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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第135話

 仲間が死んでも特に何も思わぬようなので、脅しても無駄か。

 ならば、陛下の安全が確保でき次第、奴らのアジトに乗り込むか。


「陛下、討伐隊と合流しましょう。その後、私は奴らを追跡します」


「ジル卿、行けるならすぐにでも行ってくれ。私は大丈夫だ」


「…では私は追跡します。陛下、どうかご無事で」


「うむ。ジル卿もな」


「は」


 俺は弓矢を取り出し、陛下の周りのダークエルフ共を射抜いた。そして馬と馬車を繋いでいた紐を切った。その際、ティルの剣を落としてしまったので、回収された俺の剣を喚び戻して装備した。

 馬車から出たので、外界と繋げるような魔法も使えるようになっていた。


 その後、先に行ってしまっていた二騎を追い始めた。三十騎いた敵が、もう二騎だ。


 もしかすると、コヤツらは、ただの魔法人形で命令通りにしか動かぬのかもしれぬ。

 例えばだが、ティルが操っていて、ティルが死ねば、予め設定してあった命令に従うようにしておけば、今のような状態になる。命令は、『あの馬車のリシャールまでの護送』とでもしておけば良い。

 何騎かは、本物のダークエルフや人間もいた。斬ったり、射抜いたりした感触では、三割程が魔法人形だった。

 見た感じだが、残っているのは魔法人形だけだろう。


 しばらく走っていると、俺の乗っている馬の速度が落ちてきた。それもそうか。俺は常人の三倍ほどの重さだ。疲れるに決まっている。


「よく耐えてくれた。礼を言う」


 俺は今まで乗ってきた馬にそれだけ言って、ヌーヴェルを喚び、乗り換えた。

 ヌーヴェルはすぐに俺の意図を理解し、進み始めた。俺は少し疲れたので、休憩するか。ヌーヴェルは俺を落とさぬように走るので、寝ようと思えば寝れる。


 ヌーヴェルに乗り換えてから、しばらく走ると、リシャールが見えてきた。実はここも招待状に書かれていた都市なので、一度来ている。


 俺を先導していた二騎は下馬せず、リシャールにそのまま入っていった。日の出を過ぎているのに、民が一人もいない。避難しているのかもしれぬな。

 魔法人形の二騎はとある民家の前で下馬し、馬を逃がした。そして扉を叩いた。


「よく来たな。我が愚弟よ」


 アルフレッドが出てきてそう言った。


「愚か者め。今頃、陛下は聖騎士にでも保護されているだろう」


「何?」


「貴様の部下はその二人を除いて俺が斬った」


「そんなはずは…」


「まあそんな事はどうでも良い。大人しく投降せよ」


「スヴェイン!街を爆破しろ!全部だ!」


 アルフレッドは家の中に向けてそう叫んだ。


「お待ちください、アルフレッド様。まだ交渉の余地はございましょうぞ」


 そう言いながら出てきたのは、杖をついた老ダークエルフだ。おそらくこの杖は鞘になっており、いつでも剣を抜けるだろう。また、天眼で見たところ、いつでも魔法を撃てるように準備をしていた。

 種族は違っても、老いた者は面倒だ。ウルファーの首領も色々と面倒だった。


「おい、貴様。正統なる王位継承者である私に、馬上から話しかけるとは何事だ。すぐに降りて跪け」


「知らぬ。それにおぬしの王位継承権はすでに剥奪されているのではないか?」


「何だと?」


「アルフレッド様、お下がりなさい」


 スヴェインがアルフレッドの前に出て、俺を見上げた。


「これを見よ」


 スヴェインが二枚の紙を差し出したので、俺は馬から降りて受け取った。


「これは何だ?」


「この鳩の足に」


 スヴェインはそう言って二羽分の鳩の死体を俺に見せつけた。なるほど。鳩便を出したが、猛禽類にでも襲われ、目的地にたどり着く前に死んだのだろう。


「読むぞ」


 俺はスヴェインから受け取った手紙を読んだ。


『コンツェン軍約一万について。戦象部隊二千、騎兵三千、歩兵五千、奇怪な術を使う兵が確認できただけで三人。奇怪な術を使う兵三人が主力であり、それ以外の兵はその三人の護衛を主な作戦としている様子。援軍求む。スタニスラス』


『カプトヴェル城陥落。スタニスラス卿、討死。現在、近隣の民と共にナヴァル城にて籠城中。聖堂騎士団、サヌスト軍による連合軍、残り五百。コンツェン軍は歩兵一万の援軍があり、戦力差は広がっている。また、コンツェン軍による逃げ遅れた民への掠奪、虐殺が確認されている。援軍求む。ルノー』


