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0.6おっさんと私


「ほら、ついて着なさいっ!おっさん臭いし、私もお酒の匂いすごいし、電車も乗れないからタクシーよ!」

その勢いのまま玲花とホームレスのおっさんは玲花の家に向かった。酔ってさえいなければ彼女はこんなことをしなかっただろう。


「ほれ、降りて!」


と言われおっさんは酔いが少しずつ覚めてきたが玲花の頭はまだ正常に回っていなかったためにそのままおっさんを風呂に入れる企画は進んで行く。


「はいよ。ここがうちの風呂!とりあえず今日は、シャワーだけ浴びて!!匂いとか取れたらお風呂に入れる資格を与えます!それまでは毎日この風呂に入ってもらおうじゃないっ!ふんっ!」

と息をまくし立て言った。


「はいったはいった!」


仕方なくおっさんは言われるがままお風呂に入ることを決めた。


「タオル用意するし、浴室にあるもの全部使っていいから。ほい、いってらっしゃい。」


おっさんは1ヶ月ぶりのシャワーを浴び、身体を洗い、ヒゲを剃った。久しぶりすぎたのと、身体が非常に汚れていたので、色々と時間がかかった。久しぶりのシャワーは体に沁みた。嬉しかった。涙が出そうなくらい。暖かく、正常な感覚が戻ってくる。風呂に入らない生活になんて慣れてはいけないんだ。とすら思えた。





風呂から上がると、さっきよりも少し威勢のよさが減った、玲花がリビングにいた。

「あの、だいぶ酔いが覚めまして…えっ?誰?!

いや、おっさんですよね。…シャワーはどうでしたか?よかったでしょう?!」


おずおずと、でも明るく玲花が問うてきた。そして玲花が驚いた通り、おっさんは顔を覆っていたヒゲやらゴミやらを剥がしたお陰で、見違えたようになった。

おっさんも素直に、どこまでも素直に


「おう、ありがとうな。お姉さん。俺やっぱこんな生活に慣れてはいけなかったのかもしんない。そんな風に思ったよ。」


「よかった。酔ってたとは言え色々覚えてるよ。毎日シャワー浴びに来て!臭くなくなったら、お風呂入って!ちゃんと私たちは共に明るい将来を見ようともがく仲間だし、おっさんシャワー浴びて"おじさん"になったから、未来は明るい!」


「こんなに世話になって、図々しくもこれからも君に世話になるわけにはいかないよ。今日はまたいつものとこで寝るよ。」


「ねえ。あの生活に慣れちゃダメなんでしょ。じゃあもう戻っちゃダメだよ。覚悟決めなさいよ。おじさんは今人生の岐路にいるかもしれないんだよ。そうやって遠慮してたら、どんどん勝手な奴らに、すみっこに追いやられちゃう。

おじさんは刑務所に入ったことある?」


「ないよ。」


「うん、そうだよね?!刑務所の方が外で暮らすより環境いいとか考えなかった?」


「あ、ああ。法を犯してはいけないから。」


「すべて国民は『健康で文化的な最低限度の生活を営む』という権利を持っています。おじさんの生活は私には健康そうには見えない。おじさんの周りのホームレスの人たちが亡くなっていくの見たりした?」


おじさんは静かに頷いた。


「ならなおさらよね。おじさんもおじさんの周りにも法を守っている人がいるけど、法はあなたたちを十分には守ってくれないことも多い。もう、わたしにも分かんない。スケールが大きくて、戦う相手も大きすぎて。でも、目の前にいるおじさんを見ると迷わずに思う。生きるべきだって。生きることを全うすべきだって。生きる喜びを誰かとともに感じるべきだって。ね。」


「この家は古いし、前の家主の人たちが使ってたまま色々使えるから、布団もあるの。おっさんは1階使って。私は2階使うから。ほら。今日はもう遅い。寝よう。」


「おっさんは卒業なんじゃないのか?」


「やっぱ私の中でおっさんはといえばあなただから。やっぱ変えられない!あなたが嫌でも私もこれはちょっと譲れないわ!ふふっ。まあゆっくり呼び名は話し合お!おやすみ。」


「うん。おやすみ。」


おっさんはそう言って、2階へ上がっていく玲花の背中を見つめ、

「あんなちっこい背中に助けられたのか。」


その夜おっさんは久しぶりに夢を見た。

それはおっさんの幸せな過去の夢だった。




ありがとうございました。

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