第123話
ジュスティーヌに色々と聞いてみたが、本当にえげつない魔法ばかりであった。
例えば、丸一日かけて体が引き伸ばされて最後は全身引きちぎれて死ぬ魔法や黒目のみを抉り取る魔法、歯を歯茎に押し込む魔法などがあるらしい。
一番えげつない魔法を俺に使ってもらった。
痛覚を千倍にした上で爪がじわじわと剥がされ、修復される。それを繰り返す魔法であった。痛みで死ぬかと思ったのはこれが初めてかもしれぬ。
ちなみに、修復されるのは回復魔法では無いようで、俺の爪も元通りだ。
新魔法開発については俺もアキも上手くいった。
俺の方は、任意の大きさの魔力弾を相手に当て、魔力が相手に浸透すると、任意のタイミングで相手の体を破裂させることができる魔法を創った。
任意の部位のみ、例えば手のみを破裂させることも出来る。また、一度魔力が浸透すれば、何度でも破裂させることが出来る。
魔力が浸透する時間などは相手の実力によるが、それほど長くない。例えるならば、水が沸騰するまでの時間と同じだ。水量が相手の実力で、火力が術者の実力と魔力弾の大きさだ。大きければ大きいほど早いが、足の小指の爪程の大きさの魔力弾でも時間をかければ浸透させることが出来る。
この魔法は『破裂魔法』と名付けた。
アキの方は雷魔法を改造し、二つの魔法を創っていた。
一つは、無色の雷魔法が無音で撃てる魔法だ。同じ魔力を込めると、通常の雷魔法に威力はやや劣るが、それでも充分使えるであろう。
アキはこの魔法を『暗殺雷』と名付けていた。
もう一つは、雷魔法の威力を高め、意図的に黒い雷を発生させる魔法だ。黒い雷魔法は追撃機能がついている上、威力も高い。
通常の雷魔法は黄色だ。魔力を込めすぎると黒くなるが、平均的な魔力量であれば、一発撃っただけで魔力切れで死ぬ。偶然黒くなることもあるが、そちらは一億回撃って一回あるかどうかの確率らしい。
欠点としては、難易度が高い事と、爆音が鳴る事だ。難易度の方は練習して何とかすると言っていたし、爆音の方はアキは普段から静かな戦いをせぬので大丈夫だ。
アキはこの魔法を『必中黒雷』と名付けていた。
今は練習中だ。さすがに俺の破裂魔法は練習出来ぬので、アキの魔法の的になっている。
「主殿、いくぞ!」
「ああ。いつでも良いぞ」
アキの必中黒雷が俺の対魔法結界を破壊した。
先程からやっているが、破壊までに三発必要だ。それに二十回に一回は失敗するので、まだ練習が必要であろう。まあ俺の結界を破れる時点で、最強クラスの魔法に変わりない。
ちなみに、暗殺雷は完璧に操れるようになっていた。
一度何も知らぬアシルに撃っていたが、命中していた。アシルは普通の魔法なら当たる前に何らかの対処をする。だが、当たったのだ。つまり、使える。
「主殿!一回だけでいいから、主殿に撃たせろ。じゃないと自信が持てん」
「それで俺が死んだらどうする?」
「キアラが使っていた結界を使えばいいだろ」
「確かにそうだ」
「では、わたくしが張らせていただきます」
ジュスティーヌがそう言って、先程の結界を張った。キアラが張っていたものに比べると小さいが、俺とアキが入れるなら良いのだ。
「ちゃんと受けろ」
アキはそう言いながら必中黒雷を俺に撃った。
黒雷は俺の腹に当たり、弾け飛んだ。上半身と下半身の二つになった俺は、外の結界に転移した。
アキも自分で首を切ってこちらに転移してきた。
「俺を吹っ飛ばせるなら充分使える。この結界を使えば、俺の魔法も使って良いであろう?」
「じゃあワタシに勝ってみろ。主殿は新しい魔法しか使うな。ワタシも新しい二つしか使わん」
「分かった。ジュスティーヌ、結界を大きくしてくれ」
「承知しました。キアラ様がお使いになっていた大きさでよろしいでしょうか?」
「ああ。それで頼む」
ジュスティーヌが結界を大きくした。キアラが張った結界に比べると、若干小さい。主を超えてはならぬということであろうか。
「主殿、行くぞ」
「ああ」
アキは俺の腕を引いて進んだ。この移動法は相手がレリアだから良いのであって、誰でも良い訳では無い。
「わたくしの合図で始めてください」
俺達が結界の中心に行き、ある程度の距離を取ったところで、ジュスティーヌがそう言って手を挙げた。おそらく手を下げるのが合図なのであろう。
ジュスティーヌが手を下げると、アキが魔法陣を描いた。その数約三十。
