第12話
俺らは陣に戻り、まず夜ご飯を食べた。アシル達は狩りが出来なかったので俺達の獲物だけだ。
二十四頭も食べれるのが不思議に思うかもしれないが俺やアシル、オディロン、ロドリグの食欲はこの一ヶ月で増えた。その分、長い間、食事無しでも耐えられるようになったが半日以上経つとお腹と背中がくっつきそうになる。もしかしたらくっついてるかもしれぬ。それとオディロンやロドリグも他人に食事しているところを見られても大丈夫なようになった。これもこの一ヶ月での成長だ。
ヴェンダースの捕虜もこちらを警戒しながら美味しそうに食べている。この世界では毒があまり広く知られておらず毒の存在を知っているのは貴族以上、そして毒殺に警戒するのは王族やそれに近しい者のみだ。
それともう一つ、捕虜について。この捕虜はさっきのヴェンダース兵達の隊長である程度ならばサヌスト語が話せるらしい。
それにカール班にもリュファスというヴェンダース語が話せる従者がいた。リュファスは元々ヴェンダース王国の奴隷だったそうでジェローム卿がヴェンダース王国に行った時に買ってきたらしい。
ちなみに今みたいに外でご飯を食べる時、俺らは皆、同時に食べる。その方が楽しく美味しく食べれるからだ。まあ、おかわりはその時、隣にいる従者に頼むのだが。今回はカールだった。
夜ご飯を食べ終えた俺とアシル、そしてもしも言葉が出てこなかった時の為に通訳としてリュファスが捕虜へ尋問する。
俺らに囲まれてあたふたしていたのでオディロンとロドリグには別の場所に行ってもらい、改めて尋問を始める。
「貴様は誰だ?」
「ス、ステファヌだ。ヴェンダース王国の南方警備隊の十兵長だ」
南方警備隊?なんだそれは?教えてくれ、アシル。
───サヌスト王国はヴェンダース王国の南にある。つまり国境警備隊みたいなものじゃないか?───
なるほど。
「では、スステファヌ。貴様ら南方警備隊はなぜ国境を越えた?」
「ステファヌだ。それは言えん。部下も皆、貴様らに殺された。もうついでだ、俺も殺せ」
「んーじゃあ、アシル。俺の直属部隊をエジット殿下が作ってくれるみたいだから結成次第、ヴェンダース王国に攻め入るか。そうすればこいつらの目的も分かるだろう?」
アシル、話をあわせてくれ。
───もちろんだ───
「ジル殿の部隊だけでは少ないであろう。どうせならジェローム卿にも協力してもらおう。喜んで協力してくれるだろう。何せ、戦争は金がかかるからな。資金源となる国があったらエジット殿下も大喜びだ」
「そうだな。それにヴェンダース王国を支配下に置けばエジット殿下の勢力も大きくなるだろうな」
ちなみにこれらの事はリュファスが通訳し、一言たりとも取りこぼさずに理解してもらっている。
ステファヌが何やら叫んでいる。
「ご主人様が罵倒されておりますが訳しますか?」
「ちょっとだけ頼む」
「『小僧!貴様の眼球をくり抜いてスープにして飲ましてやろうか!』と申しております」
「眼球をくり抜くとは恐ろしい。では、ヴェンダース流に煽ってやれ」
「承知しました」
眼球をくり抜かれたは前が見えなくなってしまうではないか。ステファヌとやらは馬鹿なのか?
