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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第149話

 俺がまだ完璧に習得していないからかもしれぬが、それにしてもこの遅さは無いだろう。


「こんなに遅いものか?」


「ジル様の呪いと回復力が拮抗してるのよ。でも回復力の方が少し強いみたいね」


「そういうものか」


「そうよ。妾もそんな状態の悪魔なんて見た事ないから、絶対とは言いきれないけど」


「完治するのか?」


「そうね…このまま回復の魔力を巡らせ続けれたら、顔の傷が治るのに十日、魔眼()が使えるようになるのに更に五日ね。腕が完治するのは三十日と言ったところかしら」


「三十日後には全て治るということか」


「そう言ってるじゃない」


 傷痕などは治っても治らなくてもどちらでも良いが、治るのであればまあ良いか。それにしても魔眼が使えるようになるまでは十五日もかかるのか。まあ治るだけマシと思っておくか。


「ジル様、妾は見慣れているからいいけど、姫とかアキは見慣れてないわ。だからこれを着けておきなさい」


 キアラはそう言って俺の左腕の切り口に何かを嵌めた。少し動かしたくらいでは取れぬようだ。


「勝手に取れるまで触っちゃダメよ。それと眼帯もしておきなさい。目が生えてくる瞬間なんて誰も見たくないわ」


「分かった」


 俺はヤマトワに行く際に貰った眼帯を着けておいた。どこかで無くしてような気もするが、ミミルが予備をいくつか送ってくれていた。

 

「じゃ、帰るわよ」


「待て。あの最後の小屋は何だ?使わぬのか?」


「ああ、あれね。ジュスティーヌ、あれを持ってらっしゃい」


「はい」


 ジュスティーヌは小屋まで走って行き、小屋に入った。そして何やら人のようなものを抱えて出てきた。

 近付いて来ると人のようなものの顔が見えた。


「レリアっ?!…の人形か」


「そうよ」


 口と手足を縛られたレリアの人形であった。悪趣味なものを作るものだな。


「何の為にこんなものを作った?」


「ジル様が習得出来なかった時のために作っておいただけよ。この人形の首に剣を当てて脅したら、本気になるでしょ?」


「ああ。本物だと勘違いしたら本気でおぬしらを殺すかもしれぬな」


「…やらなくて良かったわ」


 間近で見ても似ているな。だが見た目が似ているだけだ。本物のレリアとは雰囲気というか、オーラが違う。まあ遠くから見たら本物だと勘違いするだろうが。


「ここだけの話だが、この人形を小さく出来ぬか?」


「あら、気に入ってくれたのかしら?」


「いや、そういう訳ではない。で、手に乗るくらいの大きさに出来ぬか?」


「断るわ。さ、ここの後片付けはセバスとクラウディウスに任せて帰るわよ」


「待て。その人形はどうする?」


「燃やして捨てるわ」


「いや、レリアの姿をしているものにそんな事をするな。俺が貰う」


「分かったわ。じゃ、今度こそ帰るわよ」


「ああ」


 俺はジュスティーヌからレリアの人形を受け取った。そして新たな異空間を創り出してそこにしまっておいた。他の物で傷ついたらまずい。

 キアラは俺がレリアの人形を異空間にしまったことを確認すると、俺達を巻き込んで転移した。ジュスティーヌとキトリー、レンカが一緒に転移してきたようだ。

 転移した先はラポーニヤ城の俺の部屋だ。レリアが何かを読んでいた。


「あ、おかえり、ジル」


「ただいま、レリア」


 人形のレリアも可愛かったが、やはり本人には勝てぬな。まあ足元くらいには及ぶだろうが。


「あれ?左腕が治りそうって聞いたんだけど、もしかして失敗?」


「いや、成功だ。三十日もあれば生えてくるそうだ」


「トカゲのしっぽみたいだね」


「……そうなのか?」


 俺はトカゲの尻尾が生えてくるところを見た事がないので分からぬ。キアラなら分かるだろうと思ってキアラの方を見た。


「トカゲの尻尾と違って完全に元通りになるわ」


「え?トカゲのしっぽって元通りになってないの?」


「そうよ。ま、そんな事はどうでもいいわ。キトリー、お腹が減ったわ」


「はい」


「俺も頼もう」


 トカゲの尻尾の話も気になるが、まずはお昼ご飯だ。キトリーとレンカがお昼ご飯の準備をする為に退室した。ジュスティーヌも異空間に帰った。


「レリアはもう食べたのか?」


「ごめん、もう食べちゃった」


「謝ることは無い。俺が何も言わずに連れ出されたのが悪いのだ。それよりもレリアは何を読んでいたのだ?」


「これ?王都のガイドブックだよ。さっきアキに言って買ってきてもらったんだ」


「レリアは行かなかったのか?」


「あたしがついて行くより、アキが一人で行った方が早いからね。ジルも読む?」


「ああ」


 俺はレリアの隣に座ってガイドブックを覗き込んだ。文字ばかりではあるが、たまに可愛らしい挿絵が出てくる。


 しばらく読んでいると、レンカやアメリー、サラがお昼ご飯を持ってきた。今回もレリアが食べさせてくれた。


 食後、王都の気になる店を二人で言い合って計画を練った。結果、王都に二泊することになった。そんなに離れている訳では無いが、まあ二人だけのお出掛けだ。楽しみにしておこう。