俺は拳ほどの大きさの魔力弾をアキに向けて連射した。今撃った魔力弾の大きさを十とすると、二発当たれば、二十になる。つまり、浸透する時間を早めるのは、魔力弾を大きくするだけでなく、数も増やせば良いということだ。
「あっズルいぞ!」
「知らぬ」
俺の魔法はアキの魔法に比べて難易度が低い。いや、アキの魔法の難易度が高いのだ。という事は、撃たれる前に撃ち、魔力が浸透するまでの時を稼げば良いのだ。
俺はアキの攻撃が始まるまで、多方向から魔力弾を撃ち込む為、駆け回った。命中率は六割と言ったところか。
アキの反撃が始まった頃、手応えが変わった。どうやら魔力が浸透したようだ。
俺はまず、アキの両腕の付け根を破裂させた。
「俺の勝ちだ」
「まだだ!」
次に両耳を破裂させた。
「おい!返事をしろ!」
「何だ?」
「おい!何か言え!」
耳を破裂させたのは間違いであったか。声が届いておらぬ。
まあ良い。その次は目だ。片目ずつ破裂させた。
「どうだ、俺の勝ちであろう?いや、聞こえぬか」
「おい!殺すなら殺せ!」
「そうか」
次は全身を破裂させた。血が飛び散ったが、消えた。どうやらここから転移すると、武器だけでなく切り離された体も消えるようだ。
俺も結界の外に出る為に、自分の体を破裂させた。破裂させるのに必要なのは俺の魔力なので、自分に向けて魔力弾を撃つ必要は無い。
「ジル様、もっとちゃんと狙ってください。魔力の無駄遣いは極力控えるべきです」
ジュスティーヌがそう言っている。だが、走りながら撃って、命中率六割は良い方では無いのか?まあ何か改良案でもあれば聞けば良い。
「どうすれば良いのだ?」
「ジル様は魔力が多いようですので、砲台を創られてはどうでしょうか?」
ジュスティーヌはそう言って、地面に絵を描いた。
「大砲と言う兵器で、ここから弾が出ます。弾には種類がありますので、そちらも再現してはどうでしょう?半実体化でいいので、創造魔法に比べて魔力消費が少なくて済みます」
「そうか。試してみよう」
「ジュスティーヌ、ワタシはどうだ?」
「アキ様は…」
ジュスティーヌがアキと話し始めたので、ジュスティーヌの描いた絵を半実体化してみた。
車輪など必要無さそうな部分は削ったが、装飾品などはそのままである。
「ジュスティーヌ、こうか?」
俺は完成したので砲口をジュスティーヌに向けて、ジュスティーヌを呼んだ。
「ええ、そうですそうです。あ、もう一ついいのがあるんですけど、聞きますか?あ、聞きますよね。これはカノン砲って言うんですけど、もう一つ連射に向いたのがあるんです。そっちは大砲じゃないんですけどね。ここが撃つ時に回るんですよ。カノン砲に比べると弾が小さいので、雑兵とかはこっちで撃っちゃってください。あ、それとですね、ここはこの魔法だったら必要ないんですけど、消さないでください。ジル様の砲台を見ると、色々と削られていたんで。あ、別に直さなくていいんですよ。それとですね、こっちの…」
ジュスティーヌが地面に絵を描いたり、俺が創った大砲の周りを回ったりしながら、早口で喋っている。何と言うか、ここまで変わるものか。
「ジュスティーヌ、長い。簡潔に説明せよ」
「あ、すみません。最初に紹介したカノン砲と言うのは、魔法使い相手に使ってください。新しく紹介したのはガトリング砲と言って、魔法が使えない雑兵どもに向けて撃っちゃってください」
「分かった。アキ、ジュスティーヌからこの大砲とやらについて詳しく聞いておけ」
「……え…ワタシが…?」
「ああ。頼んだ」
俺はジュスティーヌをアキに任せてガトリング砲とやらを創り始めた。
創ってみて分かったが、どうしても弾が小さくなる。せいぜい二メタだ。まあ、ジュスティーヌの言う通り魔法が使えぬ雑兵相手ならば、充分だ。
「ジュスティーヌ、結界に入れ」
「わたくしですか?」
「ああ。試し撃ちだ」
「あの、わたくしはこの結界の恩恵を受けられないのですが」
「おぬしがか?それとも術者がか?」
「術者が、です」
「そうか。ならば仕方あるまい」
俺がアキの方へ目をやると、アキが倒れていた。ジュスティーヌの話が理解出来ずに倒れたのか。カイが見たら驚くであろうな。
「わあああ!姉ちゃん大丈夫?」
既に驚いていた。
「ジル様!我が弟子がジル様の新魔法の相手になって差し上げよう」
「ファビオとカイか。よし。結界に入れ」
俺の新魔法の相手が務まるであろうか。いや、クラウディウスが師匠としてどれだけ二人を鍛えられたかが分かれば良いか。




