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生き止まりの向こう側  作者: 菅井 カワツゲ
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第一話 劣悪な家と学校

 うるさい目覚ましアプリを寝ぼけ眼で止める。

 また憂鬱な朝がやってきた。

起きた瞬間から憂鬱って、寝てる時が一番幸せってどういう事だ。


 洗面台で顔を洗い、歯を磨いて眠気を覚ます。

 居間からは、いつもと同じ罵声が聞こえる。

まったく、毎日毎日よく飽きないものだ。

 世間では、会話の無い仮面夫婦がいると聞くが、その方がよっぽどマシなんじゃないだろうか。


「ふざけんじゃねぇぞコラ!そいつから金引っ張ってこいよ!」


「馬鹿じゃないの?アンタが働いてつみきの学費払えば?」


「くそがコラァ!知らねぇよあんなガキ!」


「生ませたのはどこの誰よ。馬っ鹿みたい。知らないからね」


「っざけんなよコラァ!酒買う金くらい置いてけよ!」


 まるで高血圧な猿の会話である。

 父は怒鳴りながらテーブルを殴り、母は冷たい声でそれをあしらう。

 キーワードは『金』『酒』『私の名前』だ。

そのノルマを達成すると二人は別々に家を出て行く。


 生みたくなかったのなら生まなきゃ良かったのに。

私だって好きでこんなクズ家庭に生まれた訳じゃ無い。

生まれる前に知ってたらセルフ中絶してたさ。


 当然ながら朝食も、昼のお弁当も無い。

母は私になどまったく眼中に無いのだ。

いや、私だけでなく父にも興味が無い。

 家に来るのは荷物を置きにくる朝方だけ。

当然ながら夜に居る事はなく、いつ寝てるのか不思議に思う。

きっと不倫で忙しいのだろう。


 父も私に興味が無いのは同じなのだが、機嫌が悪い時とお酒を飲んだ時は私に当たり散らす。

 お前が生きてるだけで金が減る、と耳元で怒鳴られる。

酒瓶で腹を殴り、髪を掴まれ投げられる。


 以前、キッチン用の漂白剤を頭からかけられた時があった。

急いで顔を洗ったが、髪までは手が回らず、漂白されて半分ほど白に近い金髪になった。

当然ながら学校で怒られ、説明しても聞き入れられず一人で泣いた記憶がある。

 父はそれを面白がり、それ以降も定期的に漂白剤をかけられるようになった。

黒染めを買うお金など無く、今も髪の毛の一部が白い。


 つまり私は、生まれてきた事が間違いで、生きる事も許されないのだ。

そう思わされ続けてきた。。

よく十四歳まで生きてこれたと自分を褒めたい。


 私は冬用のセーラー服に袖を通し、スカーフをキュっと締める。

これだけでは寒いのだが、コートどころかカーディガンすら買ってもらえない。

 母が気まぐれでくれたお古のスマホをカバンに入れ、土下座して買ってもらった眼鏡をかけた。

 ゴミ溜めの様な部屋の中央に置かれているテーブルの上に、五百円玉が放置されている。

それを財布に入れて、学校へ向かった。



 _________________________


 


 「また、か……」


 ついポツリと口に出してしまった。

 教室に入り自分の席を探すが、どこにも無い。

いつものように私の机と椅子は教室から消えていた。


「あれぇ、織原(おりはら)さんの机無くない?」


「なんで無いのぉ?織原さんてさぁ、このクラスじゃないんじゃね?」


「あっ!あったよーこれ使いなよ」


 技術工作の授業で私が作ったスツールを足元に蹴り渡された。

教室の後ろに保管されていたスツールはガタガタにされ、『織原つみき専用便座』と落書きされていた。

 私は黙って、自分の机のあった場所にそれを置いた。

 恐らく机と椅子は男子トイレだろう。

最近はいつもそこだ。


「早く座れよ!」


 ふくらはぎにローキックが入り、膝をついてしまった。

すかさず髪の毛を鷲掴みにされる。


「ここにはお前の席、ねぇから。さっさとあのボロボロの団地に帰れよ」


月姫(ルナ)、強ーい!団地とかまじウケるし」


 団地に住む事の何が悪いんだと思っても口には出せない。

何か喋れば、次は顔面にパンチが飛んでくる。

チャイムが鳴るまで耐えるしかないんだ。


「チッ、見てるだけでムカついてくるんだよねぇ」


「はい、またお前が殴られて泣いてる所をSNSにアップしまーす」


「この前は廊下に立たされてたよね。今時廊下って」


「それもアップ済みでーす」


「男子からの熱烈な腹パン動画はー?」


「勿論、アップしてまーす」


「なんも言わねぇよコイツ」


「図書委員なんだからずっと図書室にいろよ」


「ほら、消えろ」


 背中を蹴られ、教室の出口まで追いやられた。

 振り返ると、三人の女子グループの後ろに一人、泣きそうな顔をした男子がいる。

名前は確かタクミ……だっけ。

クラスの人と話をした事が無いからあまり名前も覚えてない。


 読書好きで仲の良かった子は、私がイジメの標的にされた途端、態度を変えて避け始めた。

誰だってとばっちりはごめんだろうなと言い聞かせたが、やはり当時はショックだったのを覚えている。

 タクミの事などすっかり頭から消え、私は教室を出た。


「疲れた……」


 トイレに逃げ込んだ私は個室の鍵を閉め、うずくまった。

 私の何が悪いんだろう。

こんな事をされる程の悪事を私は働いただろうか。

 一年の時は普通の学校生活が送れていた。

本が好きで図書委員になり、趣味の合う友達もいて、それなりに楽しかった。


 二年になってから突然イジメに遭ったのだ。

まさに遭遇したと言っていい。

 きっかけは覚えていない。

家が貧乏だとか、性格が暗いとか、きっとそんな感じだ。


 この理不尽なイジメは一体いつまで続くのだろう。

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