表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇
146/560

第145話

 本陣に転移した瞬間、アキが吐き、ルチアが気絶した。対戦象用の壺の臭いがしているが、二人は専用マスクをしていないからだ。幼女は平気なようだ。

 アキはすぐにマスクをして軍医を呼びに行った。

 幼女には、適当な服を用意させた。いつまでもマントを纏わせておく訳にはいくまい。さすがに幼女用の服は無かったので、ブカブカの服を着ている。

 今、幼女とルチアは俺の幕舎のベッドで寝ている。一応、拘束はしているが、この二人ならすぐに取れるようにしてある。さすがに捕まえたばかりの捕虜を拘束もせずに寝かせているのはまずい。


「主殿、軍医を連れて来たぞ」


 アキが軍医を連れて来た。


「ルチアと幼女を診てくれるか」


「いや、主殿が診てもらえ。誰の為に連れてきたと思っているのだ」


「そうか。確かに俺が一番重傷だ。では軍医殿、入ってくれ」


 未だに幕舎の外で待機している軍医を呼んだ。


「失礼致します。しっ…使徒様!大怪我をなさっているではありませんか!」


「だから呼んだのだ。さっさと手当てしてやれ」


「ははっ」


 アキは軍医の背中を俺の方へ押した。

 軍医はそのまま俺の腕と顔の手当てを始めた。手当てと言っても、消毒をして包帯を巻くだけだ。目が見えるようになる訳では無いし、左腕もくっつかぬ。


「私奴には、これが限界です。どうか、お許しを」


「いや、これで良い。世話になったな」


「ははーっ」


「下がって良いぞ」


「失礼致します」


 軍医が帰って行った。


「主殿、左腕はもういらないな。ワタシが貰うぞ」


「いや、鎧だけ回収してその辺に捨てておけ」


「もったいないことをするな。ワタシが貰っていくぞ。あ、鎧は返すから安心しろ」


「そうか」


 アキは収集癖でもあるのだろうか。そういえば、カイもアキの髪を集めていたな。この姉弟は収集癖でもあるのか。ならば、ユキも何か集めているのだろうか?まあ今はそんな事はどうでも良い。


「兄上、昼ご飯だ。その二人を起こしてくれ」


 アシルが両手にお盆を乗せてきた。手だけでなく、腕にも乗せている。器用だな。


「もうそんなに経ったか」


 俺は幼女とルチアを揺さぶりながらアシルに答えた。動いていると時間が経つのが早く感じるな。


「…幼女、起きた。ルチア、起きない」


「そうだな」


 幼女は眠そうにせずに淡々と喋っている。減り張りがついていて良いが、気は休まるのだろうか。まあ魔法で生まれたようなので、そういうのは無いのかもしれぬな。


「起きないなら無理に起こす必要は無いだろう。寝ぼけて暴れられたら、俺にはどうしようもできない。兄上も面倒だろう」


「ルチアの分はその辺に置いておいてくれ」


「ここに置いておく」


「ああ」


 俺は幼女にちゃんと座るように言った。俺に懐いているのか、すぐに指示に従ってくれるな。

 今日は珍しく、アシルも一緒に食べるようだ。右手のお盆をルチアに、右腕のお盆を幼女に、左手のお盆を俺に、左腕のお盆を自分用に持ってきたらしい。


「揃ったな。では食べよう」


「おい、待て。ワタシの分はどこだ?」


 アキはそう言ってアシルの頭を叩いた。アシルも慣れてしまったらしく、無反応だ。


「あんたは怪我もしてないし、拘束もされていないだろ。自分で取ってこい」


「怪我くらいしている。ほら、ここを見ろ」


 アキはそう言ってお腹を指さした。アルドに殴られたのか、鎧に穴が空いている。だが、既に回復魔法で治った傷だ。


「アキ、自分で行ってこい。ついでに戦況も聞いてきてくれ」


「主殿、貸しひとつだからな」


「好きにしろ」


 アキは立ち上がると直ぐに出ていった。


「では食べるか」


 二人とも俺が食べ始めるのを待っていたようだ。

 陛下やジェローム卿など、今この瞬間も戦っている者もいるが、食べれる時に食べておかねば、腹が減る。それに皆が同時に食事をしたら、その瞬間に攻め込まれて負ける。

 そして戦の時は、なるべく早く食べ終わる為に、食事の量は少ない。戦芋と言う特殊な芋で、水を飲めば腹の中で膨らむそうなので、腹持ちが良く、すぐに満腹になるらしい。千年以上前に品種改良されたらしい。戦芋を茹でて潰し、再び固めた物を食べている。


「幼女、もう食わぬのか?」


「…幼女、ちょっとでいい」


「そうか。残すなら貰うぞ」


「…うん。好きに、して」


「ではありがたく」


 幼女は少し食べただけで満腹になったようだ。それもそうか。水を飲めば飲むほど満腹に近付くのだ。更に、これは喉が渇くので、水を飲んでしまう。結果、すぐに満腹になるのだ。

 食べ終わった幼女はすぐに眠ってしまった。幼子らしいところもあるのだな。


 食後、鎧と服を脱いで、他に傷が無いか、アシルに確認してもらった。切り傷などは数え切れぬ程あったが、それだけだ。


「おい、兄弟で何してるんだ?」


 アキが帰ってきた。既に食べたのか、何も持っておらぬ。


「傷の確認だ」


「兄上は鈍感だからな。もしかしたら命に関わるような怪我を負っているかもしれん」


「さすがにそれは分かる。何の為に痛覚があると思っているのだ」


「いや、そんな事は知らん。それよりも戦況を教えてやろう」


 アキが自分から聞いたくせに、興味を失ったようだ。まあ戦況を知れるなら良い。

 アキは地図を広げ、適当に駒を取った。そして駒を動かしながら説明した。俺は服を着て再び座った。


 まず、俺達が転移する直前に聖堂騎士団に向けてヘザーの魔法が撃たれた。アキが確認した紫色の球だ。デトレフに対処法を教えていたおかげで、この攻撃による損害はほぼ無し。


