第109話
その後も俺の復活パーティーは続き、皆が酔い始めたところで、お開きとなった。
俺は酒を飲んでおらぬので酔っておらぬが、レリアは酒を飲み、途中で眠ってしまったので、俺のベッドに寝かせた。
俺は寝る直前に、片付けは明日で良い事を伝えた。サラ達もそれなりに酒を飲んでいたし、今日はアシルとアキの暴走もあって、疲れているだろう。なので、最低限の事だけ済ませたら早く休むように言った。
翌朝。
今日は五月十五日で苺月の日まで二十三日あるが、逆に言うと、二十三日しかない。王都まで何事もなく行軍できたとしても間に合わぬだろう。なので、昨日シャミナードが言っていたこの城の転移機能について、エジット殿下達と相談する。他にも国王の処遇などを決めたり、色々しなければならぬ事がある。
俺は朝ご飯を食べながら、今日することを思い出していた。昨日、寝る前にアシルとカルヴィンから報告を受けていた。まあアシルに聞けばわかるであろう。
俺はその旨を書き残して、部屋を出た。レリアは気持ちよさそうに寝ていたので、起こさずに来た。サラ達には、レリアが起きたら片付けを始めるように伝えた。
俺はとりあえず、アシルの部屋を訪れた。
「兄上か」
「ああ。準備は出来ているであろうな?」
「もちろんだ」
俺はアシルの後を追った。
ちなみにアシルの部屋は色々と罠が仕掛けてあり、油断すると、死ぬ。なので、アシルの部屋の雑用はアシルの直属の部下五人がしている。アシルとその五人以外は基本的に立ち入り禁止としている。
その五人は強くなっていた。いや、正面から戦うとエヴラールより弱いが、暗闇で戦うとなるとかなり強い。暗闇で三十人いれば、俺の首も獲れるだろう。まあ五人しかいないので、その心配はない。
アシル自身は正面から戦っても強いが、部下を暗殺系に育てたようだ。
俺とアシルが殿下の部屋を訪れると、ジェローム卿とジュスト殿とトメルがいた。ジェローム卿は眼帯をしている。どうやら呪いの効果を軽減させる眼帯を貰ったようだ。ジュスト殿は回復薬を使って完治したそうだ。
「お待たせ致しました」
「いや、大丈夫だ」
「早速ですが始めましょう」
ジェローム卿がそう言ったので、俺達は席に着いた。
「父上とアクレシスはどうしようか」
殿下がそう言ったので、俺は手を挙げた。
「ジル卿、何かあるか?」
「アクレシス卿は処刑を望んでおりました。昨日、アクレシス卿と話したところ、歴史書に名を残して欲しいとの事です」
「そう…か。本人が望むならそうしよう。具体的には何と残すか聞いてくれたか?」
「『神か王、どちらにつくか迫られたアクレシス。忠誠心が信仰心を勝り、王についた大将軍。奇しくも敗北してしまったが、サヌスト国王に対する忠誠心は歴代最高だった』と書いて欲しいそうです」
「わかった。そのように進めよう」
殿下がそう言った瞬間、誰かが廊下を走って近づいてきた。
「失礼します」
「ジル卿?」
俺は帯剣していることを確認し、扉の前に立った。
「エジット殿下にご報告がございます。ご在室でしょうか?」
走ってきた誰かがそう言ったので、俺は扉を開けてやった。伝令か。
「何事だ?」
「ジル卿もいらっしゃいましたか。殿下、ご報告致します。国王が獄中にて倒れておりました。意識がありません」
伝令がそう言った瞬間、殿下が立ち上がり、走って部屋を出ていった。おそらく地下牢に向かったのだろう。
「追いかけましょう」
「ああ」
トメルが言ったので、俺達は殿下を追った。
すぐに追いついたが、それでも殿下は走り続けた。
「どいてくれ!」
「あっ……」
「すまぬな」
地下牢につき、殿下が押し退けた看守が転びそうになっていたので、謝っておいた。
「父上!」
侍医らに処置を行われている国王は、意識を取り戻していたのか、エジット殿下を見て笑ったような気がする。
「父上!どうか生きてください!」
