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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第161話

 ルカとルチアをラポーニヤ城に迎え入れてから数日が経った六月の九日。アシルに日付変更をしてもらい、王都旅行が十日からの五日間となった。今はその準備をしている。


 旅行はある程度の不便を味わうもの、とガイドブックに書いてあり、レリアが面白そうだと言ったので、俺の異空間の荷物を減らしている。

 ラポーニヤ魔族とウルファーの荷物、ジャビラの遺品、馬車など色々と入っているので、必要無いものは倉庫などに仕舞わせている。

 レリアの人形は、ジャビラの遺品の中に棺があったのでそこにしまって蓋をしておいた。勝手に開ける者はおらぬだろうが、『危険なので俺がやっておく』と言って宝物庫の最奥に俺がしまっておいた。わざわざ最奥の棺を開けるような者はおらぬだろう。


「ジルさーん、ルチアも連れてってくださーい」


 荷物を倉庫に置いて戻ってくる度、ルチアはそう言う。毎回断るのだが、なぜ何度も言うのであろうか。一度で理解はできているはずだ。


「断る。ずっと楽しみにしていたのだ。邪魔はさせぬ」


「奥さーん、楽しみにしてたんだって。ちゃんと楽しませてあげてくださーい」


「分かってるから、ちょっとどっか行ってくれる?」


「えーせっかく手伝ってあげてるのに。じゃ、ジルさん行きましょ」


「俺は行かぬ。そうだな…キトリーの所に行ってこい。暇な時は料理をすると良いそうだ。完成したら夕食に出せ。俺が気に入れば愛人の件も考えてやろう」


「ほんとに?!じゃ、行ってきまーす。楽しみにしててね!」


 ルチアはそう言って厨房の方に向けて駆けていった。


「え、ちょっとジル?!なに約束してるの?」


「安心せよ。俺がルチアの料理を気に入る可能性は低い。それに考えると言っただけでなるとは言っておらぬ」


「だよね。良かった」


 レリアも納得してくれたようだ。

 ルチアはこの数日間、侍女見習いとして働いているつもりのようだが、俺の傍で騒いでいるだけだ。ルカがいなければ、頭がおかしくなってしまう。そのルカも今はファビオ達と遊んでいる。


「ジル様」


「ただいま戻りました」


 セリムとヨルクが俺の目の前に突然現れて跪いた。


「久しぶりだな。何かあったか?」


「妖魔導王様より言付けがございます。『妖魔大会前夜祭を今宵開催する。参加したくば参加せよ』と。ジル様は参加した方がよろしいかと」


 妖魔大会とは妖魔導書を手に入れる為の試験の名だそうだ。クラウディウスに聞いた。


「いや待て。明日からレリアと王都旅行だ。これは絶対に外せぬ」


「承知しております。ご安心ください。このヒルデルスカーンと魔界では時の流れの早さが違います。ヒルデルスカーンで一日経つ間に魔界では半年から十年経ちます」


「なるほど。という事はつまり?」


「すぐに帰って来れるってことじゃん。行ってきなよ。腕を治す為でしょ?」


「ああ。すまぬがそうさせてもらう」


「じゃあ、あとの準備はあたしに任せて。荷物は纏めておくから」


 レリアに準備を丸投げしてしまう事になってしまったな。治療の為とは言え、王都旅行でどうにか埋め合わせをせねばな。

 ちなみに異空間の荷物はほとんど運び出せているので良い。


「すまぬな。ではセリム、頼んだ」


「御意。クラウディウス様を従者としてお連れください。一人では妖魔導王様に好かれません」


「そうか。クラウディウス、行くぞ」


「承知した。セリム、早く繋げ」


「少々お待ちを」


 忘れていたが、クラウディウスはセリムとヨルクの上官であった。あまりこの三人が話しているのを見ていないので、忘れてしまうのは当然か。

 クラウディウスの指示でセリムは何やら魔法を使い始めた。しばらくすると、人が通れるくらいの穴が目の前に空いた。


「ジル様、私から離れませんよう」


「魔力の塵となって消え去ってしまわれるぞ。さあ我らに身を委ねられよ」


「ああ。レリア、すぐに戻る。ではな」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


「ああ、行ってくる」


 俺がレリアに手を振っていると、クラウディウスに穴に引き込まれた。何となく嫌な空間だ。


 最初は不快感を感じる程度であったが、しばらくするととてつもない重圧を感じた。巨大な蛇に締め付けられているような感覚だが、蛇のように隙間がある訳では無い。治療する前に死んでしまいそうだ。


