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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
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第158話

 朝食を食べ終え、庭で遊ぶファビオ達を眺めながら四阿でレリアとお茶を飲んでいると、アシルが訪ねてきた。

 

「兄上、ヴァトーから伝言だ。ルチアが騒ぎ始めた、どうにかして欲しい、と。それと幼女が食事もせずに黙り込んでいるらしい。兄上の都合がいい時に迎えに行ってやってくれないか」


 幼女の名を考えていなかったな。レリアと相談して今日のうちに迎えに行くか。


「…分かった。それだけか?」


「幼女の名はどうした?兄上の妹なら俺の妹か姉かもしれん。俺も気になる」


「いや、まだ決めておらぬ。決まったら連絡しよう。さあアシルも帰ってゆっくりしてくれ。二人は俺が迎えに行く」


「分かった。義姉殿もよろしく頼む」


「え、あたし?ジルと一緒なら任せて」


 アシルがいきなりレリアに話しかけたので、レリアは驚いてしまった。レリアは王都の茶菓子を食べていたので、油断していたのだろう。


「では俺はこれで」


「適当に休むといい」


「そうさせてもらっている」


 アシルはそう言って帰って行った。

 これだけであれば念話で伝えられるが、わざわざやってきた理由はあるのだろうか。そもそもなぜヴァトーが俺ではなくアシルに連絡したのか。まあ俺が休みだと思って気を遣ったと思っておこう。


「ねえ、あたしって何を頼まれたの?」


「俺の妹が見つかってな。名がないと言うので名付け親になってやろう、と約束していたが、忘れていた。元々レリアに相談しようと思っていたのだがな」


「妹?どこで見つけたの?」


「戦場だ。俺が魔法使いを追っていると、幼女が手伝ってくれた。俺も手負いだったので丁寧に話を聞くと、『お兄ちゃん』と呼ばれた」


「もう一人は?」


「ルチアか。ルチアはコンツェンの魔法使いの生き残りで、亡命したいと言うので面倒を見ることにした。野放しにするよりは良かろう」


「そうなんだ。じゃあ、名前何にする?」


「考えよう」


 それから俺達は幼女の名を考え始めた。

 綴字が違うのも含めて十個考えた。綴字が違うだけで名前の意味も変わるらしいので、好きな名を本人に選んでもらう事にした。


「ジル、早く妹ちゃんに会ってみたい。どの名前が気に入るかな?」


「今から迎えに行こう。レリア、ナヴァル城に行ってくるが、すぐに戻る。少し待っていてくれ」


「分かった。ファビオ達も呼んでおく?」


「いや、名を決めてからで良かろう」


「そうだね」


「では行ってくる」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


「ああ」


 俺はそう言ってナヴァル城に転移した。

 ルチアと幼女がいる座敷牢の近くに転移しただけなので、特に挨拶をしに行かなくても良かろう。


「入るぞ」


「ああああ!おそーい!」


「ジル様っ!」


 ルチアがそう言ってスープの入った器を俺に向けて投げた。幸い、一滴も零さず受け止められたので良かった。


「ジル様、お待ちしておりました。こうして暴れてしまいますから、見張りを増やして対処しておりました」


 そう言ったのはエルフの代表らしき男だ。他のエルフや人狼、人虎も疲れ切っている様子だ。


「そうか。悪かったな」


「あ、いえ、そういうつもりでは…」


「いや、良い」


 俺は謝るエルフを右手で制して座敷牢の扉を開けた。ルチアは俺を睨んでいるが、幼女は俺の方を少し嬉しそうに見ている。


「待たせて悪かった」


「ホントですよ。一ヶ月も何をやってたんですか?」


「いや、一ヶ月も経っておらぬが」


「細かい事は気にしないでください」


「…ルチア、うるさい」


 幼女がルチアに手を翳すと、ルチアが黙った。

 天眼で詳しく見てみると、魔力を糸状にしてルチアの口を縫い付けているようだ。魔力の糸なので実際に口を縫っている訳では無い。

 普通は口を縫ったところで声は出せるが、この魔法は魔力が声を吸収するようだ。


「助かった。幼女、王都に言ったら名前を決めよう。いくつか案を出したが、最終的には自分で決めた方が良い」


「…幼女、名前、決める」


「ああ。そうしてくれ。それと、幼女は俺の妹なのか?」


「…たぶん、そう。お兄ちゃん、特別」


「そうか。ならば妹として迎えよう」


「…嬉しい」


「それは良かった。では行こう」


 俺は暴れるルチアを小脇に抱えて、座敷牢を出た。幼女は俺の服を掴んでいる。


「俺は行く。それとしばらく休みを貰ったから、何かあれば俺ではなくアシルの指示に従え。ではな」


「ははっ」

 

