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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第163話

 俺がお茶を淹れていると、先程の侍女が戻ってきた。


「やはり匂いませんが?」


「そうか。ならば良い」


 この匂いが分からぬのはどうかと思うが、ずっと嗅いでいると慣れてしまって何も匂わなくなるのかもしれぬ。


「名乗らぬのか?」


「あ、失礼いたしました。リンカと申します」


「そうか。では説明してもらおう」


「何を、ですか?」


「ディプラスとは何か。オートンとは何か。クラウディウスとセリム、ヨルクはどこに行ったのか。俺が知らぬ事、全て話してもらおう」


「はい」


 リンカは大きな白い板を持ってきて説明を始めた。白い板に絵や図を描き、分かりやすくしようとしてくれているようだ。


 ディプラスとは、この星のような大きさの城を光より速く動かす為の魔導具らしい。

 妖魔導王の居城は、ここから直線で約三千光年離れた場所にあるらしい。普通に城を動かせば、数万年以上かかるらしいが、このディプラスを使えば半日で着く。しかも転移などではなく、ただ速く動いているだけなので、魔力消費が転移に比べて少ない。

 また、普通に光より速く動くと周囲が荒れるらしいが、ディプラスを使えば荒れぬらしい。


 オートンとは、キアラを狙う小悪党で、奪われたディプラスの元の所有者だ。

 元々ディプラスとは、とある悪魔が開発し、配下に持たせたもので、この世に四万個しか存在しない。四万個と聞くと多く感じるが、悪魔は多い。城を持つ悪魔だけでも億は超えている。

 キアラはオートンの居城からディプラスを奪い、遠く離れた場所に移動していたが、数千年かけて追いつかれたらしい。それにしてもキアラは数千年も生きているのか。ちなみにキアラの生存は、ヴォクラー神、俺、七近衛など本当に近しい者しか知らぬ。


 クラウディウスとヨルク、セリムの三人は魔力の解放に行ったらしい。

 何でも、七近衛は強力すぎる為、自主的にその魔力を封じているらしい。新たな主、つまり俺の自信を無くさせぬ為に。だが、俺が妖魔導王と会えば、会う前と比べて遥かに強くなるはずなので、魔力の解放をするらしい。

 また、リンカの見立てでは、俺も魔力の大部分が封じられているようだ。生まれたばかりであることを伝えると、暴走せぬように親(ヴォクラー神?)が封じ込めた可能性があるとの事だ。


 それ以外にも知らぬ事を教えてもらった。


 上位悪魔と下位悪魔の違いは、成体か幼体であるそうだ。

 悪魔の成長に時は関係せず、どれだけの悪魔を殺し、その魔力を吸収したか、が関係する。つまり、悪魔は悪魔を殺せば殺すほど、成長し、強くなる。ゆえに魔界では常に戦が起こっている。

 下位悪魔から上位悪魔になる為にはおよそ百の下位悪魔の魔力を吸収せねばならぬ。個体や種族によって違うが、多い種族でも五百体分も吸収すれば、上位悪魔へと進化する。また、下位悪魔が上位悪魔の魔力を吸収した場合、一体分で進化する。まあ下位悪魔と上位悪魔の間には絶対的な戦力差があるので、そんな事は悪魔史上一度もない。


 悪魔は聖地から生み出されるので、生みの親などは存在せぬ。有力な悪魔が、既に進化の条件を整えた下位悪魔を探し出し、自らの子として拾う。それから上位悪魔へと進化する。親は戦力増強や後継育成などの為、子は進化のリスク軽減の為に行われる。言わば契約だ。

 また、親に拾われる前に進化を終えた場合、孤児と呼ばれる。その多くはすぐに命を落とすが、生き残った場合、強力な悪魔となる。孤児を拾った場合は親子とは呼ばず、師弟と呼ぶ。ヨルクも師匠に拾われたと言っていた。


 悪魔はそれ以外の種族(神や天使、人間など)とであれば、子を産める。グル・ウィット・ジャビルは堕神であった為、ジャビラは母から生まれた。

 子を産む場合、ほとんどは卵から産まれるが、稀に母体から産まれる。この差がある理由はまだ解明されておらぬそうだ。また、悪魔が無精卵を産むことはなく、胎内で受精してから卵を産む、という流れらしい。

 悪魔から生まれた子は、最初から上位悪魔だそうだ。この理由もまだ解明されておらぬそうだ。


 悪魔は念話を応用して意思疎通を行っているらしい。

 耳などの聴覚を司る器官に念話の膜があり、それを介して言葉を聞けば、その意味が分かるというものらしい。この膜は全ての悪魔に備わっている。悪魔の体はそういう構造らしい。

 魔界に来てから悪魔の姿になっているので、俺にも意味が通じているという訳だ。俺にはサヌスト語に聞こえている。


 リンカから話を聞いていると、部屋にヨルクが入ってきた。


「…授業中でしたか」


「いや、良い。粗方の事は聞いた」


「そうでしたか。ジル様、クラウディウス様がお呼びです。真のお力をお見せしたい、と」


「分かった。リンカ、礼を言う。ではな」


「お気をつけてください」


「ああ」


 俺はヨルクを伴って部屋を出た。廊下に出てみて改めて思ったが、あの部屋の匂いはキツかった。


「クラウディウスは出掛けたのではないか?ディプラスの強奪に」


「ええ、順調のようです」


「そうか。で、俺に何を見せたい?」


「分かりません」


「そうか」


 何かわからぬのであれば、仕方あるまい。

 ヨルクについて行くと、巨大な窓がある部屋に着いた。いや、窓ではなく、魔導具のようだ。外の様子、クラウディウスがいる辺りが見えている。その魔導具を操る悪魔が五人ほど控えている。それほどまでに大きい窓だ。


