第100話
次に俺が眠っていた間の事を聞いた。
俺がやるはずだった事務系のことはアシルとエヴラールが代わりにやってくれた。
国王戦での被害も分かったらしい。
まず我が軍は死者五千名弱。怪我人は全員完治。回復薬を使ったらしい。
国王軍の死者は七千名強。重傷者は治療済みだが軽傷者はそのまま。
両軍合わせて五十万以上の大軍であったが、ここまで被害が少なかったのには、いくつか理由がある。
国王軍も我が軍も下級兵などを中心に、士気が低かったことが最も大きな理由だと聞いた。国王軍の兵士の中にも信心深い者がいたらしいが、上官の指示には逆らえぬらしい。我が軍にも似たような者が何人もいたという。
またお互いに大将首のみを狙っていたのも理由の一つだ。我が軍としては国王と王太子を捕らえれば良かったし、国王軍もエジット殿下と俺を討てば良かった。
まあ他にもあるらしいが、大きな理由はこの二つだ。
「本当は明後日くらいに王都に向けて出発するはずだったが、兄上の怪我のせいで遅れている。兄上が馬に乗れるようになったら出発することになった」
俺のせいで遅れているのか。
「そうか。馬に乗らねばならぬのか?」
「王都は遠い。さすがに兄上でも馬に乗って行った方が良いと思う」
「馬以外の乗り物はどうだ?」
「馬車か?」
「ああ。他にも輿とかも良いかもしれぬ」
「それなら座っているだけで良いのか。殿下に伝えてみよう」
「ああ。テクにも聞いておいてくれ」
「分かった」
アシルが出て行った。
教会は俺に教皇の座を用意していると聞いた。俺のイメージだが、聖職者は馬に乗るより、馬車や輿に乗っているような気がする。神事に励みすぎて乗馬が出来ぬだけかもしれぬが。
「主殿。王都に主殿の家はあるのか?」
「俺の家は無い。どこか適当な家を買おうと思っている。いや、街を新たに作るのも面白いかもしれぬな」
街を作れば、税が納められる。そうすれば、金欠に陥ることもないだろう。それに代官がいれば、その者に政治などを任せれば良い。そうすれば、俺は軍事に専念できる。
「主殿は街を作りたいのか?」
「いや、自分の街があれば便利であろう?」
「そうか?管理が面倒だぞ」
「代官を雇えば何もせずとも金が手に入る。金は食べ物などと違って腐らぬからいくらあっても困らぬ。それにいざと言う時に便利だ」
「そ、そうか。その時、ワタシも一緒に住んでいいか?」
アキが身を乗り出してそう言った。アキも領主か何かになって、街の管理をしたことがあるのかもしれぬな。
「レリアに聞いてみてくれ。レリアが良いのなら使用人として雇ってやる」
「主殿、それは冗談か?」
「ああ、もちろんだ。アキは強いから表向きは護衛として雇ってやろう」
「そ、そうか!楽しみにしておく。主殿、ワタシはもう行く。ゆっくり休め」
「ああ。おやすみ」
「おやすみ」
アキも出て行った。これで呼んだ者は全員来たはずだ。
俺は目を瞑って眠った。
翌朝。俺はいつもより早く目覚めた。五日間も眠っていたので寝溜めができていたのだろう。
朝ご飯まで暇なので、少し動いてみることにした。
俺は激痛を耐えながら、ベッドから出て魔法で着替えた。身体中痛むが、耐えられぬほどではない。昨日に比べるとかなり楽になった。明日には完治しているかもしれぬな。
俺は魔法で杖を創り、その杖を使って少し歩いてみた。
「え、ちょ、何やってるんですか?!」
ノックもせずに入ってきたアメリーが驚いて手に持っていた何かを落とした。花瓶に入れる用の花だったので良かったが、皿など持っていたら危ないところであった。ノックをしなかったのは、俺が眠っていると思ったからだろう。
「おはよう」
「あ、おはようございます。じゃなくて、何やってるんですか?!」
「いや、何と言うか、見ての通りリハビリだ」
「絶対早いですって」
「いや、ここまでできたのだ。あとは肉を食べて一日待てば、完治するだろう」
俺の体の事は俺が一番分かっているつもりだ。
「絶対しませんよ。早く寝てください」
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫じゃないと思います。杖を使ってるじゃないですか」