「殿下、治療の邪魔をしては助かるものも助かりませぬぞ」
殿下が侍医すら押し退けようとしたので、俺は殿下の肩を掴んで、そう言った。
国王には生きていてもらった方が色々とやりやすい。なので死んで欲しいとは思わぬが、国王が死んだ時の事も考えておいた方が良かろう。
俺はそんな事を考えながら、殿下の肩から手を離した。
「がはっ!」
薬を飲まされた国王が血を吐いて白目を剥いた。侍医の側で、国王の脈を測っていた者が目を瞑って首を振った。
「お亡くなりになりました」
殿下が膝から崩れ落ちた。敵対していたとは言え、父親が死んだので悲しんで当然だろう。その分、俺達が支えねばならぬ。
ギュスターヴが死んだので、アルフレッドが王都などに逃げておらぬ限り、エジット殿下が国王と名乗っても問題なかろう。いや、王都は敬虔なヴォクラー教徒が、ギュスターヴがエジット殿下を討つ為に出撃したことに怒り、占拠しているだろう。
おそらくアルフレッドは、ダークエルフと組んでいるので、国王になるつもりはないだろう。
それにもし、王都以外の都市でアルフレッドが国王を僭称していた場合、討てば良い。アシルに頼んで、毒殺しても良いかもしれぬな。
まあそんな訳で、なるべく早く王都へ行き、正式に即位を発表した方が良かろう。
「少し一人にして欲しい」
「はは。会議室にて待っておりますので、落ち着かれましたらお越しください」
「うむ」
エジット殿下はそう言い残して、どこかへ行った。念話でアシルに、気付かれぬように護衛をつけるように伝えると、普段からつけているとの事だ。
俺達はしんみりしたまま、会議室へ向かった。俺の部屋の前にエヴラールがいたので、一緒に来てもらった。どうやら俺はまだ寝ていると思っていたらしい。
会議室に入ると、俺は先程の考えを皆に伝えた。多少の違いはあるものの、皆似たような意見であった。毒殺はしなくていいとの事だ。
「しかし亡くなってしまうとは…」
話す内容が無くなり、室内が静寂に包まれ始めた頃、ジェローム卿がそう嘆いた。
「死因は何だったのですか?」
あの場にいなかったエヴラールがそう言った。言われてみれば、分からぬな。確か国王は五十手前と聞いていたが、その歳では寿命では無かろう。
「現在、別の侍医が調べているそうです」
「そうでしたか」
エヴラールの問いにはトメルが答えた。
ちなみにあの侍医が調べぬのには理由がある。看取った侍医が調べると、色々と改竄できてしまう。例えば、毒殺しても病死と報告すれば、病死となる。なので、別の侍医が調べる。
まあ二人ともが間者であった場合などは、毒殺であっても病死とされるであろう。なので完璧ではない。
しかし、暇だな。話す事は無くなったし、雑談をするような雰囲気でもない。
「ジェローム卿、ジュスト殿、トメル殿。時間を無駄にするのは良くない。この城の転移機能について、担当者を呼んで、話を聞こう」
「賛成だ」
「俺も賛成だ」
「私も賛成です」
皆も賛成のようだ。皆も暇をしていたのかもしれぬな。
「では、エヴラール。頼んだ。場所は知っているであろう?」
「はい」
「アルノルフには話を伝えてあるはずだ。頼んだ」
「御意」
エヴラールが会議室を出ていった。
アルノルフは元々俺の従者の班長だった。この城ができた際、城砦移動装置管理室の室長に任命した。
城砦移動装置管理室はこれまで出番が無く、魔力を貯め続けていたのだ。ちなみに魔力は城内にいる者から少しずつ集めているらしい。かなりの数が城内にいるので、一人一人は僅かでも、全員から集めると、かなりの量になっているらしい。
回収された魔力は他にも使われている。例えば、この城を護る結界や、城内を移動する魔法陣などもこの魔力が使われている。
この魔力を管理するのは、魔力総管理室だ。どこにどれだけ供給するのか、など色々とやってくれている。室長は誰を任命したか忘れたが、俺の元従者であろう。




