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生き止まりの向こう側  作者: 菅井 カワツゲ
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第十七話 私達の覚悟

 全ての授業が終わり、帰る準備をしているとあの三人が私の机を囲んだ。

私はゆっくりと眼鏡を修業用のものに掛け替え、カーディガンを脱いだ。


「何帰ろうとしてんの?」


「無事に帰れると思うなよ」


 沢山の漫画を、小説を読んできた。

色んな物語の悪役に触れてきた私が口論で負ける訳が無い。

あえて私は悪役になる。


「え?何してくれるんですか?」


「てっめぇ、ボコボコにしてやるってんだよ!」


月姫(ルナ)、やっちゃおう!」


 いつも一番初めに手を出すはずの月姫が、いまいち動かない。

私の反応が以前と違うからなのか。

 こいつらは全員、今流行りのDQNネームってやつだ。

そこをイジってみようかな。


「月に姫でルナだっけ?そっちは永遠に愛でトワナ?

 それと音に夢でインム?そんな名前で恥ずかしくないの?」


 私は立て続けに捲し立てた。


「まずルナって読めないし当て字にもなってない。愛はナとは読まないし、インムって何それ?スケベな夢って意味じゃん。あんたらの親って相当な馬鹿?」


 段々と三人の顔が青ざめていく。

もう少しか。


「言ってる事、理解出来てる?言葉通じてる?もしかして私、弱い者イジメしてるかな?あんたらがいつも私にする事だよね?じゃ、おあいこって事で」


 帰る振りをした瞬間、月姫の蹴りが腹に飛んできた。


「織原、あんた何言ったか分かってんの?調子乗んなよ!」


 怒りで我を失っているらしく、何度も私の顔を拳で殴りつける。


「死ね!」


「クソ眼鏡が!」


 それに便乗し、他の二人も蹴りを入れてくる。

確かに結構痛い。

だけど、急所には入らない。

こんな蹴り程度……。


「シッ!」


「痛っ!」


 私の目打ちが月姫に当たる。

月姫は私を離して距離を取った。

 追い打ちをかけず、まずは周りの二人を処理する。

蹴り込んできた永遠愛(トワナ)の足を持ち上げ軸足を払う。

背中を強かに打ちながら倒れた永遠愛の腹を思いっきり踏んだ。

苦しそうに涎を垂らしながら転がっている。

 次は音夢(インム)

