第128話
俺はすぐさま自分の部屋へ向かった。
エヴラールは別の所へ向かった。アルフォンスやラミーヌ、ヴァトーと話をしてくると言っていた。俺を移動手段として使ったのか。エヴラールもやるようになったな。
途中でロアナと会ったので、俺達の分の昼ご飯も用意するように伝えた。幸い、調整できるようなので良かった。
まあキトリーは自分の異空間に試作品や趣味で作った料理が貯められている。試作品と言えど、キトリーの料理が不味いことは無い。なので心配は無かった。
「レリア、戻ったぞ」
「あ、おかえり、ジル」
「レリア、ただいま」
「どうだった?」
「晩餐会に誘われてしまった」
「今日?」
「ああ。レリアも来るか?」
「行ってもいいの?」
「ああ。ダメなら途中で抜け出せば良い」
「じゃあ、お昼を食べたら着ていく服、選んでおくね」
「楽しみにしておこう」
「ねえ、何で先に行っちゃったの?」
レリアの服を楽しみにしながら、ソファに座ると隣にユキが座ってそう言った。先に行っちゃった、と言うのは朝の事であろう。
「すまぬな。俺もゆっくりして行きたかったが、俺は意外と人気者でな。俺が行かねばならぬ事も多い」
「ジルさんが人気なんじゃなくて、使徒が人気なんでしょ?」
「まあそれはそうだが、俺は使徒で、使徒は俺だ」
「主殿を悪く言うな。主殿は主殿の判断でユキをおいて行った。つまり主殿はユキよりワタシを選んだのだ」
アキが訳の分からぬことを言い出した。俺は俺の判断でユキをおいて行ったが、別にアキを選んだ訳では無い。
「いいよ。今日の夜だって、どうせまたお姉ちゃんと晩餐会?に行くんでしょ?」
「ワタシはヤマトワ代表だ」
「ユキも来たければ来れば良かろう。まあ子供が来ても楽しめぬだろうがな」
「ユキが行っていいってことは、俺も行っていいの?」
「カイがいいってことは、オレも?」
「いや、待て待て。子供が来ても楽しめぬぞ。そんな事より、俺の頼みを聞いてくれ」
カイやファビオを行きたいと言い出してしまった。さすがに子供を三人も引き連れて行っては迷惑だろう。レンカに子守りを頼むか。確かレンカは子供好きと聞いたのでちょうど良かろう。
「何?」
「いいよ」
「まだ言っておらぬ。レンカがおぬしらに頼みを聞いて欲しいと言っていた。聞いてやってはくれぬか?」
「なんて言ってたの?」
「知らぬ。まあそういう事だからレンカを頼んだぞ」
「いいよ」
レンカならばこの会話を聞いているであろう。話を適当に合わせて子守りを頼まれてくれれば良いが、適当に押し付ければ良い。
「私も?」
「ああ。アキには出来ぬ事だそうだ。ユキも手伝ってやってくれぬか?」
「しょうがないな〜。ジルさんがお姉ちゃんじゃなくて私を選んだんだから」
「この件に関してはな。ユキにしか出来ぬこともあるし、アキにしか出来ぬこともある」
「主殿の言う通りだ。頼んだぞ、ユキ」
「お姉ちゃんじゃなくて私が頑張るね」
ユキはなぜ対抗心を抱いているのであろうか。まあ二人の事だ。俺が気にする事でもあるまい。
「そういう事だ。レンカ、良かったでは無いか」
俺はレンカを喚んでそう言った。
───しょうがないですね。今回だけですよ───
すまぬ。これからは事前に伝えておく。
───そういう事じゃないんですが。まあ分かりました───
頼んだぞ。
念話で直接説得できたので大丈夫そうだ。レンカは裏切らぬであろう。
「あの、そんな事よりお昼ご飯の準備が出来てるんですけど」
「すぐに食べよう」
俺達がソファの近くに集まって話をしている間に、ロアナとサラが昼ご飯の準備をしていたようだ。
俺達は食卓に座り、昼ご飯を食べ始めた。心做しか、いつもより多い。
「戴冠式、どうだった?」
レリアがそう聞いてきた。心配だったのであろうか。
「妨害などはなかったぞ」
「そういう事じゃなくて、凄かった?」
「ああ。最初の音楽も凄かったが、王冠が綺麗だったぞ」
「見たの?」
「ああ。名と価値は知らぬが、宝石が付いていた。それも数え切れぬほどだ」
「数えようとしたの?」
「ああ。やる事が無かったからな」
「アキも見た?」
「ワタシは遠くからしか見てない。『今、異国の方が陛下と猊下に近づかれるのは、ちょっと…』とか言われたぞ。クソっあの聖騎士め。前王を捕まえたのはワタシだぞ。そんな事も知らんくせにワタシの事を邪魔者扱いしやがって。だいたいワタシとキイチロウがどれだけ主殿の……」
