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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第162話

 結界魔王に挨拶する為、魔界を飛んでいると、クラウディウスが身なりを整え始めた。普段はあまり気にしていないと思っていたが、気にしていたのだろうか。


「セリム、約束事があったろ。ジル様にもお伝えしておけ」


「は。ジル様、結界魔王を初めとした魔界に住まう悪魔には、キアラ様は死んだと伝えられております」


「ああ。オディロンが後継だそうだな」


「ええ。我々はキアラ様の七近衛として、キアラ様と共に知られています。我々はキアラ様亡き後、ヴォクラー神の勧めでジル様にお仕えしている、ということになっております」


「分かった。話は合わせる」


 なぜキアラの存在を公にせぬのかは知らぬが、何か理由があるのだろう。


「それともう一つ。今から我らが会うのは全て格上の悪魔だ。我やジル様が全力で挑んだとしても、軽くあしらわれるだけだ」


「それ程強いのか」


「考えてもみられよ。兆を超える上位悪魔とその千倍はいる下位悪魔、その頂点付近にいる悪魔だ」


「確かにそれは強そうだ」


 クラウディウスが身なりを整えるのも分かるような気がする。


「ネズミの胎児とボスゴリラくらいの戦力差があると思っていい」


「…産まれる前のネズミは戦えぬだろう」


「…我もそれくらい知っている」


「ジル様、クラウディウス様、もうすぐ着きます」


 セリムに言われて前を見てみると、巨大な岩が迫っていた。岩では無く、城という事であったが、どうにも理解できぬ。

 セリムが止まったので、俺達も止まると、ヨルクが先に行った。そして見張りと思しき悪魔に話しかけていた。


「ジル様、あの見張りが我と同じくらいの強さだ。中にはもっと強いのがうじゃうじゃいる」


「面倒を起こしてはならぬな」


「起こそうとしないでください」


「いや、例え話だ」


 クラウディウスが言う通り、見張りだけでもかなりの戦力だ。一人で見張りを任されているだけはあるな。


「開きます。お気をつけ下さい」


 ヨルクが戻ってきてそう言った。城門が開くだけで何に気をつけるべきだろうか。

 俺がそんな事を考えていると城の表面の一部が爆散した。城門のような金属の丸い板があるが、それは偽物ということか。


「行きましょう」


 ヨルクが先頭を飛んで穴をくぐった。爆散した直後から修復が始まっており、すぐに閉まってしまいそうだ。

 しばらく進むと、結界があった。ヨルクが結界に触れて魔力を注ぐと、結界が部分的に解除され、通ることができた。

 結界を越えて更に進むと見たこともないような金属で出来た門が見えてきた。


「開門!」


 見張りの悪魔が叫ぶと、門が開かれた。

 門の先には異様な世界が広がっていた。

 泡のように結界が張ってある。一つひとつに一体ずつ悪魔が待機している。その悪魔の中心部には坐禅を組んだ悪魔がいる。天眼で詳しく見てみると、とてつもない程の魔力を有している。あれが結界魔王か。

 そして泡の結界の外には、大量の悪魔がおり、泡の結界を攻撃している。だが、その攻撃は一切通じておらぬ。


「ジル様、行きましょう」


「ああ」


 ヨルクとセリムが飛んで行くと泡が道を開けた。話は通っているようだ。

 中心部に辿り着くと、結界で地面が創られた。そこにセリムとヨルク、クラウディウスが跪いたので、俺も跪いた。


「結界魔王パトリシア様、お久しゅうございます」


「そなたはセリムか。キアラが死んだそうじゃな」


 セリムが話しかけると、結界魔王が坐禅の姿勢を崩して返事をした。声を聞くまで男だと思っていたが、女であったか。いや、悪魔には性別はあってないようなもの、と聞いた事がある。キアラは気にしているようだが、魔界では珍しいらしい。