先手の構えから軽くジャブ。

鼻先に入り、鼻血をぼたぼたとこぼしている。

 音夢は何も言えず、鼻から出る血を見ながら目を白黒させていた。

すかさず鋭い前蹴りを鳩尾に叩き込む。

音夢は机を巻き込んでがらがらと派手に転び、動かなくなった。


「あんた、なんなのよ!」


 息を切らしながら月姫が叫ぶ。


「お前らがなんなんだよ。今まで私に何してきた?その報いがこの程度で済むんだから喜びなよ」


「ふっざけんな!」


 月姫が椅子を振り上げ向かってくる。

それをひょいと躱す。

目の前を椅子が風切り音と共に去っていく。

椅子は床に当たって月姫の手を離れた。

月姫はその反動でよろめいていた。

 馬鹿め。

自分の筋力じゃ扱えない物を武器にするからだ。


「こっちだ、バーカ」


 私は後ろから月姫の髪を掴み、背中に膝蹴りを入れ続けた。


「ご、ごめん……なさい」


「許すと思うの?なぁ?さっきの取り消すね。こんなもんじゃ済まさない。社会的に抹殺してやる」


 掴んだ髪を離し、渾身の力で右フックを月姫の頬に叩きつけた。

ガラガラと机を倒しながら床に這いつくばる。


「すー……はぁ……」


 ゆっくりと深呼吸をして脈拍を通常に戻す。

してやった。

やっとやり返せたんだ。


 その時、男子三人が教室に飛び込んで来た。


「なんだよ、これ……」


「織原、てめぇがやったのか!?」


「おい!月姫!大丈夫か!?」


 馬鹿らしい。

イジメの標的がどんな傷を負っても笑ってる癖に、やり返されたら急に狼狽しちゃって。

実に滑稽だ。


「あんたらが私にやってきた事をやり返しただけ。問題ある?」


「ふざけんなよお前!」


「ふざけてるのはそっちだろう?イジメていいのはイジメられる覚悟がある人だけだ。まぁ、あんたらのイジメと私の覚悟を一緒にされたくは無いけどね」


 そう、星斗(せいと)は捕まる覚悟があった。

その覚悟で私を救ってくれた。

私も覚悟が出来ている。

もう後ろに道は無い。


「てめぇ!」


 大龍(ダイナ)の拳が私の頬に当たる。

少しよろめいたが、星斗の拳に比べれば何て事は無い。

 制服の袖で血を拭いながらカウンターの構えをとった。


「死ねコラ!」


 隙だらけの貧弱な蹴りだ。

星斗の蹴りはもっと強くて鋭かった。

 受けるまでも無い。

半歩下がって避けつつ腰を回転させ、脇腹を思いっきり蹴った。

 大龍はゲホゲホ言いながら膝をつく。


「ヤンキーやってますってイキっててもこの程度なんだ?いつもの威勢は見せかけかよ」


「くっそ……お前ら!やれ!」


 他の二人も戦線に加わって来た。

挑発しなくても良さそうだけど、この際だ。

言いたい事は言っておこう。


「あんたは下に雲と書いてダウン、あんたは攘夷と書いてジョイ。そっちは大きい龍でダイナ、ね。揃いも揃って頭の悪い家庭で育ったんだな!」


「なんだとコラ……」


「舐めてんじゃねぇぞ!」


 下雲(ダウン)がノーガードで突っ込んで来る。

大きく振り上げた拳は、避けてくださいと言わんばかりだ。

 拳を避け、懐に一歩踏み込んだ。

そのまま腕を畳み、肘を刺す様に心臓付近に当てる。


「寝てろ、クズが」


 バックステップし、下雲の顎を目掛けて上段蹴りを放つ。

私のローファーが顎の先端を掠め、あっけなく下雲は倒れてしまった。

 私は振り返り、攘夷(ジョイ)を睨んだ。


「攘夷、あんたに何回も何回もされた腹パン、忘れてないよ」


「クソアマがぁ、また腹パン地獄をお見舞いしたらぁ!」


 髪に掴み掛かろうとする手を左手で払い退け、脇腹に右リバーブローをめり込ませた。

攘夷は息が出来ないようだが、知った事では無い。


「今までよくも散々殴ってくれたね。きっちりお返しさせてもらうから」


 攘夷の腹にめり込んでいた右手を引く反動で左のリバーブローを入れる。

それを交互に数回、最後に顔面目掛けて左フックを放ったが、攘夷がストンと倒れてしまい空振りに終わった。

 私は口の中に溜まった血をペッと吐き出す。


 この人数を相手にすると、やはり疲れる。

 星斗と実戦訓練した時も、集中してやり合うのは三、四回が限界だった。

まだ二十分と経っていないはずなのに、かなり息も上がってきた。

 だが、もう一人残っている。

大龍はポケットからナイフを出し腰だめに構えていた。

流石に刃物はギョッとした。

 だが、相手が刃物を出した場合の修業もしてきた。

あくまで刃物を想定した物でだが。

本物は見た事も無い。


「殺す……殺してやる……!」


 きっとこんな些細な事で殺人事件は起きるんだろうなと思った。

くだらない喧嘩ごときでナイフを持ち出す大龍が哀れだ。

 私は大龍の動きに警戒しながら掃除道具入れから自在箒を取り出し、先端のブラシをもぎ取った。

少し回してみるが、練武場にあった長棒とそこまで変わらない。

あれより短く、軽いくらいか。

これならいける。

いつでも大龍の手元を狙えるように構えをとった。


「うぅ……あぁぁ!!」


「あああぁぁぁぁ!!」


 呻き声とも悲鳴ともつかない声を上げながらナイフを突き出し、走ってくる。

私も自分を奮起させるように叫んだ。

 一歩横に移動し、棒を回して手元を狙ったが、逸れて足に当たってしまった。

大龍はナイフを握りしめたままだ。

前後不覚になった大龍はナイフを無意味に振り回す。

これでは手元を正確に狙うのは無理だ。

こちらも棒を回し、間合いをとる。

 やがてナイフを振り回し疲れた大龍はぜーぜーと肩で息をしながら私を睨んでいる。

チャンスだった。


「……ふっ!」


 回転させ威力を増した棒が大龍の腕を打ち据える。

痛みに耐えかねてナイフを取り落とした。

間合いを詰め、腹に棒を突き刺す。

それと同時にナイフを手の届かない所まで蹴り飛ばした。

そのまま首目掛けて棒を振り下ろす。

鈍い音がして大龍が倒れた。


「ふぅ……」


 全員気絶している内に帰ろうかと思ったが、月姫が怯えた表情でうずくまりながら私を見ていた。

多少留飲は下がったけど、憎しみは消えない。

少し釘を刺しておこう。

 私は棒を無造作に投げ捨て、月姫を軽蔑の眼差しで見下ろした。



「なぁ。イジメをした側は何をされても文句言えないんだよ。例え夜道でいきなり刺されてもね。あんたらは遊びのつもりだったかもしれないけど、私は毎日が地獄だった。これからはあんたらが地獄を味わう番だ。多分、少しは私の気持ちが分かるようになる。それでも誰かをイジメてたら、その時は殺す。私は覚悟してるから」



 周りを見渡すと、いつの間にか結構な人垣ができていた。

皆、廊下から遠巻きに見ている。

その中にタクミの姿が見えた。

 カーディガンを羽織り、カバンをひっつかんでタクミの所に行った。


「星斗さんの事、ありがとう。それと、あんな事にさせてごめんなさい。でも、星斗さんへの恩は必ず返そうと思ってるよ。あなたのお兄さんの事、愛してるから」


 私の顔は相当強張っていたと思う。

 タクミは泣きそうな顔になっていた。

この顔、前も見た気がする。


「織原さん、強くなったね。僕も見習うよ。……織原さん、また学校来るよね?」


 私はそれに答えず、教室を出た。

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