 俺はエルフの代表の返事を聞いてから二人を連れて王都に転移した。


「レリア、戻ったぞ」


「あ、おかえり。早かったね」


「ああ、ただいま」


 俺はルチアを下ろしてレリアの近くに立った。何かあれば庇えるだろう。


「レリア、この子が妹だ」


「…幼女、お兄ちゃんの、妹。誰?」


「俺の妻のレリアだ。つまり幼女の義姉(あね)となる。どうだ、嬉しかろう」


「…義姉(あね)、よろしく」


「よろしくね。早速だけど、ちょっと来てくれる?」


「…幼女、行く」


 レリアが幼女を連れて四阿に向かったので俺もついて行った。

 四阿の机の上に幼女の名前の候補が書かれた紙が置いてある。全部で十枚だ。


「ジルと一緒に考えたんだ。この中から好きな名前を選んでね」


「…幼女、これにする」


 幼女はそう言って右端の紙を取った。その紙には『ルカ』と書かれている。


「それが良いのか?」


「…うん。幼女、今から、ルカ」


「ルカちゃん、よろしくね」


「…うん。よろしく」


「ちょっとーーっ!」


 ルチアが四阿に駆け込んで来た。魔力の糸が解けたようだ。


「なんでルチアを紹介しないんですかっ?!ジルさんの奥さんもルチアを無視するし…」


「あっ…ごめんなさい」


 相変わらずうるさいな。レリアが勢いに負けて謝ってしまうほどだ。


「いや、レリアは悪くなかろう。レリア、これがコンツェンの魔法使いの生き残りのルチアだ」


「『これ』ってルチアの事?酷くない?」


「よろしくね。ルチアちゃん」


「馴れ合うつもりはないですよ。ルチアはジルさんの愛人候補なんで」


 俺はルチアの事を愛人などと思ったことは無いし、そもそもそういう関係にない。つまり同名の別人の愛人候補だろう。そうに違いない。


「ねっ」


 ルチアがそう言って俺の腕に抱きついてきた。俺はすぐに振りほどいた。


「まさか俺の事ではあるまいな?」


「ジルさん言ったじゃないですか。『俺が面倒見てやる』って。もうそれってプロポーズですよね?あれ、てことはルチアが正妻?」


「馬鹿な事を言うな。ルカ、少し黙らせてくれ」


「…任せて」


 ルカがルチアに手を翳すと、ルチアは黙った。ルチアと会う時はルカに同席してもらわねばなるまい。


「レリア、誤解するでないぞ。俺はレリア以外を好きにはならぬ」


「知ってるよ。だけど女の子にあんな事軽々しく言っちゃダメだよ。ジルみたいな人に言われたら勘違いしちゃうから」


「ああ。気をつける」


「…お兄ちゃん、幼女、嫌い?」


 ルカが俺の服を引っ張りながらそう言った。少し涙目になっている。


「いや、そんな訳なかろう」


「…でも、義姉(あね)以外、好きには、ならない、言った」


「そういう意味ではない。ルカは家族だ。家族を嫌いになどならぬ。家族愛というやつだ」


「…でも、好きにも、ならない?」


 なんと言えば良いか…難しいな。ルカがこんなに嫉妬深いとは思わなかったな。

 レリアに助けを求めたがファビオ達を呼びに行っていた。安心してくれるのは良いが、最後まで聞いて欲しかった。


「いや、家族は皆好きだ。そうだな…ルカや他の家族には幸せになってもらいたいと思うが、レリアは違う。レリアは俺が幸せにしたい」


「…義姉(あね)、特別?」


「そういう事だ。誤解を招かぬように訂正しておこう。レリア以外も好きになる。だが、レリアは大好きだ。言葉に出来ぬほどな。そしてレリア以外と恋に落ちる可能性は全く無い。何度生まれ変わってもな」


「…幼女、理解、できた」


「それは良かった。まあ俺はレリアを特別愛している、と覚えておけば良い」


 綺麗に纏まってよかった。ルカも納得してくれたようだ。


「…ルチア、どう?」


「こんなうるさい奴を好きになるか?」


「…無理。頭、おかしくなる」


「そうであろう?」


「ひどーい!」


 ルチアが喋り始めてしまった。どうやら魔力の糸を解くコツを掴んでしまったようだ。


「もしルチアが家族になったら、ルチアを好きになる?」


「分からぬな」


「家族はみんな好きって言ったじゃないですか!嘘はダメですよ」


 ついに狂ったか。今まではただうるさいだけであったが、それが狂うとなると、さらに面倒になるな。


「そもそもおぬしは家族にならぬだろう」


「ジルさん、兄弟は?」


「アシルとファビオ、それにまだ赤ん坊だがウルもいる。もちろんルカもだ」


「三人、ですね。ちなみにどこにいるんですか?」


「アシルは隣の家に、ファビオはあそこに、ウルは俺の城にいる」


「ファビエット〜」


 ルチアがファビオに向かって走っていった。

 まさか、ファビオと結婚して俺の義妹になるつもりか。まあファビオにはユキがいるので作戦は失敗だな。


「…お兄ちゃん、阻止、しない?」


「安心して見ているといい。家族にはならぬ」


「…ファビエット、凄い?」


「いや、許嫁がいる。それよりもファビエットとは何だ?」


「…ファビエット、コンツェン語で、ファビオちゃん」


「そうか」


 仮にファビオがルチアに懐いたとしても、ユキとカイがルチアを追い出すだろう。

 俺の弟には心配が必要な者はおらぬ。アシルも好きな人がいると言っていたし、ウルはまだ赤ん坊だ。恋などせぬだろう。

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