第10話
ロドリグが天界から来て一ヶ月ほどが経った頃。
伝書鳩を使って大将軍や西方守護将軍と手紙のやり取りをして味方に引き込んだとエジット殿下に聞いた。
「ジル卿、近くの街を回り、兵を集めよう」
「兵士ってその辺にいるのか?」
「いや、そのような事は無くは無い。サヌスト人の男は二十歳になると一年間、軍隊に入る。だからまあ、呼び掛けて賛同するものが多ければ兵も多くなるというわけだ」
つまり大人の男は皆、戦えるということか。つまり俺らが呼び掛けて人が集まれば軍隊の完成ということか。便利な国だ。
「そうだ、面白いことを思いついた!ジル卿の直属部隊を作ってみるのはどうだ?」
「じゃあ、俺はそんなに数はいらないな。千人くらいの部隊にしよう」
「少数精鋭というわけか。アンドレアス王と同じ考え方ということだな?」
「ああ。まあ、全ては街に行ってからのことだな」
「ああ。二月二十日に出発するからそれまでに準備を」
「ああ、分かった」
この一ヶ月の間にこの世界にも暦があることが分かった。ちなみに今はアンドレアス暦五百三年の二月十八日だ。
俺は私室に戻ってそのことをアシルに伝えた。この一ヶ月で荷物も増えた。
ちなみにお金はアシルがヴォクラー様から金貨百枚を貰っていたのでそれを使っていた。まだ三枚しか使っていないがこれには理由がある。その理由とは金貨の価値が高すぎるからである。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚である。庶民は銅貨で生活できるほどらしい。例えば、庶民の服ならば全身分、揃えたとしても銅貨十枚で揃うらしい。
そういえば、従者も増えた。カルヴィンを従者筆頭としてその下に二十人いる。彼らは元々皆、奴隷であったのを解放し、従者にした。彼らにはそれぞれ銀貨十枚を払った。
カルヴィンに従者の全てを任せていると、戦える者を探し、五人いたので彼らを侍従武官として部屋の前で待機させている。俺らの方が強いので俺ら侍従武官達を鍛えている。俺らの方が強いからいらないのでは?と思ったが形式として侍従武官が部屋の前にいると箔が付くらしい。
ちなみにエジット殿下やジェローム卿の部屋の前にもいる。
一ヶ月でこれくらいしか変化がなかった。
「準備はカルヴィン達に任せれば良いだろう。俺はロドリグと狩りに行くがあんたはどうする?」
───我も狩りに行きたい───
「分かった。俺らも行こう」
「二十日に出発なら明日まで行っていても大丈夫か?」
「多分大丈夫だと思う。エジット殿下に聞いておくから馬の準備を頼む」
「おう、カール班を連れて行こう」
「そうしよう。カルヴィンにも伝えて行く」
「じゃあ、また後で」
「おう」
カール班というのは従者達のグループの一つだ。五人一班で従者達を分けてある。カルヴィンから聞いた話だと従者を四つに分けてそれぞれに侍従武官を配属したらしい。カルヴィンはどこの班にも入らず、全ての班への指揮権があるということらしい。カール班は侍従武官が二人いる班である。
俺はエジット殿下に今から狩りに行き、明日までには戻ることを伝えた。その後部屋の前にいた侍従武官にも同じことを伝え、カルヴィンに伝えるように言った。
集合場所に行くとアシルとカール班が馬を用意して待っていた。オディロンとロドリグは先に城門の外に行っている。よほど楽しみらしい。
「待たせたな。すぐに出発しよう」
城門を出てオディロン達と合流した俺達は北へ進んだ。国境手前の森で狩りをするのだ。
そういえば俺が乗っている馬は最初に乗った馬を買い取った。何歳かは忘れたが若いそうだ。ヌーヴェルと名付けた。
しばらく走った所でいつもの場所に着いた。いつもここに陣を敷いている。俺達は眠る必要が無いが従者達は人間であるから眠る必要がある。その為にこの辺りは木を切ったりして開けた場所にしてある。
「我々は準備を整えておりますので大きな獲物をお待ちしております」