リュファスが煽り終わったようでステファヌがもっと叫んだ。
「何と言ったのだ?」
「『貴様の左右の眼球を入れ替えてやろうか!そうすれば貴様の歪んだ価値観も治るであろう』と申しました。これは私が思いつく最大級のヴェンダース流の煽りです」
「ヴェンダース王国では、眼球が流行っているのか?」
「流行ってはいませんが昔からヴェンダース王国では、眼球に関する言葉が多く存在します」
「そ、そうか。まあ、怒ったことで口が軽くなってくれると良いがな」
「そうですな」
怒らせたのにはもちろん理由がある。怒ったことで秘密をつい、話してしまう事がないこともない。まあ、俺は秘密は守る男だからそんなことは無いが。
「まあ、今夜はこれくらいにしておくか。明日、帰ったらエジット殿下に任せればいいだろう」
「おいおい、ジル殿はこいつをこのまま放置するのか?」
「じゃあ、アシル。こいつを眠らせろ」
「どうやって?」
「子守唄でも歌ってやれ」
「子守唄?では、催眠術を使おう」
「お、おう。頼んだ」
そう、アシルはこの一ヶ月で催眠術にハマった。城の近くの街の領主が管理する図書館で催眠術の本を借り、その本のシリーズを全て言い値の倍で買い取っていた。
俺もその時一緒にいたので俺も何か始めようと呪いの本を借りて、買った。この本自体が呪われているのではなく、呪術の本だ。だが、もう飽きた。と言うよりも怖くなって途中でやめた。
ちなみに二人で銀貨五十枚程だった。まあまあ高い買い物だ。この世界では紙が貴重だそうで本が高かった。
まあ、そんなこんなでアシルは今、自分は催眠術師だと自分に催眠をかけてからステファヌを眠らせようとしている。その方が良いらしい。思い込みは大切なんだと。俺も一度、世界一の剣士であると思い込む催眠をかけてもらいジェローム卿と勝負したら勝った。それまで一度も勝てなかったのに、だ。
「眠ったぞ。こいつはその辺の木に結んでおく」
「おう、なるべく太い木にな」
「そんなのないだろ」
この森の木は太さがほとんど一緒なのだ。同じ種類の木なのかな?
「おーい、皆集合だ」
俺の号令で皆が集まってきた。これから大事な発表をする。
「今日はもう休め。火の片付けとかは俺らがやっとくから」
「ですが…」
「これは命令だ。ゆっくり休め」
「「「は!」」」
これは命令だ、と言うと従う俺の従者達。最初から従ってくれればいいのに。
カール班が幕舎に入ったことを確認すると俺とアシルは行動に移った。焚き火から松明の火を取り、焚き火の火を消す。松明をたくさん付け、幕舎を囲むように地面に刺していく。これで夜中、出掛けても大丈夫だろう。獣は火を嫌うらしいから。
「じゃあ、アシル。あれをやろうか」
「おう」
あれとは『鳥落とし』だ。飛んでいる鳥を矢で射落とすというものだ。これが難しい。鳥の行動を予測して射たなければ外れる。
まあ、そんなことを続けているからかこの強弓も軽々と扱えるようになった。ちなみにカールに一度この弓を貸してみたらビクともしなかった。
あ、鳥がいた。俺は狙いを定めて矢を放った。矢はぐんぐんと鳥に近づき、当たった。アシルも別の場所からやっているのだがアシルは外したらしい。射落とした鳥はオディロンが回収に行く。
最近は一晩中、鳥落としをしている。この鳥の肉は体に良いらしく力がみなぎる感じがするのだ。
もう朝になり、カール達が起きてきた。ちなみに射落とした鳥は朝ご飯になる。
「「「おはようございます、ご主人様」」」
「おう、おはよう」
朝は皆で俺とアシルにそれぞれ挨拶する。
朝ご飯をカール班と食べた。この鳥はやはり美味い。
朝ご飯のあとは昼まで狩りをする。この狩りは弓しか使わない。俺達が狩りをしている間に従者達は片付けをする。
「おい、ジル殿!あっちに大物がいるぞ!」
「お前が見つけたように言うな。どうせロドリグだろ?」
「まあ、そうなんだが」
───我も見つけていた。ただジル様に成長して欲しかった───
分かってるよ。オディロンが俺の事を想ってくれていることは。
オディロンに念話で返事をし、アシルの言う大物へと向かう。
「いたな」
「あれはさすがに一矢じゃ、倒せないか?」
「目を狙おう。俺は右目、ジル殿は左目だ」
「そうしよう」
俺とアシルは声を低めて話している。どうせなら念話で話した方が良いのだろうが。
「俺の合図で放て」
「なんて言う?」
「『アシル、今だ!』って言う」
「わ、分かった」
俺は獲物の左側に回り込む。
「アシル、今だ!」
俺とアシルの矢が獣の両目に刺さり、獣が暴れ出す。そこをオディロンとロドリグが首に飛び付きトドメを刺す。これが大物の狩り方だ。ちなみに俺達流の。
大きな音を立てて獣は倒れる。断末魔の叫びをあげて絶命した。
「よし!」
「しかしこいつデカイな」
「おう、どうやって持ち帰る?」
そう、この獣は初めて見た。三メルタ(一メルタは一・五メートル)程の高さに顔からお尻まで四メルタ程あり、尻尾や牙を含めると五メルタに届きそうだ。
「カール達を呼んでどうにかしてもらうか」
「じゃあ、俺がカール達を呼んでくるからジル殿は見張っていてくれ」
「おう、了解だ」
そう言ってアシルはカール達を呼びに行った。
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