「クラウディウス様、お連れしました」


「うむ!ジル様、我の真の力を見せて差し上げよう!」


 クラウディウスが窓の向こうから、俺に向けて手を振っている。

 ヨルクが話しかけて返事をしたところを見ると、こちらの声が向こうに聞こえるのか。


「…俺の声も聞こえるのか?」


「聞こえている」


「クラウディウス、今までは本気ではなかったそうだな。全力を見せてみよ」


「制限された中では全力であったが…ジル様、とくとご覧あれ!」


 クラウディウスはそう言って目の前の城に向けて突っ込んだ。クラウディウスを中心に城全体に蜘蛛の巣状のヒビが入った。


「オートン!ディプラスを返してもらうぞ!」


 クラウディウスはそう言いながら城を殴り続けている。クラウディウスが城を殴る度、岩が飛び散っている。その岩はサヌストの王宮に匹敵するほど大きい。


「……魔力を解放したのではないのか?」


「クラウディウス様は肉体強化魔法の達人です。悪魔の攻城戦は城門を探し出すところから始まるのですが、クラウディウス様がいれば、その必要がありません」


「…そういうものか」


「はい。普通は強化し過ぎると肉体が耐えきれずに破壊され、死んでしまいますが、そこは回復の悪魔。傷を負う度に回復してしまいます。なので、死ぬ事はありません」


「そうか、あれも魔法か」


 クラウディウスは以前、魔界でも屈指の力自慢と言っていたが、そういう意味か。

 クラウディウスは徐々に掘り進め、遂に貫通した。分厚いとは思っていたが、城壁?の厚さは目測で、百メルタルを余裕で超えている。

 オートンの城は面白い形をしている。水面に映った城をそのまま具現化したように、上下対称の城だ。


「我に続けぇ!」


 クラウディウスがそう叫ぶと、悪魔の軍勢がクラウディウスが空けた穴に突っ込んだ。

 この窓はクラウディウスのそばを映すようで、クラウディウスが進めば、窓も進んでいる。

 中からオートンの軍勢が出てきた。


「リーはディプラスを探し出せ!」


 クラウディウスがそう言うと、リーと呼ばれた悪魔が城に単身で忍び込んだ。クラウディウスと他のキアラ軍は囮を引き受けてるようだ。


「クラウディウスか!貴様らの主、キアラは既に死んだ!亡君にいつまでも頭を垂れているのか!」


「我らは新たな主をお迎えした!オートン、貴様こそ死んで詫びろ!キアラ様のディプラスを盗み出した事を!」


「あれは元々吾輩のものだ!者共、クラウディウスは吾輩の獲物だ!雑兵共を蹴散らせ!」


 オートンと呼ばれた悪魔はそう言うと大きくなった。クラウディウスの二倍ほどの大きさだ。


「ルー!オートン軍の雑兵は任せた!我はオートンを討ち取る!」


「御意」


 クラウディウスはルーという悪魔に指揮を任せて、オートンの方に向かった。


 クラウディウスとオートンは向かい合うと、それぞれ得物を取り出した。

 クラウディウスが使うのはオートンさえも両断出来そうな大剣である。一方、オートンが使うのは短剣だ。


「臆病者めが。離れておらねば怖いか」


「我は貴様を半分だけ頂いていく。上から半分、腰斬して持ち帰ろう」


「ならば吾輩は貴様をバラして、反キアラ勢力に配ってやろう」


「やってみるといい」


「そちらこそ」


 クラウディウスとオートンが距離を詰めた。完全に短剣の間合いであるが、クラウディウスは器用に打ち合っている。

 しばらく二人は斬り結んでいたが、実力はほぼ同等のようだ。


「クラウディウス様、ディプラスを奪還いたしました!」


「なにっ?!」


「よくやった!」


 リーが城から出てきてそう言った。異空間にしまってあるのだろう。

 リーの言葉で動揺したのか、オートンの動きが鈍った。その隙をクラウディウスが逃すはずもなく、宣言通り腰斬した。


「オートン、討ち取ったり!引き返せ!退却だ!」


 クラウディウスはオートンの上半身を担ぎ上げると、そう宣言した。

 キアラ軍は勝鬨を上げながら、撤退した。


「ヨルク、オートンとやらは弱いのか?」


「いえ、そういう訳ではありません。クラウディウス様が強いだけです。生前のキアラ様には勝てませんでしたが」


「そうか」


 キアラはあれより強いのか。恐ろしいな。


「ジル様、野暮用が終わった!すぐに妖魔導王様の居城に向かおう」


 クラウディウスの野暮用とはこの事であったか。戦を野暮用で済ますあたり、クラウディウスらしい。いや、魔界では戦が多いと聞いたので、魔界(ここ)ではクラウディウスの言い方が一般的なのかもしれぬ。


 クラウディウスがキアラの城に入ったところで、窓が暗転した。


「ジル様、半日ほどお待ちください」


「ああ」


 ディプラスを使い始めたようだ。体感的には何も分からぬ。

 今から半日後には、妖魔導王と会うのか。緊張してきたな。

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