「おう。アシル!オディロン!ロドリグ!カミーユ!フィデール!行くぞ!」
カミーユとフィデールは侍従武官だ。狩った獣を運んでくれる。
しばらく行った所で俺達は二手にわかれた。俺とオディロンとカミーユ、アシルとロドリグとフィデールだ。
「じゃあ、何かでかいのが狩れたら陣に戻ろう」
「ああ、競争だ。より早く、より大きいのを狩った方の勝ちだ」
「おう、そうしよう!」
俺はそう言うと同時に走り出していた。もちろんヌーヴェルが。
後ろにはオディロンとカミーユがついてきている。魔術の一つで気配を察知できるものがあるのでそれを使った。魔術は使えば使うほど上達するらしい。
ちなみにカミーユの馬には色々積んである。例えば紐とか地図とかだ。他は知らない。何か言えば出してくれる。
「オディロン!でかいのはどっちだ?」
───ここより西に一メルタル程行った所に獣の群れがいる───
「では、そっちに行こう!カミーユ、西に一メルタルだ!急ぐぞ」
「承知しました!ですが凄いですね、魔術というものは」
「そうか?念話くらいなら一晩で習得できたぞ」
「才能があるのですな」
そう、この世界は魔術に特化させられたとアシルに聞いたのだがその魔術は国王や王太子級の身分の者しか使えないらしい。エジット殿下ですら噂でしか聞いた事が無かったらしい。魔術が無ければ国王や王太子を捕らえるのは難しい。その為に一部の王族が独占しているというのがエジット殿下の仮説だ。秘密は共有する者が多ければ多い程、他にバレる可能性が高まるのでエジット殿下は教えて貰えなかったのだと嘆いていた。
「エジット殿下が国王になったら魔術を普及させ、サヌスト軍の戦力を底上げする。それまでにカミーユには魔術を教えてやろう」
「楽しみにしておりますぞ」
「ああ」
───そろそろだ。これくらい近づけばジル様でも分かるだろう?───
ああ、もちろん。二十三頭いるな。
───二十四頭だ───
そ、そうか。
俺はオディロンの魔術の足元にも及ばない。いや、足元くらいには及ぶかな?まあ、オディロンの魔術が騎士の剣技だとするなら俺の魔術は子供のチャンバラ程度の実力だ。
「カミーユ、今日はたくさん狩るから俺も手伝う」
「はい、楽しみにしております」
俺はカミーユにヌーヴェルを任せ、オディロンと徒歩で近付いた。
オディロンと分かれ、挟み撃ちにする。オディロンが俺の反対側から群れに襲い掛かり、逃げてきた所を俺が弓で射止める。そういう作戦だ。
オディロンが吠えた。群れがこちらに走ってくる。俺は落ち着いて弓を構える。二本の矢を同時につがえている。矢が弓から放たれると先頭の二頭に命中した。そいつらにつまづいて転んだ獣を狙い撃ち、弓をしまい、槍を喚び出す。槍を別の方向へ逃げようとした獣を狙い投げた。そちらに行き俺は剣を抜き、別の獣に切りつける。そして…
まあ、そんなこんなで俺とオディロン流の狩りが終わった。多分他の人たちとはやり方が違うのだろうが俺はそんなことは知らん。
狩りが終わったのでカミーユを呼ぶ。
「カミーユ!終わったぞ!」
カミーユが現れ、こう言った。
「これは盛大にやりましたな」
「いつもの事だろ?」
「まあ、そうですな」
カミーユは荷物から紐を取り出し獣を縛りだした。
「今回は歩いて帰らなけばなりませんぞ」
「え?嘘だろ」
「ご主人様に嘘をつくほどの度胸は私にはありませんよ」
カルヴィンをはじめとした従者達は皆、俺の事をご主人様と呼ぶ。ちなみにアシルの事は補佐様と呼んでいるのを見た。
俺はこの一ヶ月の間に狩りをたくさんしたのでカミーユの手伝いくらいはできる。
結び終え、獣を馬に乗せてもまだ余ったので俺らが背負って帰ることになった。オディロンがたくさん背負ったので俺は一頭だけ背負って帰った。
陣に着く頃には太陽が夕日と呼ばれる程の時間になっていた。
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