0.8おっさんと綾川さん
おっさんvs綾川?
ピンポン〜♪
「はーい」
「綾川です」
「はーい、今行きまー」
「これはどうすれば」…
知らない男の声が聞こえて、綾川は少し動揺した。
玲花がドアからひょっこり顔を出して、
「綾川さん、いらっしゃい!上がってくだせい!」
「あ、うん。」
と少し気のない返事をすると
「どうかしました?」
と玲花はその違和感にはすぐに気づいてしまった。肝心なことには気づかないが。
綾川は少しばかり顔を作って
「いや、何にも。とりあえず上がってもいい?
今日中華系って聞いてたから、餃子と小籠包買って来た。はい。」
「わあ〜美味しそう。ありがとうございます。上がってください。」
「姉御。これ結局どうすればい…ん?あ、失礼した。…」
「えっと、どなた?そして何で姉御?」
と綾川が質問する。
「話すと長いんです。まああえて言うなら同士、戦友ですかね。」
と玲花が答える。
ちなみにおっさんは何も言わない。出しゃばるつもりはないらしい。
「そう言うことじゃなくて、お名前とか、職業とかは?」
ちょっと玲花のことが心配になった綾川はさらに質問した。
「名前は、おっさん、です。職業は…驚かないでくださいね。」
「…ん、ああわかったよ。きっとみんな聞いたら驚いてしまう職業なんだろう?」
「まあそんなとこです。」
おっさんも息を呑みその行く末を見守った。もしかしたら自分が2人の関係を悪化させるかもしれないと思ったからだ。
そして玲花は
「ホームレスです」
と堂々と言い切った。
綾川は開いた口が塞がらなかった。
だって目の前にいる"おっさん"はどう見ても、普通の40代前後の優しそうなおじさんだったからだ。
「驚きました?!へへっ」
と玲花が言うと、
「才木が、そう言った人と知り合いって言うことと、そのおじさんはまったくホームレスには見えないってことに俺は今驚いているよ。」
「あの、何か思うこととかはないんですか?」
「びっくりはしてるよ。あと才木とのご関係もすごく気になるところだ。でも彼はいい人そうだ。あとで喋りましょう。」
「はい、喋りましょう!」
姉御はいい人と出会ったなと思いながら
「ま、とりあえずお風呂入ってきてください!」
「じゃあ、ありがとう。入ってくる。」
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綾川が風呂に入っている間、
「あの先輩、んと、綾川さんって人、いい人そうだな。」
「綾川さんは私と同い年だから上司ではあるけど、先輩じゃないんだよ。そして、優しい。
…優しいんだよね。」
「そうみたいだな。」
「でも、そう優しさも紙一重かもしれないな」
「どうしたんだよ?」
「ん?まあ色々だよ。」
「ふぅーん。女の世界かな?」
「なんでわかんの?!すごい。エスパーなの?!」
「そんなんじゃないよ。あのイケメンがあんなに優しい雰囲気出してたら、そちらさんの世界ではそう言うことがありそうなもんじゃないか。」
「そういうもんかー。」
そんなことを話しているうちに、噂の渦中の人が風呂から上がってきた。
すると、
「おっさんは風呂入って、風呂の方でちょっくら休んでくるから、2人で話しなさい。」
と言った。会ってから始めて、おっさんが年上だと言うことを認識させられた。
「ありがとう。」
「んじゃ。」
「話したくなったら話して。会社で悩み事があるってことは何となく察してるから。」
「ずっとなんでか分からないことがあって。私人の気持ちにも、自分の気持ちにも鈍くて、でも自分の言いたいことは勝手に言い切って。」
「うん。確かに才木は鈍いところもあるけど、ちゃんと必要なところでは人のこと見てるし、気遣いもできてるよ。自分を大切にしてあげてよ。」
「はい。ありがとうございます。努力してみます。」
「うん。あとさ、最近女子社員がトイレにたまってるって話聞いて俺の勝手な推測になるんだけど、才木いじめられてない?」
「…いじめですか。いじめって言っていいのか分からないんですけど、まあ色々言われますよ。」
「うーん、それもいじめだよ。才木の仕事や休憩の時間を奪っているのも問題だし。」
「あっすみま」
「いや、違う。ごめん。君は謝らなくていい。僕の勝手な八つ当たりだから。もっと早く気付くべきだった。」
「そんなことないです。今日こうして来てくれたおかげで、何だか心強くなりました。話してよかった。これからはちゃんと話します。約束します。」
「うん、約束な。」
「はいっ!」
「じゃあご飯食べよう。」
「はいっ。」
柔らかく温かい空気が部屋中に広がった。
ありがとうございました。