「主殿、そろそろナヴァル城に戻るぞ。サボりすぎだ」


 アキが俺の部屋に駆け込んできてそう言った。


「レリア、すまぬが俺は少し戻る。何かあれば連絡してくれ」


「うん。気をつけて、行ってらっしゃい」


「ああ。行ってくる」


 俺はそう言ってアキと共にナヴァル城に転移した。転移の際にアキに触れたのだが、変な匂いがした。

 ちなみに先程キアラに聞いたのだが、俺はもう魔法を使っても良いとの事だ。回復の魔力の循環を完璧に習得できたと思っておこう。


「アキ、アシルから何か連絡は無かったか?」


「ルチアとかいう亡命女が暴れたらしい。主殿に会いたいとか言ってな」


「アシルには勝てぬだろう?」


「いや、亡命女も本気じゃないみたいで、主殿の部下に反撃されて黙ったとか言っていた」


「そうか」


 俺がアキから現状を聞いていると、アシルとヴァトーが部屋に入ってきた。ちなみにこの部屋は俺の部屋らしい。


「兄上、出掛けるなら誰かに言ってからにしてくれ」


「すまぬ。レリアを起こしてはならぬと思ってな」


「心配させる方がダメだろう。ああ、それはそうと、色々と準備が整っているぞ。まずはリヒャルドと話に行く」


「分かった」


 俺はアシルの案内で広場に連れて行かれた。途中で『当初と違う事を話すから、口を出さないでくれ』とアシルに言われた。

 広場の真ん中には拘束されたリヒャルドがおり、それを囲むように騎士が配置されている。

 リヒャルドと向かい合う位置に椅子が二つ置いてある。俺は右側の椅子に座るように言われた。


「ジル卿、待たせてすまない」


「いえ、今来たばかりです」


 陛下が来て左側の椅子に座った。ジェローム卿とデトレフが陛下の背後に立ち、アシルとアキが俺の背後に立った。


「で、何の用だ?本題から話せ」


 リヒャルドがいきなりそう言った。場を仕切る立場では無いだろうに。

 気になっていたのだが、サヌスト語が話せるのか。やるな。


「単刀直入に言う。国境をシェトー城まで南下させ、サヌスト金貨三百万枚を払え」


 ジェローム卿がそう言った。

 ちなみにシェトー城とは、サヌストとコンツェンの国境から五十メルタル程離れている城だ。そこに行くまでにそこそこ大きな河がある。


「断る、と言ったら?」


「病弱な兄王に同じ事を書いた書簡と貴様の首を送り付けるだけだ」


「コンツェン攻めはせんのか。サヌストも忙しいと見た」


「それがどうした?戦象部隊を失ったコンツェン軍など恐るるに足らん」


「さいですか」


「で、断るのか?」


「俺も命が惜しい。すぐに取りに行こう」


「貴様には人質として残ってもらう。サインするだけで良い」


 ジェローム卿がそう言いながら、紙を取り出した。その間にリヒャルドの拘束が解かれた。

 紙を覗いたが、サヌスト金貨三百万枚、もしくはコンツェン金貨四百五十万枚と書かれていた。サヌスト金貨の方が大きく、価値が高いのだろう。

 リヒャルドはすぐにサインをした。命が惜しいとは本当らしいな。


「コンツェンの王弟、そしてシュラルーツァ教の司祭であるそなたなら知っているであろう。シュラルーツァ教のお告げは何だ?」


 陛下が突然そう言った。確かにお告げを聞いておけば、行動の予想はつく。


「『一つ。他の宗教(おしえ)の使徒を全て殺せ。

  一つ。隣国の民を全て殺せ。

  一つ。ユストゥスを死なせるな』だ。こう言っちゃ何だが、俺は民を殺す必要は無いと思ってたぞ」


「そなたの思惑など知らない。いずれコンツェン王国は我がサヌスト王国が併呑する。その時は覚悟しておくといい」


「神ってのは、どいつもこいつも血腥い事が好きなんかね?」


「ヴォクラー神を愚弄するでない。ヴォクラー神がお許しになっても、この俺が許さぬぞ」


 喋るなと言われていたが、俺は思わずそう言ってしまった。だが、ヴォクラー神を愚弄されて黙っているようでは使徒失格だ。


「そういうつもりは無かった。謝る」


 リヒャルドはヘラヘラしながら立ち上がった。そろそろ牢に帰すらしい。


「ジル卿。この男の身柄はジュストに任せるが、何かあったら手伝ってやってくれ」


「御意」


「じゃ、俺の人質生活が終わるまでよろしく頼んますわ」


「いや、次に貴様と会うのは貴様が死ぬ時だ。ではな」


 俺はそう言ってリヒャルドを見送った。この男とは別の形で出会っていたとしても友にはなれぬだろうな。それくらい気に食わぬ。

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