 コンツェン軍はヘザーが作り出した好機を見逃すまいと、聖堂騎士団を追撃した。ある程度の距離まで来ると、ジェローム卿が率いる一隊が戦象部隊を奇襲した。


 ジェローム卿は上手い具合に誘導し、戦象部隊をコンツェン軍の本隊から引き離した。そしてそのままジュスト殿が率いる対戦象部隊が構える場所まで行き、ジュスト殿の合図で攻撃が始まった。

 それはもう悲惨なものだったらしい。

 壺が割れ、中身が溢れ出すと、象は暴走し、兵士は落下した。落下した兵士は象に踏み潰されたり、壺が命中したり、と生き残りはおらぬかもしれぬそうだ。

 そしてエルフ魔法隊の爆発の炎が壺の中身に引火した際、更に強烈な臭いの煙が発生したらしい。幸い、風下にはコンツェン軍しかいなかったので良いが、サヌスト軍がいれば壊滅していただろう、との事だ。誤算ではあったが、ジュスト殿がその好機を見逃すはずもなく、火矢を放ち、更に象が暴走した。


 その間、コンツェン軍の騎兵と歩兵は聖堂騎士団と陛下が率いるサヌスト軍の本隊と衝突していた。

 数では劣っていたサヌスト軍だが、士気が高かった。陛下や使徒(おれ)がいるおかげだ。コンツェン軍にも王弟と使徒がいるが、ほとんどが奴隷兵で、更に使徒(ヘザー)が味方もろとも攻撃するような性格をしている為、士気は低かった。


 両軍はほぼ互角であったが、ジェローム卿がコンツェン軍の側面を奇襲した為、コンツェン軍の奴隷兵は戦意を喪失したようで、武器を捨てて両手を上げたそうだ。

 その瞬間、後ろからコンツェン軍の奴隷では無い兵士が奴隷兵に向けて矢を放ち、コンツェン語で『死にたくなければ、勝て。敵は目の前にいる』と言ったそうだ。

 コンツェン軍の奴隷兵はサヌスト軍に斬られるか、味方であるコンツェン軍に射殺されるか、の二択に迫られ、再び武器を取ったらしい。

 だが、恐怖で支配された兵など恐れることは無い。陛下やジェローム卿はそのまま攻撃を続け、ついに陛下がリヒャルドを発見した。


 だが、リヒャルドの傍にはヘザー(魔法使い)が控えており、膠着状態に陥っていたところで、俺が現れてヘザーと共に消えた。


 それから陛下はリヒャルドを捕え、掃討戦に移ったそうだ。


「さすがは陛下。有言実行なさったか」


「主殿もだろ」


「いや、俺は三人死んだからな」


「そういうものか」


「ああ」


「タハール様!タハール様は何処に?」


 アキの説明が終わったところで、外が騒がしくなった。ちなみにタハールと言うのは、この本陣の防衛を任されている聖騎士だ。異国に務める聖騎士であったが優秀だった為に、ヴォクラー教の総本山であるサヌスト王国に配属となったらしい。

 俺達も気になったので外に出てみた。ルチアと幼女は寝たままだ。


「ここにいる!」


 ちょうどタハールが出てきた。なぜか俺の幕舎の前まで来ている。


「それがしは陛下からタハール様への使者であります」


「うむ。陛下は何と?」


「我が軍の大勝利にございます。コンツェンの王弟リヒャルドを初めとした捕虜三百をナヴァル城に連れ帰る、ナヴァル城にて落ち合おう、との事であります!」


「承知した。ナヴァル城には伝えたのか?」


「はっ。既に使者が出ております」


「承知した。皆の者!我が軍の大勝利だ!」


 タハールが皆に聞こえるように叫ぶと、皆が雄叫びを上げた。


「使徒様!」


 タハールが俺に気付いて跪こうとしたので、右手を挙げて制した。


「良い。ナヴァル城に帰るのであれば、俺は少し寄り道をしていく。魔法使いの捕虜はアキに任せるから頼んだぞ」


「御意。護衛の一隊を用意致しますので、しばしお待ちくだされ」


「いや、アシルひとりで充分だ。後は任せたぞ」


「ははっ」


 俺は一旦幕舎に戻り、幼女を起こした。


「幼女、俺は今から出掛ける。アキの言う事を聞いてくれるか?」


「…うん。じゃあね」


「ああ」


 俺はアキの方に向き直った。


「そういう訳だから頼んだぞ」


「いや、待て待て。どう考えてもワタシの方が強いだろ。主殿の護衛をアシル(そのザコ)に任せられるか」


「考えてみよ。ルチアが寝ぼけて暴れたらどうする?」


「どうしようもないな。よし。ワタシに任せておけ」


 俺はアシルの方に向き直った。


「そういう訳だ。行くぞ」


「ルチアの拘束を強めた方がいい。寝ぼけて暴れたら大変だ」


「それもそうか」


 俺はルチアの方に行き、拘束を強めた。余程の馬鹿力が無い限り大丈夫だろう。


「では行くぞ」


「ああ」


 俺は幕舎を出て、タハールに幼女は丁重に扱うように伝えておいた。

 そして本陣から離れて、先程ロベルトやアルド達と戦った場所に転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