0.2才木さんと綾川さん
あー。全然進展しません。すみません。
「おはようございます」
と私が言うと、私の上司の綾川さんも
「才木さん、おはよう」
と、返してくれた。
出勤2日目。他の人たちにも挨拶したが、昨日全体で挨拶した時より少し素っ気なく感じた、がそんなのはいちいち気にするもんじゃないだろうと思い流した。
「才木さんの歓迎会金曜にやろうと思うんだけど、平気かな?」
と綾川さんに聞かれ、嬉しくなってつい
「はい!お願いします!」
と元気な中学生の運動部員のように答えてしまった。
乙。本当になぜこんな揃いも揃って美人で魅力的な方々の集まった部に送られたのだろう…。
先行き不安とか思っていたら、
「ふふっ、才木さんって元気だね。」
と、綾川さんに言われてしまい、
「はい、健康体です。丈夫です。(が何か?)」
と言うと、また笑われてしまった。
このやり取りの後、彼女に向けて冷たい嫉妬の視線が向けられたが、彼女はそれに気づくこともなく、仕事を始めた。
その日の昼は綾川さんと食べた。まだまだひよっこ、いえ、毛も生えていない、生まれてもないかもしれないレベルの私は綾川さんと行動を共にして、仕事を覚えないと、何もできない状態だったお昼も教育という、スパルタなしごきを受けていた。だが、綾川さんもそこまで鬼じゃないので、世間話もしてくれた。
「才木さん東京出てくるのは初めて?」
「はい。初めてです。」
「なんだ。そうやって、穏やかに落ち着いて、答えることもできるんだね。」
「綾川さんってその顔で隠してるつもりなのかもしれないですけど、結構意地悪ですよね?!」
「隠してるつもりはないけど?」
「そうなんですね〜。気をつけます…はは」
「そんなやばいやつ認定しないでよ。まだ2日しか話してないじゃん。」
「見えます。黒いものが。あなたの顔から。」
「何占い師の真似?なんか、古いな。田舎っぽいし。」
「なんだとぉー。」
「はははっ本当才木さんは面白いね。見た目とのギャップ!」
「へっ?!見た目とのギャップですか?」
「えっ?!よく言われない?」
「全く。初めて言われました。」
「いや、うん、いいや、忘れて」
「いやいや、そこまで言われると、ちょっと忘れられないです。人生初のギャップ萌えチャンスなんです!
どうかお願いします!」
「もう本当勘弁して〜!あー、面白いっ!そう言うところだよ」
「…ギャップって必ずしも萌えるものではないんですね…。私才木はまた一つ大人になりました。ありがとうございます。」
と遠い目をする。
「はぁー、もうこれ以上笑わすのやめてっ!
…話し変わるけど、こっちに友人とかいる?」
「笑わせているつもりはないです。で、こっちに友人は1人だけ。大学の時に上京した子でかれこれ3年半くらい会ってませんね」
「そっか。じゃあ、まあ本当に困ったことがあったら、俺に相談してよ。」
その顔は温かく、優しかったので、私もさっきのふざけモードとは違って、しっかりと
「はい、ありがとうございます。」
と答えた。
「あっ、ちなみに、才木さんと俺タメだから。」
「えぇー!!27ですか?!」
彼は見た目は年相応に見えるが、主任であり、貫禄もあるので、そうは見えなかったのだ。
「そんな驚く?」
「はい、さすがに。」
「だからこれからは才木って呼ぶし、綾川って呼んでよ。」
「私のはなんでもいいですけど、綾川さんを呼び捨てで呼ぶのは断固拒否します。」
「えぇーつまんない。まぁしょうがない。そのうちねっ。」
「いや、絶対に呼びませんよ!」
ここでも女子社員たちの視線には厳しいものがあったが、玲花はまたしても気付かなかった。
そんなこんなで、綾川さんと打ち解けられた2日目であった。
この日も玲花は最寄駅付近の花壇には気付かなかった。
ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます。笑