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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第164話

 動き始めてからしばらくしたが、暇だったので、先程のオートン戦のように窓で外の様子を見ていた。

 この魔導具は窓と水晶玉の二つを対にして使う。水晶玉の周囲の映像が窓に映し出されるという訳だ。

 水晶玉は魔石を砕いて押し固めた球体のもので、表面の凹凸が少ないほど良質とされている。一方、窓は俺の知らぬ物質で出来ており、表面はヌメっとしている。

 水晶玉を設置さえすれば、窓の方で操作できる。違う方向を向けるのは難しいそうだが、一点を見続ける場合は操作無しで良い。


 今はクラウディウスと共に外の様子を眺めている。速すぎて何が映っているか分からぬが、何も無い所を見るよりは良い。


「ジル様、画家を探しておられたが、これではダメなのか?」


 クラウディウスが妙な事を言い始めた。動いていたら絵画ではない。言うとするなら怪画だ。


「何を言っている。これは絵ではないではないか」


「いや、これは画を動かす魔導具だが、画を止めておく魔導具もある。キアラ様はもう亡いから、この城にあるものはジル様のものだ。我らの命も含めて、だ」


 魔導具の操作をしている悪魔に一瞥されたが、キアラが生きている事は明かせぬ。向こうに戻ってからキアラに貰っても良いか聞けば良いのだ。


「そうか。その画を止めておく魔導具であれば、絵画が出来るな。見に行こう」


「こっちだ」

 

 クラウディウスが部屋を出たので俺も出た。振り返ってみると、扉には『作戦会議・様子見・その他諸々する部屋』と書かれた看板が掛かっていた。


「クラウディウス、あの部屋は色々する部屋なのか?」


「キアラ様は難しい言葉の部屋を作ろうとしなかった。キアラ様は『馬鹿にいちいち説明するより、馬鹿に程度を合わせた方が楽だわ。妾はもっと賢い言葉で部屋の名前を決めたいけれど、馬鹿が多いから…』と言ったそうだ」


「そうか。まあ分かりやすくて良いな」


「ジル様も我と同意見か」


 キアラも本当はあまり賢くないのかもしれぬ。だが、今キアラの悪口を言ったら、ここの悪魔に何をされるか分からぬ。

 しばらく歩くと、クラウディウスはある扉の前で止まった。


「我だ。ここに御座すは我らの新たな主、ジル・デシャン・クロード様だ。リン、覚えておけ」


「承認しました。どうぞ、お入りください」


 クラウディウスが扉に向かって話し掛けると、扉が返事をした。魔界には奇妙な生物がいるな。


「クラウディウス、あれは何だ?」


「リンだ。キアラ様に絶対の忠誠を誓い、扉に自らの魂を封じ込めた悪魔だ。キアラ様とキアラ様がお認めになった我ら七近衛しかここに入る事は許されない。ジル様はキアラ様の後釜だから認められたのだろう」


「そうか」


 俺とクラウディウスはそう言いながら部屋に入った。

 どうやらここは宝物庫のようだ。見たこともないものや、キアラが好きそうなものばかりある。


「どこだったか…」


 クラウディウスはそう言いながら、魔導具の山を漁り始めた。雑に漁るせいで、崩れてしまったが、気にしておらぬようだ。あれくらいでは壊れぬのかもしれぬ。


「あったあった。ジル様、これだ」


 クラウディウスはそう言って水晶玉とヌメっとした布、それから大きな箱と小さな箱を持ってきた。


「これがこっちで操作して、こっちで印刷する。使い方を教えて差し上げよう」


「分かった」


 どうやら大きい箱で操作し、小さい箱で印刷するようだ。仕組みは分からぬが、まあ仕組みなどどうでも良い。


「ジル様、ついてこられよ」


「ああ」


 クラウディウスはリンに挨拶をして部屋を出て、中庭に出た。花畑が広がっており、花を踏んでしまうかと思ったが、踏めぬようになっている。不思議な感覚だが、特殊な魔法でどうにかしているのだろう。


