0.3お家は煙突付きの元お風呂やさん
うん、全然ラブにはなりません。
「才木さんって彼氏とかいないの?」
と聞いてくるのは、私と同じくひよっこの広報部の新入社員清野くんです。年下なのにタメ口って思うかもしれませんが、今日は歓迎会と言う名の飲み会です。
「彼氏とかいたことないですね。なんせ田舎生まれ田舎育ちなんで、恋が芽生えるよりも、友情、いえ、戦友のような立ち位置になっちゃうんですよ〜あははー」
「へぇーそうなんだ。意外!」
「才木さん、結構酔ってるよね?!
お酒はそこまでにして。」
綾川さんに制止されるが、
「酔ってませんっ!ほら私まだふらふらしないで立てますよ?!ほらっ!だから私のグラス返してくださいっ!」
「もうすでに女子社員たちは帰ってるよ?残って飲みレースするなんて君ぐらいだよ?しかも部長にも勝っちゃうし。ほら帰るよ。送ってく。」
「ふぅ〜ふぅ〜綾川〜。ちゃんと送り届けろよ。」
部長始めおじさま達に冷やかされ、
「これが噂の送り狼ですね〜へへ〜」
と清野くんにも言われる始末。
私も思考がいつもより正常じゃなかったので、すくっと立ち上がった後、カバンとコートをそのままに、真っ直ぐに歩き出そうとしたところを、綾川さんに首根っこを掴まれ、
「ぐふっ」と変な声を出してしまった。さらに首がしまり一瞬息を止めてしまったので吐き気まで込み上げてきてしまった。呆れながら、綾川さんは
「じゃあ、才木連れて帰ります。お先です。」
と言って、スマートに私の肩を持って外に出て、タクシーを拾った。
「才木、家どこ?」
一応初めての一人暮らしの一軒家の住所は覚えているもので、ふにゃふにゃとなりながらも伝えられた。住所を聞いて、綾川さんは「遠っ」と驚いた、がもう私には聞こえなかった。
「えっ!ここ?!」
綾川さんの声は深夜過ぎの声量ではなかったが、これも私の耳には届かなかった。
翌朝。
「はあ〜よく寝たー」とひと伸びすると、
「よく寝たーじゃねぇーよ!」と言われその声のした方を見ると、綾川さんがいて、驚いた。
「えっ!えぇー!すみません!ご迷惑おかけして。まさかソファで寝てくださったんですか?!ちゃんと寝れました?」と言うと綾川さんは吹き出して、
「いやいや、普通女の子は、自分の体みてから
『もしかして…』とか言うもんだよ。いや〜さすが才木っ!」
「そうなんですね。あらま。じゃあもしかして…」
「いや、ないよ。大丈夫。てか『あらま』て(爆笑)」
「そうでしたか、理解です。」
「おう、あっさりしてんな。ところで、この家何?」
「何とは…?」
「普通20代女子一人暮らしとかって、セキュリティーしっかりした賃貸とかじゃないか?」
「私は東京の常識とかわからないですし、破格で貸してもらえてるし、お風呂気持ちいいしで、この家が良かったんです。借りれてラッキーでした!」
「まあ確かにな。常識とかを気にしないのは才木らしい。でも、会社から遠くないか?いつも何時に家出てるんだよ!」
「早いってゆうても6時ですよ〜」
「十分早いよ。てか、今何時?」
「今5時です!あっ、まずい早く支度しないと!」
「うん、ん?今日土曜だぞ?」
「あっそうでした。てへ?!」
そこにかなり手加減された拳骨が落ちてきた。
「いててて、すみません、たまには可愛こぶってみたいなっておもって。」
「ばか。…あと、昨日は終電なくて、この辺境の地じゃタクシーも拾えなくって勝手に泊まってごめん」
「いえいえ、こちらこそ送ってもらって。ありがとうございました!」
「ごめん」じゃなくて、「ありがとう」か、と彼が思ったのは彼女には内緒みたいだ。
「とりあえず、お風呂入って、朝ごはんも食べていってください!お礼です!」
「えっ?お風呂」
「ちょっとまっててくださいね〜」
「いや、昨日の朝洗ったので、綺麗ですよ?!
あとお湯ためるだけですから」
「いや、帰るよ。」
「いえ、お風呂入って、朝ごはん食べていってください。それとも何か午前中予定あるとかですか…?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあいいですね!じゃあお湯はってきます!」
彼は大きなため息をついた。
彼女はどうやら色々と無自覚な小悪魔みたいだ。
ありがとうございました。