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生き止まりの向こう側  作者: 菅井 カワツゲ
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第三話 罰天マンの思惑

 下校途中に必ず寄る場所がある。

 起伏の少ない土地柄には珍しい、小高い丘の上にある東屋(あずまや)

おおよそだが、街の半分が見渡せる。

 公園の様に遊具がある訳でも無いので人も少ない。

 ここが一番、心が休まる場所だった。


 いつもはそこで本を読んで帰るのだが、今日は本の代わりにフォースブックのやりとりを眺めていた。


「辛くなったらいつでもおいで、か」


 ダイレクトメール……送るだけ送ってみようかな。

もし業者ならブロックすればいいだけなんだし。

 

『こんにちは。解決する方法を聞きに来ました』


 すると返事はすぐに返ってきた。


『はじめまして。いきなりだけど、現状どういうイジメを受けてるの?』


 そんなセンシティブな質問を最初にぶつけてくるのか。

でも、年齢や性別、住所や電話番号などの個人情報を聞き出そうとする奴よりマシだと思っておこう。


 私はこれまでに受けたイジメを箇条書きにして送った。

 書いていて辛くなったが、多少スッキリした気もする。

これがその解決する方法だとしても許せるくらいに。


『解った。思い出させてすまなかったね。ありがとう。ところで銀行の口座は持ってる?』


 やっぱりな。

お金か身体か、そんな所だろうと思っていた。

 弱った人間から何かを奪うのは簡単だ。

どうせ私は搾取される側の人間なのだ。


『ありますよ。でもお金は入ってません』


 これで諦めてくれるだろうか。

まぁしつこかったらブロックしよう。

アカウントを変えて送ってくるようなら私のアカウントを消せばいい。

SNSごときに未練なんて無い。

 そう思って送ったのだが、予想外の返信が来た。


『いや、お金はこっちで用意する。振り込むから交通費にしてくれ』


 何を言ってるんだろう。

 私の行動範囲は自宅と学校だけ。

交通費が必要な場所なんて無い。

 そもそもいきなりお金を振り込むなんて言われて信じるだろうか。

私は信じない。

が、返答に困ったのも事実だ。


『なんの交通費ですか?私には行く所なんて無い』


『家出しなさい。そこに居ても何も変わらない。自分を変えたいなら行動するんだ』


 心が揺らいだ。

 今まで自分を変えたいなんて思わなかった。

周りが変わってくれるのを待つばかりだった。

本当に私は変われるのだろうか。


『家出したら、何か変わりますか?』


『君に自分を変えたい気持ちがあるならね。口座番号を教えてくれ。とりあえず振り込むよ』


 私は口座番号を教え、コンビニに向かった。

 本当に振り込まれるのだろうか。

振り込まれたとして、行きたい場所なんて無い。


 まぁ最近は碌なご飯も食べれてないから何か食べよう。

甘いものがいいな。

メープルシロップがたっぷり染み込んだ一斤のパンの中に、

これでもかと生クリームとアイスを詰め込んだアレ。

名前は忘れたが、ネットで見つけたあのパンケーキが食べたい。


 お腹を空かせながら歩いていると、すぐコンビニに着いてしまった。

ドキドキしながらATMにカードを入れ、残高を確認する。


「入ってる……二十万円も……」


 急に怖くなってきた。

 これは新手の詐欺か何かだろうか。

私は何かから狙われているのだろうか。

何故、見知らぬ人が私の口座に二十万円もの大金を振り込むのか。

 軽くパニックになったが、空腹には逆らえずに千円だけ下ろした。

そしてパニックになりながらコーヒー牛乳とサンドウィッチを買い、丘の東屋に戻った。


『何故、振り込んでくれたんですか?』


 なるべく相手を刺激しないよう言葉に気を付けてメールを送る。


『さっき言った通りさ。信じる信じないは君次第だけど、俺は家出すべきだと思う』


『だからって二十万円も……こんな大金貰えません。何を狙っているんですか?』


『狙ってるって(笑)そんなつもりは無いよ。家出資金になればいいなと思っただけさ。

 とにかくもう振り込んだ。使うか使わないかも君次第だね』


 信じられなかったが、事実お金が振り込まれており、私はどこにでも行けるようになっていた。


『お金があれば人は幸せになれるなんて思ってないけど、出来る事は増える。

 二十万あれば全国どこでも行ける。君は自由になったんだ』


 まさか、そんな訳が無い。

 確かにどこにでも行けるが、お金は使えばいつか無くなる。

つまり、いつかはあの家に帰らなくてはいけないのだ。

 家出なんていうとんでもない迷惑をかけたらあの親は私に何をするだろう。

考えただけでも身震いがする。


 私はそのダイレクトメールに返信できずに帰宅した。

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