第134話
俺はとりあえずエヴラールの様子を見に行った。
サガモアがずっと見てくれているが、まだ目を覚まさぬらしい。ただの疲労でこんなに寝込むものなのか。
サガモアからしばらく話を聞いていると、侍女が来て、陛下が呼んでいると言われた。
俺はアキを連れて陛下のもとへ向かった。
指定された部屋に入ると、陛下やジェローム卿、デトレフが武装をしていた。儀式用の派手なものではなく実戦用のものだ。まあ陛下の鎧は実戦用でも派手だが。ちなみにヴァーノンも短剣を握りしめているが、この様子では使えぬだろう。
「お待たせ致しました」
「うむ。ジェローム、今回の作戦の確認を」
俺が最後だったようで、作戦は決まっているらしい。
「は。武装はするな、という事でしたが、人質となる王都の民はジュストの指揮の下、一人も死なせません。怪しい動きをする者やダークエルフは発見次第、拘束します。そして我々はそのまま敵のアジトに乗り込み、殲滅します」
俺達五人、いや、四人で殲滅するつもりなのであろうか。俺の魔力は残り少ない上、足手まといを守らねばならぬ。それに陛下やジェローム卿、デトレフも一晩中、各地に指示を出しており、疲れているはずだ。
「その際、ヴァーノン卿が合図を送りますのでアシル殿とブアブダラ殿が率いる討伐隊が援軍に来ます」
「以上だ。質問があれば、今解決しておきたい」
質問か。特に無いが、何か言っておいた方が良いのだろうか。
「一つお聞きしたい事がございます」
「ヴァーノン、言ってくれ」
「アルフレッド王子がいなかった場合やアジトに案内されなかった場合はどうするのですか?」
「討伐隊を指揮し、確実に見つけ出す。討伐隊はジル卿の麾下の者が大半となるだろう。アシル殿が編成しているところだ」
アシルの姿が見えぬと思ったら、そんな事をしていたのか。
「ほかは?」
誰も無さそうだ。まあここで疑問を解決したとしても、実際は何が起こるか分からぬ。臨機応変に対応すれば良かろう。
「それでは出発する」
陛下が出発したので俺達もついて行った。ちなみにアキは城に帰し、レリアや子供達を守るように言ってある。まあ俺の城に侵入など出来るはずがないので、休憩してくれれば良かろう。
西の門までは無言で進んだ。皆、緊張しているようだ。それもそうか。皆、一晩中働いて疲れている。俺も魔力の無駄遣いは出来ぬほどには疲れている。
西の門は開かれている。王都の門は日の入りと共に閉められ、日の出と共に開けられる。だが、日の出前にこの門は開いている。特別に開けてあるのだろう。
「僭王が来たぞ!」
俺達が西の門に到着すると、民家から出てきたダークエルフが叫んだ。その家の住民が奥で拘束されている。どうにかせねば。
「僭王が来たぞ!」
ダークエルフの呼び掛けに応えるように、門外からアルフレッド一派が集まってきた。何事か、と家から出てきた民が驚いている。
「そこにいる者たちよ。衛兵を呼べ」
「は、はい!」
俺はとりあえずそう命じておいた。まあジュスト殿ならば、すぐに駆けつけてくれるだろう。
「武装はするなと伝えたはずだ」
ダークエルフの騎士がそう言った。おそらくこの男がこの隊の隊長だろう。ダークエルフと人間、合わせて百五十騎はいる。
「そちらが武装を解除すれば、我々も解除しよう」
陛下が前に出てそう言い放った。そういう取り決めだったのか?