 何と、カプトヴェル城が陥落したのか。それに民の虐殺か。確かナヴァル城とは既に廃城となっていたはずだ。

 戦象部隊二千と書いてあるが、人間の数であろうか、それとも象の数であろうか。確か戦象は象一頭につき、象使い一人に弓使いや槍使いを三人で、合計四人騎乗すると聞いたことがある。つまり、人間が二千と戦象が二千では、かなり違う。戦象が追加で千五百頭もいれば、勝てる戦も勝てぬ。何より、士気が下がるだろう。

 この情報が確かならば、先程見かけた軍はコンツェン軍かもしれぬ。だが、手紙にあった戦象がいなかったような気もする。


「我らもサヌスト王国が亡ぶことを望んではおりません」


「信用出来ぬな。おぬしらは民を人質にとっていたでは無いか」


「それは言葉の綾というものでございましょう。信じて頂く必要はありません。ですが、一つ。昨日見かけたサヌスト軍をコンツェン軍の目の前に転移させてやりました。二十万人ほどいましたが、あなたが転移をしたのを知っているので、疑われずに済みました」


「二十万…?」


 確か陛下がカプトヴェル城へ送った援軍も二十万と聞いていたが…


「その後、戦になったので我々は帰りました。どちらが勝ったのかは知りません。もしかすると、奇怪な術とやらにやられて全滅かも知れませんな」


 それが本当なら、アルフレッドどころではないな。いや、協力しろと言って、連れて行くか。


「スヴェインとか言ったな。おぬしはアルフレッドよりは話せる。そこで一つ提案だ」


「何でしょう?」


「協力しろ。そうすれば、これまでの行為を不問にして貰えるように言ってやろう」


「そんな事を言える立場ですか?周りをよくご覧なさい」


「何っ?」


 俺は慌てて周りを見た。

 反魔法結界と対魔法結界が何重にも張られ、伏兵の気配も感じる。それに肝心のアルフレッドが消えている。

 いくら民の姿が見えぬとは言え、家を吹き飛ばす訳には行かぬ。それにそもそも、こんなに結界を張られていては、今の俺には魔法が使えぬ。


「貴様…」


「今なら見逃して差し上げましょう」


「キアラ!クラウディウス!ジュスティーヌ!結界を破壊しろ!」


 俺は三人を喚び出し、そう命じたつもりだった。だが、誰も来ぬ。

 しまった。この三人を喚ぶのも魔法ではないか。どうしたものか。

 何か策はないものかと、辺りを見回していると、結界にヒビが入った。


「突撃!兄上を回収し、直ちに退却しろ!」


 アシルが来てくれたようだ。見たところ、人狼隊と人虎隊が五十人ずつ。そして後方にはエルフ魔法隊三十人がいる。

 陛下が言っていた討伐隊か。アルフレッド一人に対してであれば、過剰戦力ではあるが、今回は助かった。


「残念だったな、スヴェイン」


「一度、休戦と致しましょう」


「それはどうだろうな」


 アシルが俺の方に走ってきた。何と言うか、急げという表情をしている。


「兄上!すぐに退くぞ」


「ああ」


 俺はヌーヴェルに飛び乗って、アシルと並走した。

 そのままリシャールを脱出した。スヴェインから貰った手紙はそのまま持ってきた。

 ある程度、リシャールから離れたのでアシルにだけでも伝えておくか。


「「カプトヴェル城が」」


 アシルに話しかけたところ、同時にアシルも同じ事を言った。


「兄上から話してくれ」


「ああ。カプトヴェル城が陥落し、ナヴァル城にて籠城中だそうだ。それと、アルフレッドの部下が言っていたのだが、昨日出発した援軍二十万を奴らがコンツェン軍の近くに転移させ、戦わせたらしい」


「何だと?」


「アシルの方はなんだ?」


「いや、兄上が言った事と同じだ。一つ加えると、おそらく敵に魔法使いがいる」


「三人だな?」


「何だ、知っていたのか」


 やはり奇怪な術と言うのは魔法のことであったか。


「陛下に報告したのか?」


「もちろんだ。だが、二十万の援軍の事は初耳だ」


「ならば急がねばならぬな。二十万の大軍がいれば大丈夫などと考えぬ前に報告せねば」


「ああ。兄上、このまま王宮に転移しろ」


「分かった。穴を開ける」


 俺はそう言って、空間に穴を開けた。

 討伐隊が全員帰還したことを確認し、穴を閉じた。


「医務室だ」


「分かった。急ぐぞ」


 討伐隊には待機を命じて、すぐに陛下の所へ向かった。

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