「は。我ら七近衛、今はヴォクラー神の勧めで、ここに御座すジル・デシャン・クロード様にお仕えしております」


「七近衛が揃っておらぬようじゃが?」


「は。残りの四名は主の留守を守っております」


「そうかい。どこかで見たような魔力をしておるな…誰じゃ?」


「我は、グル・ウィット・ジャビル様の再来と思っております」


 セリムが答えずにいると、クラウディウスがそう答えた。前にも言われたような気がする。


「クラウディウスだったな?冗談では済まされんぞよ。根拠は?」


「パトリシア様も感じられているのでは?」


「うむ…いや…しかし…かの御方にしては魔力が少な過ぎる」


「我は成長途中であると考えております。これから数千年かけて元のお力を取り戻すのでしょう」


「ふむ…成長するまでそなたらが護れ。キアラもそれを望んでおろう」


「仰せのままに」


「次からは勝手に入っても良い。グル様の生まれ変わりなら多少の優遇はする」


「ははっ」


 グル・ウィット・ジャビルの生まれ変わりと決まった訳ではないが、それでも優遇されるらしい。


「して、魔界の外で生まれた悪魔が何をしに来た?」


「我が主はとある呪いにかかってしまいました。その解呪の為、妖魔導王様を訪ねる所存であります」


「承知した。では帰れ。魔力は覚えた。グル様の生まれ変わりよ。解呪が出来たら一人で来るといい。愛してあげようぞ」


 結界魔王様はそう言いながら指を舐めた。背筋に冷たいものが走った。

 クラウディウスに助けを求める視線を送ると、何か返事をしろ、と言いたげに俺を見つめていた。


「た、楽しみにしております」


「そう堅くなるでないぞ。グル様と妾の関係ではないか」


「は…?」


「まあ良い。妾が身をもって思い出させてやろう。じゃあの。妾は忙しい」


「では失礼します」


 セリムはそう言って立ち上がって一礼し、飛び上がった。俺達もセリムに倣って飛び、結界魔王のもとを去った。

 帰り道は専用の道があるようで、一切止まることなく進んだ。

 結界魔王の居城を出た俺達は、キアラの城に向かっている。妖魔導王の居城に早く行く為に必要な魔導具を手に入れる為らしい。


「クラウディウス、結界魔王様はグル・ウィット・ジャビル様とどういう関係なのだ?」


「結界魔王様はグル・ウィット・ジャビル様の側室だ。百の悪魔を産んだとされている。子の数だけで言えば、正妻を上回って一番多い」


「…そうか」


 俺はそのような女に『愛してあげようぞ』などと言われたのか。解呪後、来いと言われたが、行くのを止めておこうか。いや、気に障るようなことをして殺されるのは嫌だな。挨拶だけして帰ろう。


「結界魔王様に愛された悪魔は、グル様を除いて全て死んでいる。腹上死だ」


「不吉な事を言うでない。俺は挨拶だけして帰る」


「ジル様なら大丈夫だ。我は信じている」


「…そうか」


 信じられたところで生命力が上がるわけではない。

 それから喋ること無くしばらく飛ぶと、セリムが止まった。キアラの城に着いたのだろう。


「着きました。クラウディウス様、よろしくお願いします」


「任せておけ」


 クラウディウスが前に出て大きく息を吸った。


「我はキアラ様の近衛将軍クラウディウスだ!我ら七近衛の新たな主をお連れした!直ちに開門せよ!」


 クラウディウスはそう叫んだ。魔界に来てから念話を使っておらぬが、何か理由でもあるのだろうか。

 クラウディウスが叫んだ直後、城の一部が爆散した。どの城も金属の門らしき物が付いているが、それは偽物なのか。


「クラウディウス様、セリム様、ヨルク様。お待ちしておりました」


 城に空いた穴から一人の悪魔が出てきてそう言った。

 クラウディウスがその悪魔と共に城に入っていったので俺達も後に続いた。


「ディプラスの用意は出来ているな?」


「それが…」


「出来ているな?」

 

「申し訳ありません!出来ておりません!」


「なぜだ?」


「先日、オートンの襲撃があり、強奪されてしまいました!取り戻すべく、戦力を整えていたところであります!」


 クラウディウスが悪魔と何やら話しているが、何の話か分からぬ。まあどうせ言われても分からぬので聞かぬが。


「リー、全軍呼べ。守りはセリムとヨルク、それから残りの侍女どもで充分だ」


「御意」


 リーと呼ばれた悪魔が奥に飛んで行った。

 俺達もゆっくり後を追うと、内部に着いた。結界魔王様の居城とは違うが、こちらも異様だ。塔のような城を中心に花畑が広がっている。花をよく見ると、棘があるようだが見たことない花ばかりだ。


「ジル様、キアラ様のお部屋で休まれよ。我の野暮用が終わるまで、だが」


「分かった」


 俺はクラウディウスと別れ、塔のような城に入った。城に入る際、ヨルクもどこかへ行った。


「キアラ様のお部屋はこちらです」


「ああ」


「侍女を呼べ。ここに御座すジル様をキアラ様と思って持て成せ。事実、我らの新たな主だ」


 セリムはそう言いながら歩いた。誰もおらぬように見えるが、どこかに控えているのだろう。

 しばらく歩くと、セリムが止まった。


「ジル様、この部屋をお使いください。キアラ様のお部屋です」


「ああ」


「私はヨルクの所に行ってまいります」


「分かった」


 セリムは元来た道を戻って行った。

 俺はキアラの部屋の扉を開けた。その瞬間、甘ったるい蜜のような匂いが鼻を刺した。

 俺は匂いに耐えながら部屋に入り、適当なソファに座った。


「失礼いたします。お茶をお持ちしました」


「ああ」


 侍女がお茶を持ってきてくれたようだ。


「おい、この匂いはどうにかならぬのか?」


「?匂いますか?」


「ああ。蜂蜜で水責めされているようだ」


「そうですか。少々お待ちください」


 侍女はそう言って出ていった。お茶を持ってきてくれたようだが、ティーポットに入ったままであった。

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