございます」


「ああ。俺だ」


 俺は以前貰った札を渡した。アシルが予約の変更をした際に新しく貰ってきたものだ。俺が直接貰ったものはアシルが返しにきている。


「お待ちしておりました。お荷物をお預かりいたします」


「ああ。頼んだ」


「本日はご夕食はどうなさいますか?」


「レリア、どうする?」


「用意してもらったらいいんじゃない?」


「では頼もう」


「かしこまりました。それでは行ってらっしゃいませ」


「ああ。それは良いが、俺が来た時に俺と分かるのか?」


「ここにいる者はジル様、レリア様ご夫妻の担当でありますので、お二人のお顔を見れば分かります」


「そうか。では頼んだ」


 俺は荷物を渡し、レリアの助けを借りながら夕食の約束を取り付け、ホテル・ド・エスプリットを出た。


「じゃあ礼服屋さんに行こう」


「ああ。途中で気になる所があれば言ってくれ。時間ならある」


「ジルもね。行こっ」


 レリアは俺の手を引いて走り出した。この辺りは人が少ないようなので良いが、人通りが多い場所に行ったらはぐれぬようにせねば。

 人通りの多い場所に来たので、腕を組んではぐれぬようにした。

 礼服屋に着いた。この礼服屋はそれなりに調べてきたのだが、平民用のものから豪商用、貴族用のものもある。一階は平民向けの安い礼服が並べられており、二階は豪商向けに布が展示されており、三階には貴族向けに個室が用意されている。


「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」


「ああ」


 俺が名乗る前、しかも話す前に三階の個室へ案内された。なぜ分かったのであろうか。

 案内した者は部屋から出て行き、別の者が入ってきた。


「本日、担当させていただきますマルセルと申します。本日はどのようなご用向きでしょうか」


「礼服を十着ほど買いに来た」


「十着…ですか。それは奥様の分も合わせてでしょうか」


「レリア、どうする?」


「じゃあ、あたしは二着だけ買ってもらおうかな」


「では十二着だ」


「かしこまりました。ご要望等ございましたら、どうぞお気軽にお尋ねください」


「ああ」


 マルセルがそう言ってベルを鳴らすと、別の者が入ってきた。その者にマルセルが耳打ちで指示を出すと、部屋から出ていった。


「ただいま準備をさせておりますので、少々お待ち下さい」


「ああ」


 しばらくすると、五人が部屋に入ってきた。色々と道具を持ってきている。

 別室に連れていかれ、採寸が始まった。

 採寸を終えて部屋に戻ると、レリアも戻ってきた。レリアも別室で測っていたのか。


 手本の礼服を着た人形が五体並べられている。

 礼服と言っても種類があるらしく、場面によって変えねばならぬそうだ。

 俺は、普段着る執務用のものを四着、儀式用のものを三着、祝いの場用のものを三着、喪礼用のものを二着、普段教会に出向く為のものを三着買うことにした。予定より多いが、まあ別によかろう。

 レリアは五種類のものを全て一着ずつ選んでいた。まあ俺に比べて使う機会が少ないであろうから、一着ずつで良いのだろう。それに足らなければまた買えば良い。


 次に生地を選んだ。絹が良いらしいので、二人とも全て絹にした。流行っているらしいので、変に浮くということはあるまい。


 それから細かなデザインを決めた。全種類一着は流行りデザインにした。それ以外は任せた。宝石を散りばめたり、刺繍を凝ったり、マルセルが色々と考えて決めるそうだ。素人が口出しするよりは良かろう。


 最後に刺繍の為に名前と身分を教えてやると、かなり驚かれた。絹服を普段着にしているので貴族と分かったそうだが、まさか公爵とは思わなかったのだろう。

 念の為に紋章が入った短剣を見せてやると、あっさり信じていた。

 リノ殿も王都で衛兵をするならこれくらいの眼力はあって欲しいものだ。


 王都の屋敷の場所を教えてやった。

 完成次第、届けてくれるそうだ。だが、どれだけ急いでも二ヶ月はかかるそうなので、俺が着れそうな既製品をいくつか買っておいた。レリアのご家族に挨拶するために礼服を買いに来たのだが、間に合わぬのでは仕方ない。


 まとめて買ったおかげで割り引いてくれたが、それでも金貨六百枚ほどであった。いきなり持ってきた半分以上が減ってしまった。

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