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神に仕える黄金天使  作者: こん
序章
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第1話(前編)

「まだ気がつかぬか?運命に抗う魂よ」


 どこか遠くでそんなことを言っている気がする。聞いたことがない声だが、俺は何故か安心感を覚えた。それと共に自分が眠っていることに気がついた。


「夢を見ているのか?」


  ああ、そうだとも。


「ならばそちらに行ってやろうか?」


 来れるものなら来いよ。いや、来てください。


 怒気を込められた声に思わず敬語に訂正してしまったがそれで正解なような気がする。


 数瞬後、ぼやけていた視界が次第に鮮明になっていく。そしてそこに黄金の鎧を纏った獅子と白銀の鎧を纏った虎を従えた屈強な初老の男が立っていた。


「やあ。その体の調子はどうだい?」


 先程とはまるで別人のような口調で問い掛けられた。


「・・・?」


 おかしいな。いつもどう声を出しているか思い出せない。


「大丈夫だ。先程のように念じれば伝わる」


 こんな感じですか?体の調子は…分かりません。自分の体を感じられないというか自分の体じゃないみたいです。


「神体適性ありか。じゃあ次は名前を教えてくれるかな?」


 俺の名前?俺の名前は…思い出せません。


「記憶はなしか。じゃあ次の質問だ。これが何に見える?」


 そう言って男は獅子と虎を指差した。


 そうですね…黄金の鎧の獅子と白銀の鎧の虎に見えます。


「そうか、ならば合格だ。それじゃあ頃合を見計らってまた来るよ。その時までゆっくり休んでいると良い」


 気がつけば男と獅子と虎は居なくなっていた。



「ここは…どこだ?」


 さっきとは違い声が出た。その事を嬉しく思いつつ、辺りを見回す。


 ここは歴史の本に載っていた神殿を思わせる建物の前だった。


 俺が歴史の本で見たのは言い方は悪いが、朽ち果てた柱が数本並んでいて、壁も屋根も無いようなものだった。それの朽ちる前を勝手に想像したことがあるのだがそれにそっくりだ。


 建物の後ろが気になったので歩こうとしたのだが大切なことに気がついた。飛んでいるのだ。いや、浮いていると言った方が正しいのか。前にも後ろにも横にも上下にも動けぬ。


 どうにかしてその場から動こうと試行錯誤するが全く動けぬ。


「貴様、何をしている?」


 いつの間にか壁の一部が開き、中からさっきの男に話しかけられた。


「動けないんです!助けてください!」


「仕方あるまい。オディロン!ロドリグ!彼の者をここへ連れて参れ」


 溜息をつきつつも部下?を呼ぶ男に応じてさっきの獅子と虎が現れた。


「「御意!」」


 その二匹がこちらを見て同時に吠えると鎧が弾け飛び翼が生えた。


 二匹は互いを一瞥し、頷き合うと同時に走り出した。そして飛んだ。


 獅子が俺の右側を、虎が俺の左側を通って俺の背後に回り込み、二の腕を噛んだ。不思議と痛くはなく二匹に引っ張られるような形で神殿の床まで連れて行かれた。


「そこまで来たら歩けるであろう?」


「あ、はい。ありがとうございます。質問をしてもよろしいですか?」


「構わぬ」



 こういう時は勝手に質問せずに許可を得てからのが良いらしいので許可をとった。


「ではあなたは誰ですか?」


 一番の疑問である。名を聞いていないが信頼しても良いとだけは本能的に理解ができていた。だが正体を明かしてもらっても良いだろう。


「私は神である。ヴォクラー教が崇めるヴォクラー神とは私のことである。他に質問は?」


 神だと…余りにも予想外な答えに驚いてしまった。


「で、では、私は誰ですか?」


「知りたいか?正体を知っても後悔せぬか?」


 俺の正体は俺が知ると後悔するようなことなのか?