「まあまあ。あたしも五歳くらいの時に行ったことあるけど、異国からの使者とかは後で挨拶に行くんだよ」
レリアも行ったことがあるのか。おそらく前王の戴冠式であろう。
レリアが五歳くらいという事は十七年前か?よくそんな昔の事を覚えているな。さすがだ。
「姫も見た事があるのか?」
「後ろの方からだけどね」
「なんだ、姫も近くではないのか」
「アキもでしょ」
「だから文句を言っているのだ」
───王宮が襲撃された!アルフレッドを見たという者もいる。すぐに来い!───
アシルから念話が届いた。王宮が襲撃されたか。それもアルフレッドが率いているとなると、面倒だ。すぐに行かねば。
「アキ」
「ワタシも聞こえた」
「レリア、すまぬ。少々面倒な事になるかもしれぬので行く。晩餐会が始まる前に迎えに来る。おそらく日の入り頃であろうから準備をしておいてくれ」
「うん、分かった。行ってらっしゃい」
「ああ。行ってくる」
「気をつけてね」
「ああ」
俺はそれだけ言い残すと、自分の分のご飯を全て口に放り込み、鎧を纏った。ちょうどその時、エヴラールが駆け込んできた。
「ジル様!」
「エヴラール、アシルから聞いたな?」
「はい。王宮が襲撃されたと」
「ならば行くぞ」
「御意」
俺は二人を連れて王宮の近くに転移した。エヴラールは帯剣しているが、アキは丸腰だ。さすがにそれはまずいので、予備の刀を渡しておいた。
「主殿、あっちだ!」
アキが指さした方を見ると、丸腰のダークエルフが聖騎士と衛兵に囲まれていた。丸腰の相手一人に対し、聖騎士や衛兵は十人以上いる。なぜ手出しせぬのだろうか。
「お前は包囲されている。投降せよ」
「逆だ。我々はアルフレッド様の指示で王宮を包囲している。お前らが投降し、僭王の首を差し出せ。さすれば民の命は助けてやろう」
アルフレッドに忠誠でも誓ったのか?ダークエルフはジャビラに洗脳されていると思っていたが、そうでない者もいるらしい。いや、世代が変わって洗脳が解けたのかもしれぬ。
「加勢しよう」
俺はそう言ってダークエルフに歩み寄り、ダークエルフの鳩尾に硬化魔法を貸与した右の拳を叩き込んだ。
ダークエルフは呻き声を漏らしながら、走り出した。走った先にはアキが先回りしており、刀を抜いている。
「貴様ぁ!」
ダークエルフは何も無い所から剣を抜き、アキと斬り結び始めた。
「使徒様ではありませんか!それにあちらはヤマトワからの使者殿では?」
聖騎士の一人が俺の顔を見て驚いている。
「ああ。ここだけの話という訳でもないが、アキは俺の部下だ。ヤマトワからの使者はキイチロウとその部下だ」
「ですが、あの方はヤマトワ人では?」
「それがどうした?異国人の部下がいて何が悪い?」
「あ、いや、悪いのではなくてですね、理由を…」
「俺がアキを部下にしたいと思い、アキが俺を主と認めた。それだけだ」
「そうですか」
「そんな事より王宮が襲撃されたと聞いたが?」
「ええ。侍従に扮して紛れ込んだようです。そして今は散り散りに逃げているので、衛兵隊と協力し、追っているところです。奴らは奇怪な術を使うのでお気をつけください」
「そうか」
俺は聖騎士にそう言ってアキの加勢に向かった。
予備の刀を使っているとはいえ、アキと対等に渡り合えるとはこの男、なかなかやるな。
俺はダークエルフの背中を思いっきり蹴った。背骨が折れた感触があった。
「そこの衛兵、こやつを捕らえろ」
「は、はい!」
衛兵が縄を取り出してダークエルフを拘束した。その時、王宮の方で爆発が起こった。塀に隠れて見えぬが、おそらく庭か一階であろう。
その数瞬後、今度は三階辺りが爆発した。
「アキ、エヴラール!」
「行くぞ」
アキに先に言われてしまったので、エヴラールに頷いてついてくるように伝えた。爆発が起こった方へ向かう。幸い、赤い煙が上がっているので場所は分かる。
爆発が起こったと思われる場所に着くと、かなりの面積が吹っ飛ばされているのが分かった。どうやら二度の爆発で王宮の一角が崩れてしまったようだ。
「ジュスト殿!」
「…ジル卿」
爆発に巻き込まれたのか、ジュスト殿が倒れている。幸いと言ってはなんだが、回復魔法で治りそうだ。
「主殿!」「ジル様!」
二人に呼ばれたのでそちらを向くと、アルフレッドとダークエルフ十数人がいた。