「ジル様、もうすぐで楽になる。耐えられよ」


「右腕も吹っ飛びそうだ」


「冗談を言えるなら大丈夫そうだ。セリム、飛ばせ」


「御意」


 冗談で言ったつもりは無いのだが、先頭を行くセリムが速度を上げた。速度を上げるとその分重圧が強くなるようだ。人間がここに来れば、到着する頃にはイチゴジャムになっているだろう。

 治りかけていた左目が破裂したようだ。まあこれから治しに行くので良いが、右目も破裂すると視力が無になるので目を瞑って保護しておこう。


 セリムが速度を上げてからしばらく経つと、重圧が無くなった。到着したか死んだか、どちらかだろう。


「到着しました。ここが魔界です」


「悪魔の姿になられよ。飛ばねば死ぬ」


「分かった」


 セリムに言われて目を開けると、異様な世界が広がっていた。


 上下に大地があり、その間に空がある。その空も紫色だ。


 俺から見て下の大地のほとんどを火山が占め、溶岩が流れている。それ以外の場所は高密度の魔力が充満しており、少しでも踏み込めば、魔力で圧死してしまうだろう。

 俺から見て上の大地は岩場が広がっている。そこの岩は砕け散っては融合して、融合しては砕け散る、を繰り返している。岩が砕け散る瞬間、その周辺に紫色の稲妻が走る。


 紫色の空には、数え切れぬ程の岩が飛んでいる。いや、よく見ると岩ではないようだ。星だ。大きく分けて二種類の星があるようだ。

 一種類目の星の表面には無数の穴が空いており、そこから何かが産まれている。大きさは太陽より一回り大きいくらいか。

 もう一種類の星には穴が二〜三個しか空いておらぬが、その穴は大きい。蓋のようなものが着いており、開閉できるようだ。大きさは月より一回り大きいくらいか。数はこちらの方が多い。


「クラウディウス、あの飛んでいる岩?は何だ?」


「小さい方は有力な悪魔の城だ。大きい方は魔法の聖地だ。穴から出て来るのは下位悪魔がほとんどだ」


「城か…大きいな…」


 城にしては大きい。俺が全力で攻撃をしたとしても、表面が僅かに削れるだけだろう。


「ジル様、まずは結界魔王様にご挨拶をしに行きましょう」


「それは誰だ?」


「先程の重圧は結界によるものです。その結界を張っているのが結界魔王様であらせられます」


「結界魔王様が認めた奴しか結界を越えられん。結界に触れた時点で吸収される」


「なんと…!」


 先程の重圧は結界であったか。魔界を何から護っているかは分からぬが、外敵がいるのだろう。


「魔界は広いのではないのか?」


「広いです。炎魔界と雷魔界、それぞれに天界が三つずつ入ります」


 炎魔界と雷魔界と言うのは上と下の大地の名称なのだろう。おそらく火山の方が炎魔界で、岩場の方が雷魔界だ。


「ちなみに天界はどれくらい広い?」


「千以上存在する世界が世界神の領地の一割に収まると言われています。世界神は上位神、つまり他に同等の領地を持つ神が九柱。王神の領地は全ての上位神の領地を合わせた十倍、と言われております。つまり単純計算で天界は世界百万個分ということです。魔界は炎魔界と雷魔界、それぞれに三つ、つまり天界六つが入ります。という事は、魔界には世界が約六百万個が余裕で入ります」


 セリムが計算しながら答えてくれたが、もう意味が分からぬ。


「…つまり?」


「ジル様、細かい計算など気になさるな。世界が六百万個入ると言われても、世界の大きさが分からんだろう」


「分からぬな。世界と言うのが何を指すかすら分からぬ」


「ここで言う世界は宇宙空間も含めている。つまり、世界一個と言うのは宇宙空間一個、という事だが…まあ気になさるな」


「そうか」


 今の話は理解できなかったが、考えられぬ程広いという事が分かった。


「話が逸れましたが、結界魔王様への挨拶に行きましょう。遅れると侵入者として排除されます」


「…物騒だな。早く行こう」


「ではこちらへ」


 セリムがそう言って飛んで行ったので俺達も後を追った。

 結界魔王とやらがこの魔界の治安の維持をしているのか。一人で管理しているのか、組織で管理しているのから知らぬが、挨拶せぬ者を殺してしまうような奴だ。気をつけた方が良かろう。

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