「…後悔しません」


「では教えてやろう。貴様の名は泉谷龍斗いずみやりゅうと。父親は泉谷龍平いずみやりゅうへい、母親は泉谷千遥いずみやちはる。齢よわい十五。妄想癖あり。自称読書家の知識人。性格を一言で表すと『賢いふりをした馬鹿』。以上。他に質問は?」


 …神様に性格を一言で表されるのはなかなか稀レアなんじゃないだろうか。そもそも神様に会っている時点で俺は運がいいのか。


「では、私はなぜここにいるのでしょうか?」


「それを知るには話が長くなるが良いか?」


 ?話が長くなる?まぁ急ぐ理由も思い出せないし良いか。


「はい、お願いします」


「では、話そう。私は神だと言ったが貴様が想像するような全能の神ではない。そういうのは私が仕える中位神のその上の上位神そのまた上の王神とかだと思ってくれ。私は神の中でも下っ端でな。まぁそのことは置いておいてここからが本題なんだが話についてきているか?」


「少し時間をください」


 この方…ヴォクラー様は神様でその上司達に凄い神がいる。その頂点に王神。うん、理解完了。


「続きをお願いします」


「では、本題に入ろう。先程言った王神はあらゆる面で完璧だ。王神は自らが楽しむ為に十の神を生んだ。それが上位神だ。そしてそれぞれに役割を与えた。他のところは知らないが、私の所の上位神は神々の間では世界神オーギュストと呼ばれている。上位神の下にそれぞれ中位神が十柱いる。私の直属の上司は神々の間で世界神の右腕、宗教神ギヨームと呼ばれている。その中位神の下に十の下位神がいる。私はその下位神だ。ここまでは理解出来たか?」


「少々時間をください」


 王神の下に世界神オーギュスト、その下に世界神の右腕、宗教神ギヨーム、その下にヴォクラー様。こんな感じか、理解完了。


「続きをお願いします」


「うむ。オーギュスト様は中位神にそれぞれ世界を五つずつ与えた。ギヨーム様もそれに含まれている。話は変わるが、上位神は王神が楽しめるものを献上することが使命なのだ。つまり世界神は王神が楽しめるような世界を創り、献上することが使命である。そしてある時、世界神はとある計画を思いつき、中位神を集めて協力させ、三つの世界を管理させた。そのうちの一つが貴様の出身地である。我々はそれをイェンスウェータと呼んだ。ここまで理解出来ているか?」


「すみません、少々時間を」


 王神は自分が楽しむためにいろんなものを献上させている。そして世界神は世界を献上することが使命。そして世界神の思いつきで俺の出身地を含む三つの世界を創り、管理させた?十柱で?


「あの、質問なんですが、その三つの世界は十柱で管理していたのですか?」


「正確には中位神十柱とそれぞれの部下二柱、合計三十の神で管理をしていた」


 ということは似たような世界が三つあったということか。うん、理解完了。


「ありがとうございます。続きを」


「うむ。イェンスウェータは星々で内乱が起きた。内乱が治まると次は星同士で争った。そして禁忌が侵された。人道的に禁断となっていた武器が使われ、兵士たちは皆、死んだ。十六歳以上男は皆、徴兵されていたので女や十五歳以下の子供、老人、病人のみが残され、種としての存続の危機に晒された。それをどうにかしようと生物神とその部下二柱が世界に降臨したが先程言った非人道的な武器の影響で生物神は深手を負い、部下二柱は滅んだ。そのことからその武器は『神殺し』と呼ばれるようになった。話についてきているか?」


「少々時間を」


 イェンスウェータでは戦争が起きて強力な武器、神殺しが使われて危機に陥った。それを救おうと生物神たちが向かったが部下の二柱が滅び、生物神は大怪我。オーケー、理解完了。


「続きをお願いします」


「うむ。その時、深手を負った生物神と滅んだ部下二柱の血がイェンスウェータに零れ落ち、想定外のことが起こった。何か分かるか?」


 え?いきなり?まぁ、思いついたことは一つしかないからおそらくこれが正解だろう。


「傷ついた世界にトドメを刺した、とかですか?」


「左様。まさか、生物神も我々も神が血を流すほどのことがあろうとは思わなんだ。それに神の血が世界を崩壊へと導くなんぞ、思いもしなかった。だが、我々の願いなど知らぬとばかりに世界は崩れ始めた。滅び始めた世界では生きることを諦める人間も出始めた。いや、度重なる災いに疲れていたのだろう。だが、その中でも諦めずに最後の瞬間まで足掻いた魂を世界神は五千程集めた。その内の三千を王神に献上し、千を手元に残し、残りは部下に配られた。私の所には十の魂が届いた。その内の一つが貴様だ」


 えーと…つまり俺は滅びゆく世界で最後まで生き抜こうとして神様に選ばれた優秀な魂って事だよな。照れるな。

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