「いや、リハビリだからこれくらいは許せ」
リハビリなのに杖も許されぬのか。アメリーは厳しいな。覚えておこう。
「アメリー、早くして〜。朝は忙しいんだ…か…ら?」
ロアナまでやって来た。花瓶の花を変えるだけなのに、アメリーが遅いからだろう。ロアナも驚いて手に持っていた掃除道具を落としてしまった。
「おはよう」
「おはようございます。あの、元気になられたようで良かったです」
「ああ。おぬしらの看病のおかげだ」
「ねぇ、ロアナ。何も思わないの?」
「思うって何を?」
「ちょっと来て。あ、失礼します」
アメリーがロアナを連れて出て行った。俺はアメリーが落とした花を拾って机の上に置いておいた。
俺は保存食を取り出して、その中から干し肉を全て取り出した。
干し肉は硬いが、顎のリハビリだと思えば良い。
干し肉を全て食べ終えた俺は保存食を仕舞って、ベッドに戻り、もう一度眠りについた。
俺が再び目を覚ますと、レリアとアキ、テク、サラ、アメリー、ロアナに囲まれていた。何事だろうか。
とりあえずレリアに聞いてみよう。
「レリア、おはよう」
「あ、おはよう」
「何かあったのか?」
「え、覚えてないの?」
「何をだ?」
「ジルが歩いたって聞いたんだけど」
「ああ、覚えているぞ。リハビリの事だろう?」
「そう。もう治ったの?」
「ああ。明日には完治するだろう」
「しません!と言うか無理はしないでください」
テクが怒っている。そんなに悪いことだろうか。
「それに私が用意する流動食以外を食べないでください。単純計算で千五百人分の干し肉を食べたそうじゃないですか」
確かに干し肉は全て食べた。
あれは五十人程が十日間立てこもれるだけの食糧だ。一日三食とすれば千五百人分となる。だが、朝も昼も夜も干し肉を食べる訳では無い。一人分は一日で一切れだ。つまり五百人分となる。そしてほかの食材もあるので一切れは小さい。実質百人分程だ。
この事をテクに説明しても怒るだけであろうから、説明せぬ。
「テク、そんなに言うなら流動食とやらを早く持ってきてくれ」
「わかりました。手伝ってください」
テクはサラとロアナを連れて出て行った。おそらくアメリーも呼んだつもりだろうが、アメリーはもっと直接的に言われなければ気付かぬ。
「主殿、歩けるのか?」
「ああ。ゆっくりならば歩ける」
「と言うことは傷が塞がったのでは無いか?」
アキの言う通りだ。なぜ気づかなかったのだろうか。
「アキ、アメリー。包帯を取ってくれ」
「わかった」「はい。あ、すみません」
アキとアメリーの返事が重なった。それが気に食わぬのか、アキがアメリーを睨んだ。それに気付いたアメリーがすぐに謝った。すぐに謝らなければ、アキに何かされるとでも思ったのだろうか。
だが、お互いに協力しながら包帯を取ってくれている。俺の為だからだろうか。
「レリア、眼帯を取ってくれぬか?」
「いいよ」
レリアが俺の眼帯を取ってくれた。やはり片目より両目の方が、視界が広い。塞がっていたのが天眼ということも関係しているのだろう。
「治っているか?」
「うーん…」
レリアが顔を近づけ、まじまじと見ているので目を見開いた。
「治ってるんじゃない?あたしには前と同じように見えるよ」
「そうか。レリアが言うなら間違いなかろう」
「ジルの事はテクさんより分かってるつもりだよ。特に目はあたしとジルを出逢わせてくれたから」
「それは嬉しいな」
「主殿、できたぞ」
レリアと話していると、包帯を取り終えたようだ。外された包帯を見ると、かなりの量がある。
「どうだ?」
「もう血は出てないね」
「傷も塞がっている」
「昨日はあんなにボロボロだったのに…凄いです」
体を確認すると、傷が塞がっていた。傷痕は消えておらぬが、それはいつもの事だ。傷痕がありすぎて、逆に傷痕が無い場所が傷痕のようだ。
俺はベッドから出て、少し歩いてみた。痛みもほとんど感じぬ。完治したようだ。
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