0.4鈍くてラッキー?
ホームレスな人出てきません。
「お湯加減どうですか〜」
と玲花はなんとも間延びした声を出した。
「ちょうどいい〜」
玲花につられて、綾川も間延びした声を出した。
そのあと玲花はパタパタと忙しそうに台所の方に行き、朝ごはんを作り始めた。
「はぁー、本当すげーな。やっぱ銭湯の湯はいいね〜」と独り言を言ってしまう始末である。
実際この銭湯の雰囲気や湯はそれぐらいいいものがあった。
「こんな風呂にただで入れるなんていいな〜」
綾川は普段よりものんびりと長風呂してしまったらしく、頬が赤くなり少しのぼせた様子だった。
「綾川さんちゃんと拭いて出てきてくださいよー。じゃないと風邪ひきますからね。」
「うん、わかった〜」
一瞬新婚夫婦かとも思える、この会話に赤面したのは、綾川だけだった…。
「料理できんのな。ちょっと驚き。」
「結構料理するの好きですよ〜。あんま見た目のいいやつとかは作ったことないですけど。」
「いつも和食?」
「だいたい和食ですね。やっぱ健康体には和食です。」
「あっ健康体って、結構根に持つタイプだろ?」
「ふふふっまあまあお互い様じゃないですか〜?!」
楽しい食事の時間を終え、玲花は綾川を車で駅まで送って行った。
「お前車まで持ってるの?」
「まあ。てかこの辺車ないと結構きついですからね。しかも中古ですよ〜。生意気とかじゃないですから。」
「才木にしては鋭いじゃん。生意気ってわかってんだ?!」
「だぁかぁらぁ、必需品なんです、車は!」
「はいはい。」
「着きました。色々ありがとうございました。また月曜日に。」
「おう。こっちこそ、いい湯に浸からせてもらえて良かったよ。じゃあな。」
玲花は彼のその背中が駅のなかに消えていくまでずっと見つめたままだった。
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翌月曜日。いつもの通り皆に挨拶をし、自分の席に着くと、何やら鋭い視線を感じた。鈍い玲花でもその視線を感じるくらいだ。何事かと視線の先を見ると、華奢で清楚な女の子、美人な女の子、スレンダーな女の子たちが睨みをきかせていた。そして、玲花に向かって手招きをし、こっちに来いという合図を出した。
「なんだろうな〜」
何気なく玲花がつぶやくと
「どうした?」
と綾川が聞いてきた。
「少し席外します。」
「おう。早めに戻れ。」
と言う返事を聞き、玲花は席を立ち彼女たちが出て行った扉から廊下へ出た。するとさらに女たちは玲花についてくるように言い、辿り着いたのは女子トイレだった。
普通の人だったら、ああ、ありがちなやつとか思うだろうが、この娘には女子トイレという女の戦場で虐げられるとは考えつかない。
だから、玲花は問うても答えてもらえない質問をしてしまった。
「あのー、なんで私たちは今トイレにいるんでしょう?」
「ふっ、それ本気で言ってる?」
と華奢清楚な女が、清楚感ぶち壊しで言った。
「才木さんさ、金曜日私たちが帰ったあとも女子1人で残ってたじゃん、それで甘えて綾川さんに送ってもらったんだって?!」
「甘えたりはしてないと思うんですけど、送って行ってもらいました。」
「そういうのなしだから。そうやって抜け駆けしない約束なの。」
「私は何の抜け駆けをしてしまったのでしょう?」
「なんなのあんた!ムカつくな」
そう言って、スレンダー系の女は玲花を突き飛ばした。不意を責められたので、結構運動神経の良い玲花も、簡単に床に倒れてしまった。
「綾川さんはあなたのこと好きな気持ちなんてかけらもないからあなたが勘違いしちゃダメってこと。」と美人が言った。
「じゃっそういうことだから。あと、このことは綾川さんに言ったら、どんな手使ってでも会社から追い出すから。」
と言って玲花を残して3人は去っていった。
「えっ、立てない。」
腰が抜けて立てなかったのだ。その後社用携帯で
「お腹痛くて、トイレいます。トイレで長居してすみません。解決次第すぐ行きます。」
と玲花が言うと、
「大丈夫か?病院レベルだったらもう一度電話しろよ。」
と言われただけで、咎められることも、嫌な態度をされることもなかった。
それに対して玲花は安心した。そうしたら、足の力も戻ってきて、立ち上がろうと思ったら、今度は足に違和感があり、足をひねったらしかった。
なんとか、立ち上がり少し変な歩き方にはなったが、しっかりとした足取りで、席へと戻ると、
「大丈夫か?」
「はい。ご迷惑おかけしてすみません。すぐ始めます。」
「うん。その顔色なら大丈夫だな。」
と言って作業に戻った。
「結局私は何か悪いことをしたのだろうか。綾川さんは私の指導担当だから、関わらないのも無理だし、好きとかそういのじゃないし。どうすれば良いんだろうか。」なんて考えに気を取られて、仕事で、初めてのミスをしてしまう。それは翌日発覚した。
鈍いのも考えものだ。おそるべし田舎女。
ありがとうございました。
ホームレスな人まだかな?