「ジル様、まずは我が使って見せよう」


「ああ」


 それからクラウディウスは作業を始めた。


 少し離れた場所に水晶玉を設置し、戻ってきた。

 ヌメっとした布を広げると、自立し窓になった。そして大きな箱から紐を出すと、窓の側面に刺した。紐の分だけ膨らんでいる。

 もう一本、紐を出すと、異空間から巨大な魔石を取り出して、紐を刺した。


「その魔石は何だ?」


「オートンの魔石だ。さっき解体して来た。我の戦利品だが、こんな物はさっさと使い切りたい」


「…そうか」


 先程まで生きていたオートンの魔石をこんな事に使って良いのか。まあクラウディウスが良いなら良いか。


 それから大きな箱を開いて、中をいじり始めた。

 箱の中には三十個以上のボタンと小さな窓がある。この窓には外気に含まれる魔素の情報や使用者、水晶玉の状態などが表示されている。

 クラウディウスがボタンを操作していると、自立している方の窓に水晶玉付近の風景が映った。


「これが第一段階だ。次は画角を変える」


 クラウディウスはそう言うと、また大きな箱をいじり始めた。何をやっているかは見ても分からぬので、自立している方の窓を見てみると、視界が動いた。俺達が映っている。


「これをこうすれば、こうなるはずだが…ああ、こうか」


「…大丈夫なのか?」


「できた。ジル様、水晶玉の方を見られよ」


 クラウディウスは立ち上がって俺の肩に手を回した。窓の中の俺達も同じ体勢になった。


「来るぞ…」


 クラウディウスがそう言うと、大きな箱から『カシャ』という音がした。


「できた。それから…」


 クラウディウスがまた作業を始めた。

 今度は小さな箱から紐を出して大きな箱に刺した。

 そして異空間からクラウディウスよりも大きい石版を取り出して立てた。分厚いので自立したようだ。

 それから小さな箱を動かしたり、大きな箱を操作したり始めた。


「動くぞ。見ない方がいい。目をやられる」


 クラウディウスがそう言うと、石版に向かって小さな箱から光が放たれた。眩しかったので、目を逸らした。


「出来た」


「見ても良いのか」


「遠慮などなさるな」


 振り返って見ると、石版に俺達が描かれていた。それも先程窓に映っていた姿勢で。


「これはどういう…?」


「これを紙にすれば、絵画になる。我はそう思ったのだが…」


「いや、こんなに本物に近い絵画などあるものか…」


「姫様のお姿をそのまま閉じ込めておけるぞ。下手な画家が下手な創作意欲を出して変な姫様になるよりは良いと思ったが…」


「確かにその通りだ。レリアは今のままで充分美しい。変に手心を加えるよりずっといい。いや、何と言うべきか…レリアはやはり絵画などに収まる美しさではないのだ。画家などにレリアを表現し切れるはずがない。いやぁ、画家を雇う前に魔界に来れて良かった。もしレリアを愚弄するような作品が出来上がってしまえば、その制作者諸共消し去ろうと思っていたが、レリアに少しでも似ていたら躊躇ってしまう…」


「ジル様、姫様への愛は姫様に直接語られよ」


「それもそうか。すまぬな」


「それと画家にも上手い奴はいる…かもしれん」


「そうであったな」


 確かに少し言い過ぎたかもしれぬ。

 それにしても風景をそのまま閉じ込めたり、遠くな離れた場所であろうとも水晶玉を通して見れたり、色々と使い勝手が良さそうな魔導具だ。


「クラウディウス、この魔導具の専門家はおらぬのか」


「この魔導具の専門家か…魔導具の専門家ならいるぞ」


「そいつをヒルデルスカーンに連れ帰る事は出来ぬか」


「我らの秘密を守れる奴を選ぼう。ジル様も共に行こう」


「ああ」


「誰か片付けてセリムかヨルクに届けておけ!」


 クラウディウスはそう叫んだ。誰の姿も見えぬが、誰かいるのだろう。


「こっちだ」


 クラウディウスはそう言って飛んだ。

 キアラの居城内は広いので、塔のような城しか気付かなかったが、他にも建物があるのか。


 しばらく飛ぶと、別の建物が複数見えてきた。集落になっているようだ。


「キアラ様が保護していた領民だ」


「領民がいるのか」


「キアラ様は特別だ。普通は自分の役にならん悪魔を拾ったりしないが、キアラ様は手当り次第拾った。領民として保護し、下級悪魔の面倒を見させた」


「そうか」


「他の悪魔は同族で徒党を組むが、キアラ様は使える奴も使えん奴も保護し、手下に加えた。数だけで言えば、魔界でもトップクラスだ」


「なるほど」


 そうして集めた領民に下級悪魔の世話をさせ、上級悪魔にする。その中に強者がいれば、軍に迎える。キアラは面倒見が良いのだな。


「クラウディウス様ーっ!」


 小さい悪魔が駆け寄ってきた。いや、飛び寄ってきた。小さい種族か。


「おう、アティソン爺はどこにいる?」


「いつもの工房にこもってるよ。それよりその人は誰?」


「我らの新たな主だ。正式な遣いがそのうち来るだろうから、それまでは内緒で頼むぞ」


「うん!じゃあね!」


「おう」


 クラウディウスも案外面倒見が良いのかもしれぬ。


「あの子は何だ?」


「上級悪魔だが、童の姿を好んでいる。我より七千年若いだけだがな」


「七千年…」


 ということはクラウディウスは七千年以上生きているということか。悪魔の感覚は分からぬな。時間と言い、距離と言い。

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