第102話
俺はアシルと共に研究室へ来た。
「ハインリヒはいるか?」
ハインリヒの姿が見えなかったのでそう聞いてみた。
「あ、はい。ここにおります」
「回復薬とやらの説明をしてくれ」
「分かりました。ですが、なぜ私が開発したか分かったのですか?」
ハインリヒが開発したのか。
「会長だから聞いただけだ」
「会長は私ですよ」
「おぬし…」
姿は見た事があるような気がするが、名前が分からぬ。と言うよりも、ハインリヒが会長だと思っていたが、記憶違いであったか。怪我のせいだろうな。
「タケラです」
「そうだ、タケラだ。ではハインリヒ、報告してくれ」
俺はハインリヒの方を向き、そう言った。
「少々お待ち下さい。あ、座っていてください」
俺はハインリヒに勧められた椅子に座った。アシルも隣に座った。タケラは個室へ行った。そう言えば、会長は個室が必要だろうと言って用意してあげたような気がする。
「どうぞ」
ハインリヒがお茶を出してくれた。
「では説明しますね」
ハインリヒが二つの瓶を取りだした。その瓶には濁った液体が入っている。おそらく回復薬であろう。
「これが一番強い回復薬です。そしてこれが一番弱い回復薬です」
「強さがあるのか?」
「はい。まずは回復薬の作り方から説明しますね」
ハインリヒは奥からお盆を持ってきた。お盆には水が入った瓶と草、コップが載っている。
「見ていてください」
ハインリヒが草をすり潰し始めた。
すり潰しながら草の説明をしていたが、理解出来ぬ。分かったのは、五種類の薬草ということだけである。
すり潰した草を一旦机に置き、水が入った瓶を持った。ハインリヒがその水に回復魔法を付与した。一瞬沸騰したが、すぐに治まった。ハインリヒも火傷はしておらぬ。
その水をコップに移し、すり潰した草を入れて水魔法で混ぜた。
その間に瓶にろ紙をセットした。
先程の水を瓶に注ぎ始めた。潰せていなかった草がろ紙に溜まっていく。水を全て注ぎ終えると、ろ紙に残った草を握り固めた。もちろん手袋をして。
握り固めた草を水の中へ入れた。
「この状態で一晩寝かせます」
「眠るのか?」
「あ、放置します」
「なるほど」
寝かすとは放置のことであったか。
「おい、これから待つのか?」
「一晩寝かせた物を持ってきます」
ハインリヒが先程の瓶を持って奥へ行き、戻ってきた。
ハインリヒが持っている瓶の中には握り固めた草が入っているが、先程のより小さい。
握り固めた草を取り出し、箱にしまった。
別の瓶を用意し、その瓶にろ紙をセットした。そしてその瓶に水を注いだ。
「これで回復薬の完成です。そしてこの水で薄めると効果も薄くなります。薄めた分、量が増えます」
「使ってみよう」
俺は左腕を差し出した。
「包帯を取ったのではないのか?」
「取ったぞ。これは新しい傷だ」
「なるほど」
俺は包帯を取り、回復薬を使うように指示した。
ハインリヒが俺の左腕に回復薬をかけた瞬間、激痛が走り、目を瞑った。
目を開けると、回復薬をかけた場所から煙が立ち上っていた。
「ど、どうしましょう?!」
「なるほど。回復魔法を付与したからか」
「そういうことか」
「ジル様?!どうしましょう?」
「だが、付与されたものも含まれるのだな」
「そうみたいだ。アシルがやった時もこうなったか?」
「包帯、持ってきます!」
「いや、皮膚が裂けただけだ。煙は出てない」
「そうか。薬草が関係しているのかもしれぬな」
「持ってきました!」
俺とアシルが話していると、ハインリヒが包帯を持ってきてくれた。
「適当に巻いてくれ。そのうち治る」
「あ、はい」
ハインリヒは適当ではなく、丁寧に巻いた。丁寧だが、手早い。自分も失敗して手当てをしているのか。
「ハインリヒ、この回復薬、予備はあるか?」
「あります。強い順に言いますと、上位回復薬、中位回復薬、下位回復薬がありますが、どうしますか?」
「いくつある?」
「おおよそですが、上位回復薬が残り八千人分、中位回復薬が三万人分、下位回復薬が六万人分です」
