第124話
俺は結界の中で二人と向き合い、クラウディウスの合図を待った。
「始めろ!」
クラウディウスではなく、アキの合図で始まった。カイに起こされていたようだ。
俺はとりあえず背後に、ガトリング砲を五挺、カノン砲を五門創った。
ガトリング砲はあえて狙いを定めずに連射した。カノン砲で、二人を狙う。
ファビオが魔盾で魔力弾を防ぎながら、二人は進んできた。この魔法は、生物にしか効かぬので、盾で防ぐのは正解だ。衣服や鎧でも防げぬことは無いが、安全ではない。
二人が進み、剣の間合いに入った。一応、魔法の試し撃ちなので、剣は使わぬ。魔力弾を増やすのみだ。
二人がどういう作戦か知らぬが、少しずつ被弾している。
「やれ」
カイの合図で二人の連携攻撃が始まった。
まず、ファビオが魔剣で大きな一撃を放つ。そして、それを躱すと、カイの突きの攻撃が来る。カイは雷魔法を身体強化に使っているようで、速い。カイは刀を引く瞬間、目くらまし程度の魔法を使った。
ファビオが魔剣による大きな攻撃と防御を担当し、カイが刀による小さな連撃と魔法攻撃を担当する。ファビオの攻撃は隙が生まれやすいが、ファビオの攻撃が終わった瞬間、カイの連撃が来る。つまり、ファビオの隙をカイがカバーする形だ。
これがこの二人の新たな戦い方らしい。クラウディウスの提案であろうな。
「半日で強くなったな。並の兵士であれば、既に三度は斬られているであろう」
「え?ほんと?!」
「ああ。だが、それは俺も同じだ」
俺はそう言って二人を破裂させた。結界の外に転移した二人は何をされたか分かっておらぬようだ。
俺も自分を破裂させて、外に転移した。
「あれが俺の新しい魔法だ。少しでも被弾した時点で、おぬしらの負けは決まっていた」
「え、あの魔力の弾が当たったから?」
「そういうことだ」
「アニキ、すっげー」
「おい、ズルいぞ」
「ジル様、さすがに初見殺しの魔法をお使いになるのは、どうなんだ?」
クラウディウスの言う通りだ。だが、これは俺の魔法の試し撃ちであって、二人を鍛えるためでは無いので、俺としては良い。まあ、そんな事をわざわざ説明する必要も無い。
「実戦では初見の魔法もあるだろう。初見の魔法に対する警戒心が足りぬぞ」
「その通りだ。気をつけるのだぞ、我が弟子どもよ」
「はい!」
「姉ちゃん、どう思う?」
「主殿の言う通りだ。避けなかったお前らが悪い。実戦じゃなくて良かったな」
「俺もそう思う」
カイは相変わらずアキの言う事は聞くのだな。俺やクラウディウスの言う事は一度疑うのに。
「!」
いきなり城の方から矢が飛んできた。幸い、クラウディウスが掴み取ったので、誰にも怪我はない。俺は咄嗟に鎧を纏って弓矢を取り出し、矢を放った。
「いてっ」
射手に命中したようだ。そんなことより、アシルの声がした。
よく射手の方を見ると、肩に俺の矢が刺さったアシルがいた。その手には弓がある。
アシルが裏切り?