「ふん。王都にはアルフレッド様の部下が潜んでいる。いつでも焼けるぞ。もう一度言う。武装を解除しろ」
先程から偉そうだな。馬上から陛下を見下している。この男の部下も皆、馬から降りぬ。
「……武器は渡そう」
「それで構わん。おい」
「はっ」
ダークエルフの近くにいた騎士が馬から降りて、こちらにやってきた。この男は人間だ。
その男は陛下から剣と短剣を、ジェローム卿から剣と短剣、偃月刀を、デトレフから剣二本を、ヴァーノンから短剣を受け取って俺の前まで来た。俺は剣を鞘ごと渡し、短剣も二本とも渡した。
まあ俺は異空間に弓矢と槍が入っているので、大丈夫だ。ただ、護衛対象が二人から四人になっただけだ。キツイな。
「行くぞ」
アルフレッド一派は俺達を囲んで進み出したので、俺達も歩いてついて行った。甕城を出たところで、馬車が二台用意してあった。監獄を台車に載せ、馬で引いているので、馬車とは言わぬのか?まあどちらでも良いか。
「おい、乗れ」
俺と陛下、ジェローム卿とデトレフ、ヴァーノンに別れて乗せられた。最悪、陛下だけでも守れるか。
この監獄に入った瞬間、外界と隔絶されたような感覚に襲われた。試しにアシルに念話を送ろうとしたが、送れなかった。まずいな。
「ザック隊以外は出発。ザック隊、王都は好きにしろ」
ダークエルフの掛け声で動き出した。ザック隊と呼ばれた三十人程が王都に突入して行った。ちょうど衛兵が来たところで、戦いになった。王都から離れてしまい、どうなったか分からぬが、勝利したことを祈ろう。
「リック隊は南門から、ディック隊は北門から、日の出と同時に突入しろ」
リック隊とディック隊が離れていった。まずいかもしれぬな。ジュスト殿に何とかしてもらわねば。
だが、こちらの兵力は減った。どうやら一隊は三十人で編成されているらしく、俺達の相手は残り二隊、六十人だ。
「我々は当初の予定通り、このままリシャールへ向かう。ヘイグ隊も当初の予定通り、ジューヴェへ行け」
まずい。ジェローム卿らが乗った馬車と離れてしまった。あれではこちらの位置が討伐隊に分からぬ。
ちなみにリシャールとジューヴェは反対方向の街だ。
「陛下、少し耐えてくださいませ」
「う、うむ」
俺は思いっきり息を吸った。
「ヴァーノン卿!討伐隊に合図を送れ!早く!」
俺は大声でヴァーノンに指示を出した。俺の声で鉄格子が震えている。
「ヴァーノン卿!」
「おい、貴様!黙れ!」
近くを走っていた槍騎兵に槍を突き出されたので、それをひったくった。そのままその槍の石突で槍騎兵に打撃を与えた。バランスを崩した槍騎兵は落馬し、後続の槍騎兵に踏み潰され、踏んだ槍騎兵もバランスを崩して落馬し、それを踏んだ槍騎兵も落馬し…と、合計五騎の足止めに成功した。
しばらくすると、ヴァーノン達が連れて行かれた方角で大爆発が起こった。
「あれは…」
「アシル殿の魔導具だそうだ。よく分からないが、爆発で敵を攻撃すると共に、音と煙で味方に居場所を報せられる」
「確かに、あれだけの音ならば聞こえるかも知れませぬな」
陛下の説明で、今の爆発が敵の攻撃によるものでは無いと理解できたが、アシルはいつの間にあんなものを作っていたのだろうか。
「陛下、敵のもので申し訳ございませぬが、こちらをお使いください」
「いや、これはジル卿が…」
「私でしたら大丈夫です。もう一度、奴らに貰えば良いのですから」
「では、ありがたく」
俺は先程、槍騎兵から奪った槍を陛下に渡した。俺はどちらかと言うと槍は苦手なので、剣を奪う際に邪魔にならぬように捨てようと思ったが、どうせ捨てるなら陛下に渡せば良いと思ったのだ。
「おい、落馬したくなければ、貴様らの隊長と話をさせろ」
俺は近くを走っていた槍騎兵に話しかけた。先程、足止めをしたのは右側の五騎なので、左側にはまだ兵がいる。
「少し待て。隊長!ティル隊長!」
「何だ?」
隊長と呼ばれたダークエルフが速度を落として俺達の近くに来た。最初に陛下と話した男だ。
「コイツが話をしたいそうです」
「無視しろ」
「おい、貴様」
「………」
何を聞いておこうか。まずはアルフレッドがダークエルフの部下をどこで手に入れたのか聞いておこう。
「返事をせぬか。まあ良い。貴様らダークエルフは、なぜアルフレッドに従う?」
「………」
「魔王の操り人形では無かったのか?」
「黙れぇ!我々は我々の意思でジャビラ様に従った。決して操り人形などでは無い」
「話せるではないか。理由を話せ。なぜアルフレッドに従っている?」
「…我々の意思だ。貴様には分かるまい」
「そうか。ならば、俺も俺の意思で貴様を殺すか」
俺はそう言って鉄格子をこじ開けた。
そしてティルとやらの後ろに飛び乗った。そのままティルの首に腕を回した。
「貴様ら、すぐに止まれ。止まらねば、この男の首をへし折るぞ」
「構わん。止まるな!進め!」
「仕方あるまい」
俺はそう言ってティルの首をへし折った。剣だけ回収し、ティルの死体は捨てた。
「陛下、しばしお待ちくだされ」
「うむ」
俺はそのまま馬を操って一隊の前に出た。
「俺より先に進めば、首を刎ねる」
俺はそう言ったが、効果は無かったようで三騎が俺より先に進んだ。仕方ないので、土魔法で段差を作って落馬させ、風魔法で空気を圧縮して、首を刎ねた。




