第9話
俺が部屋に戻るとオディロンが倒れていた。
「オディロン!大丈夫か?もうすぐアシルが肉を持ってくる!」
───ジル様、少し天力を分けてくれないだろうか?───
どうすれば良い?
───我の前に手をかざしてくれ───
こうか?
俺はヴォクラー様がやっていたように手をかざす。
オディロンが口を開けると掌が光りだした。掌から光の粒子が流れ出てオディロンへ吸い込まれていく。
その作業をしばらく続けていると俺も腹が減ってきた。
アシル、俺の分も何か貰えないか?
───もう無理だ。部屋まであと五歩だ───
俺の中の五歩分の時間が経っても扉が開かない。十歩分の時間が過ぎた頃やっと開いた。
「オディロン!無事か?」
アシルが獣を背負っていた。
「もしかしてそれ?」
「ああ。先程の宴会で解体してある肉はもう使い切ったらしい。別の場所で配下やその家族も宴会をしていたらしい」
アシルは獣を床に丁寧に置きながらそう言った。
「な、なるほど」
───では、ありがたく頂こう───
そう俺達二人に念話を送ると、オディロンと獣が光のヴェールに包まれた。
眩しいからやめてくれないか?
───我は他者に食事しているところを見られたくない。恥ずかしい───
変なこだわりがあるものだ。俺も何か食べ物を貰えないかどこかに探しに行こうかな。
───ジル様、我の食事が終わるまで待ってくれ───
わかった。
念話で送ってもいないのにオディロンから念話が届いた。
───終わった。ジル様、先程の天力、感謝する。これは礼だ───
「肉!」
「すぐに調理しよう」
俺が驚いて声を上げると、アシルが壁の方へ向かった。確かあそこは暖炉があったはずだ。ちなみに今は暖炉には火をつけていない。
アシルは暖炉を通り過ぎると隣の荷物にかけられている布をめくった。薪であった。
アシルが薪を取り、サッと撫でると薪に火がついた。それをアシルは暖炉の中へ投げた。どんどん薪を追加していく。
それを一旦放置し、次は肉を切り始めた。大きさは拳より少し小さいくらいだ。
それをまた放置し次は別の壁際に行き、壁の上の方にある小窓の鉄格子を一つおきに外し始めた。合計六本外したようだ。それに今度は息を吹きかけると錆びていたのかは分からぬが茶色かった棒が綺麗な銀色になった。
それに肉を刺していく。一本に三つの肉をつけていた。それを暖炉の火で焼いていた。
しばらくするといい匂いがしてきた。
「ほら、食え」
そう言ってアシルは肉刺し棒を俺の方へ一本ずつ、四本投げてきた。
「感謝する」
「誰の真似だ?」
「オディロンだ」
オディロンが恥ずかしそうにするかと思ったが特に反応していなかった。
肉刺し棒を食べ終えた俺達は城の探索をすることになった。
城壁の上を歩いていると空から輝く星のような物が降ってきた。
すぐに騎士達が向かって行った。
「今の見たか?流れ星みたいだったな」
「ああ。あんたの事だから流れ星そのものだと思うと思ったが」
───二人とも伏せろ!───
焦ったようにオディロンが念話を送ってきた瞬間頭が重くなって転けた。
よく見るとオディロンが俺達の上に覆い被さっていた。
ふと顔を上げるとそこにはあの獅子がいた。ヴォクラー様の配下の黄金の鎧を纏った獅子だ。鎧は纏っていないが、なぜか分かった。
───オディロン!それにジル様、アシル様!我はロドリグ!次期天使族族長である!よろしく頼む!───
なんか思ってたのと違うな。口調とか。
───あー、もうそんな時期か?───
───ああ、そうだ!───
ずっと話しているな、こいつら。
「俺らも喋っていいかな?」
───申し訳ない!───
「どうやって来たんだ?」
───ヴォクラー様に穴を開けてもらって空から落ちてきた!着地した後はジル様達を見つけて跳んだ!───
「城壁って五メルタくらいあんるじゃないのか?」
───五メルタなど我にとっては無に等しい!───
五メルタが無ならどれくらいあればロドリグを防げるんだろう?まあ、防ぐ必要などないからいいけど。
ロドリグがアシルと話し始めたところで人が来た。