「裏切りか、アシル」
「後ろを見ろ」
後ろを見ると、クラウディウスが紙を手にしていた。どうやら矢に結びつけてあったらしい。
「クラウディウス、何と書かれている?」
「『夕食だ。戻って来い』と」
「紛らわしいことをするものだ」
つまり、夕食が出来たので俺を呼ぶように頼まれたが、ここまで来るのは面倒なので、矢に手紙をつけて俺に報せたということか。
「少しズレていたらお前は死んでいたぞ。いや、ワタシはお前の事を心配しているのではなくてな、主殿が同士討ちの罪を着せられる心配をしているのだ」
「兄上はまず生け捕りを目指す人だ」
「いや、すぐに殺すタイプだ」
アシルとアキが俺の性格について、言い合いを始めた。
ちなみに俺は余裕があれば生け捕りにするが、相手が複数の強者であれば一人を除いて殺す。
まあこんな事を説明しても意味が無いので、アキを置いて城へ向かった。アシルは俺の部屋の近くの窓から矢を放ったらしいので、俺の部屋に帰れば良かろう。
ファビオとクラウディウス、ジュスティーヌを連れて部屋の前に戻ると、アシルがいた。まだ言い合いを続けているらしい。
「アキ、カイ。先に食べているぞ」
俺はアキとカイにそれだけ言うと、アシルの首の後ろを引っ張って部屋に戻った。ちなみに傷は既に治っていた。
「あ、ジル、おかえり」
「ただいま、レリア」
「モモさんに聞いてきたよ。後で話すね」
「ああ。楽しみにしている」
俺はアシルから手を離して椅子に座った。アシルの言った通り、夕食の準備が出来ており、いつでも食べれるようだ。
「俺は帰る。お、奥さ…義姉殿が俺について聞き回っていたのは知っている。俺がいない方が話しやすいだろう」
「そうか。アキとすれ違っても喧嘩はするな」
「アイツ次第だ」
アシルはそれだけ言うと、部屋を出ていった。
なぜ、レリアの事を奥さんと呼ばず、義姉殿と呼んだのであろうか。確かにレリアを直接奥さんと呼んでいるところは見たことがないが、そんなに違うものであろうか。
「アメリー、クラウディウス達の分はあるか?」
「準備してありますよ」
「そうか。ならば二人も食べて行くといい」
「そうさせて頂こう」
クラウディウスが椅子に座ると、ジュスティーヌが椅子にクラウディウスの椅子にくっつけた。やはり、一緒に食事をする時はくっついていたいのだろうか。
ちなみにキアラはさも当然のように、座っている。
「では食べよう。いただきます」
「「「いただきます」」」
俺はアキとカイを待たずに食べ始めた。
「レリア、どうであった?」
アシルの事が気になったので、早速聞いてみた。それにアシルの事はアキが来る前に話した方が良かろう。
「あ、もう?」
「ダメか?」
「ダメじゃないよ。えっとね、ナナさんとアシルはね、まだ恋人同士じゃないんだって。片想い同士みたいな?」
「つまり、両想いと言うことか?」
「そうだけど、そうじゃないみたいな…お互い自分の想いに気付いてない感じ?」
自分の想いに気付かぬとはどういう状況だ?
「違うよ。二人とも気付いてるけど、気付いてないって言い聞かせてるんだよ」
「なぜだ?」
「ナナにはゴハチロウとか言う許婚がいるからよ」
「なるほど」
ユキとキアラがそう補足した。そう言えば、この二人も一緒に行っていたのを忘れていた。
「その許婚の事はアシルは知っていのか?」
「主殿!勝ったぞ!」
アキが勢いよく扉を開けてそう言った。いいところであったが、戻ってきてしまったか。
「あ、ほんとに食べているとは聞いてないぞ」
「言った。カイ、今日はアキと二人きりでご飯を食べてはどうだ?」
「そうする!姉ちゃん、行こ!」
「アメリー、頼んだ」
「はい」
「ワタシは主殿と一緒に食べる。カイは好きにしろ」
「ちぇっ」
そう言えば、カイはアキの事をとんでもなく愛しているが、アキは別にそうでも無いのを忘れていた。
「それで許婚の事は知っているのか?」
「知ってるから気遣ってるんでしょ?」
「それもそうか」
「おい、アイツの色恋などワタシに聞かせるな。それよりもワタシの話を聞け」
アキはこんなに自分勝手であっただろうか。
「仕方ない。後で聞かせてくれ」
「うん、もちろん」
「そこでアイツをボコボコにしてきた」
アシルに言い聞かせても無駄であったか。
アシルはアキと関わり合いたくないだけで、嫌ってはいないのだ。いや、もしかしたら嫌っているかもしれぬが、関わり合いたくない方が勝つのだ。
だが、アキはアシルに勝ちたいのである。なので、ほとんどの喧嘩はアキから始まる。
「やっぱり二人だと、楽だな。ワタシだけでも勝てるけどな」
「そうか。どこまでやった?」
「気を失うまで殴った」
「何?」
「いや、ワタシは悪くない!すれ違った時に、『俺はお前の主の弟だ。本来ならお前の行為は極刑に値する』とか言ったから、後ろから三発殴っただけだ」
アシルの言う事が正論ではあるが、まあアキにそんな事を言っても『主殿までアイツの味方をするのか?見損なったぞ!』とか言って不機嫌になりかねないので、言わぬ。
「二人でやったのでは無いのか?」
「カイはべーってしただけだ。殴ったのはワタシだけだ」
「そうか。ではアシルを助けに行ってくる。さすがに気を失ったまま放置しておくのは良くない」
「大丈夫だ。ガエタンとかいう奴に任せてきた。アイツが倒れたら上から出てきた」
「そうか。まあ何かあれば知らされるであろう」
ちなみにガエタンとは、ウルファーの一員で、今はアシルの下で色々と暗躍している。