「ではそれぞれ百人分ずつ貰おう」
「分かりました」
ハインリヒが奥の部屋へ取りに行った。
俺が出発した後に完成したと聞いた。それからこの量を作ったのか。いや、元々完成しそうだったので、多めに作っていたのかもしれぬ。それか、戦が終わり、怪我人の為に急いで量産した可能性もある。まあそんな事は俺には関係ない。
効果があり、安全なら増産しても良いかもしれぬ。いや、するべきだろう。
「兄上、百人分もどうするのだ?」
「役に立つであろう。俺には使えぬが、おぬしやアキには使える」
「俺やアイツが怪我する程の相手なら兄上も危ないのではないか?」
「そうか、敵に襲われるかもしれぬのか。ならば、レリア達に渡しておこう」
「?」
俺はアシルとアキが揉めて怪我をした時の為にと思ったが、アシル達でも怪我をするくらいの敵がいるかもしれぬ。
「そう言えば、俺はまだ回復薬を使ったところを見た事がないな」
「軽傷の捕虜で試すか?」
「そうしよう」
確か軽傷の捕虜は手当てをしておらぬと聞いた。
「ではお昼ご飯を食べたら一緒に行こう」
「そうだな。そう言えば、その傷は何だ?」
「これか?これはテクが俺の皮膚を調べたいと言っていたので置いてきた」
「は?」
簡潔に説明しても理解出来ぬようなので、詳しく話してやるか。
「テクは俺の回復が早いから驚いて荷物を落とした。俺はテクが荷物を取りに行っている間にご飯を食べ終えたが、テクは帰ってこなかった。なので皮膚だけ置いてきた」
「肉も抉れていたぞ」
「知っている。だが、俺には皮膚だけ取る技術などない」
「テクを待てばよかったのに」
「回復薬が気になってな」
「そういうものか」
「お待たせしました」
アシルと話していると、ハインリヒが三百人分の回復薬を持ってきてくれていた。
俺はそれを全て異空間にしまった。
「礼を言う。人手と予算を増やしたら、増産できるか?」
「ある程度の土地も必要になります。薬草の繁殖もさせなければなりませんので」
「そうか。用意しておこう」
「ありがとうございます」
「では俺は行く」
「あ、ジル様、少しよろしいですか?」
俺が研究室を出ようとすると、呼び止められた。顔は見たことがあるが、思い出せぬな。
「おぬしは確か鑑定魔法の…」
「はい、リピエッツです」
「そうだ、リピエッツだ。何か用か?」
「はい。これは試作段階なのですが、報告させて頂きたく」
リピエッツは俺に鞄を手渡した。試作段階だからか、装飾の類は一切ない。
「これは何だ?」
「私は魔法鞄と呼んでおります。その鞄には時空間魔法などが付与してあり、見た目以上の容量があります」
俺は渡された鞄の中を覗いた。中は暗く見えなかったので、明かりに照らしてみたが、暗い。
「今は十日分の食糧と武具一式が入るくらいです。欠点はその入口以上の大きさの物は入らないのと、中に入っている物が分からない点です」
「そうか。こちらも人手と予算を回せば完成しそうか?」
「いえ、完成は時間の問題かと。言い方は悪いですが、時空間魔法が使えない者は役に立ちません。あ、バスティア辺りに来て貰えると助かります」
「そうか。時空間魔法が使えるバスティアだな?手配しておく」
「ありがとうございます」
「もう良いか?」
「はい!」
「では俺は行く」
俺は魔法鞄をリピエッツに返し、部屋を出た。
「アシル、今話したことを覚えているか?」
「ああ。回復薬の方は人手と予算を増やし、魔法鞄の方はバスティアを呼ぶ。手配しておこう」
「頼んだ」
俺はアシルと分かれ、私室へ向かった。
その途中、エヴラールと会ったので、報告を聞いた。特に問題はないらしい。
俺がこれからの予定を伝えると、エヴラールもついてくると言った。
俺が眠っている間に、俺の異空間に入っていた一角獣はセリムが解放したらしい。その時、俺の呪いの事を聞き、何かいい方法があると言っていたが、エヴラールは聞いていないらしい。
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