「いたぞ!使徒様、離れてください!」
「待て待て!この獅子は味方だ!」
俺はロドリグの前に立ちはだかった。
「そうなのですか?」
「そうなのだ。だから手を出すな」
「は」
俺達は一旦部屋に戻り、ロドリグの話を聞いた。
要約するとこういうことらしい。
ヴォクラー様の配下には天使族と悪魔族がいて彼らを束ねる者を天魔総長と言うらしく先代のキアラという悪魔が死んだので天使族の族長であるオディロンがその天魔総長になるらしい。そしてその空いた天使族族長の座をロドリグが手に入れる為、このヒルデルスカーンに来たらしい。
話をまとめると思っていたよりもオディロンは偉かった。
ちなみにロドリグは主をアシルとするらしい。
話が終わると朝になっていた。
扉がノックされたので扉を開けると男が立っていた。確かこの人は宴会の時に皿を片付けたりしてた人だ。
「どうした?」
「あ、いえ、あの、新しい寝台をご用意しましょうか?」
驚いて固まっていたので理由を尋ねたら寝台を貰えるらしい。
「じゃあ、二つ用意してもらおう」
「お二つですね?すぐに用意致します。では失礼します」
ん?何か用があったから来たんじゃないのか?
「待て!本題は?何か用があったから来たんだろ?」
「あ!失礼しました。朝食の用意ができましたのでお持ちしても宜しいでしょうか?」
「ああ。多めでな」
「はい。では失礼します」
男は帰っていった。
「アシル、朝ご飯だって適当に片付けるぞ」
「机ごと持って来るんじゃないのか?」
「いや、でもこんなに散らかっていたら恥ずかしいだろ」
「そうだな」
ちなみにオディロンとロドリグは俺らの寝台で寛いでいる。『天界にはない感覚だ』とか言って盗られた。
「こんな感じか?」
「一晩だからな。散らかる方がおかしい」
「それもそうだな」
丁度、片付けが終わり、一段落した頃、朝ご飯を持って来た。
「朝から肉か」
「嫌なら俺が食べてやろうか?」
「誰も嫌とは言ってない」
そう言って俺達は肉にかぶりついた。
「あの、こちらはどう致しましょう?」
「あー、もう一頭貰えるか?」
「え?あ、承知しました。まずはこちらをお受け取りください」
「ああ。そこに置いといてくれ」
「はい」
獣を置いて出て行った。
───我から頂こう!───
───貴様、上下関係というものを知らぬのか、ロドリグ?───
───では、ジル様、アシル様!どう致しましょうか?───
「二人とも待っていろ」
そう俺が言うと二人ともしょぼんとした。
二人はアシルの方へ助けを求めるような視線を送った。
「異議無し。ジル殿に従え」
さらにしょぼんとした。
「お待たせ致しました」
「ああ、そこに置いておいて」
タイミング良く持ってきてくれた。男は置いてあった獣の隣に置いて出て行こうとする。
「おい、待て。名前を言え」
「え?あ、あの何かお気に召さないことがございましたか?」
「逆だ。俺の専属にしたいくらいだ。だから名を教えろ」
「あ、ありがとうございます!私はカルヴィンと申します。ですが私より優秀な侍従は星の数ほどおりますので私のような奴隷の名はお忘れください」
「そうか。ではカルヴィンを奴隷から解放してやる。そして一人前になるまで育ててやる」
「ですが…」
「不服か?」
「いえ、そのようなことは…」
「では、決定だ。これからはよろしく頼む」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。そしてありがとうございます。このご恩は一生かけても返させていただきます」
俺は満腹になってから隣のエジット殿下を訪ね、カルヴィンを奴隷から解放し、俺の従者にしたいことを伝えると『ジェロームの奴隷だから分からない』と言い、ジェローム卿の部屋を訪ねると『奴隷なら他にもいるから一人くらいは構わない』との事だ。
新たな仲間が二人増えた。称号を与えるとするならば『使徒補佐の下僕ロドリグ』と『使徒の従者カルヴィン』だな。
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