10.綾川涼視点
玲花、無自覚美人、発覚ですね。
綾川涼、27歳。周りにはあまり知られていないが、父は務めている会社の社長である。と言っても、次男なので、社長になる訳ではないと思う。まあそれに近い役職になることは間違いないが。また、某最難関国公立大卒、ということから分かる通り頭が切れる、と周りの評価も高く、27歳ながら主任という地位にある。
主任という立場にありながら、今年は異動してくる社員の指導担当になった。なぜそんなことになったかというと、その社員は入社してからずっと地方勤務であるということから、同年齢の気安いものが指導した方がいいということになったからである。だがここでさらに疑問が残る。なぜその社員は地方からわざわざ東京に勤務することになり、さらには広報部という会社の顔といえる重大な部に異動してくるのか。よっぽどできる優秀な人物であるということか、もしくは、「会社の顔」を張れるほどの美貌を持っているのか。そのどちらかだろうと、綾川はふんだ。
この時は女性だから、ちょっと面倒だなとも思っていた。
綾川はいつも部で1番に出社する。朝のひとりの時間を好んでいる。今日もいつも通りの朝を過ごした。新入りに不安も期待も特にない。
「今日付で移動してきました、才木玲花です。…。」
その後に続く言葉が耳に入らないくらい彼女に見惚れてしまった。なぜなら、やはり、彼女は綺麗で、顔面偏差値が高かった。彼女は薄化粧で、それ故に素材の良さが出ていた。目は大きく丸く、潤んでいて、顎のラインも綺麗に出ていて、手を置きたくなる。形のいい口も。服は派手すぎない、無難なパンツスーツ。もしかしたら、テレビに出ている女優とすっぴんでも比べてみたら
彼女の圧勝なのではないかと言いたくなってしまう。
一応彼女の自己紹介にも耳は傾けられていたので、一旦正気に戻ると、
「…東京は初めてで、電車の乗り換えもままなりませんが、懸命に働かせていただきます。ご指導ご鞭撻のほど宜しお願いします。」
媚びた感じもせず、しかし、人の良さを窺わせる感じのいい挨拶で、いっそう彼女に魅了されてしまった。周りの男性社員を見ても、彼女に皆見惚れてきちんと聞いていない様子だった。
それを良く思わない女性社員たちのきつい目には玲花を含め、男性社員達も気づかなかった。
「彼が才木くんの指導担当だよ。」
「綾川です。よろしく。」
ちょっと自分は意地が悪いらしく、自分の顔面偏差値のことはなんとなくわかってるから、この後の反応は見当がついていたが、
「よろしくお願いします。」
と淡々と言い、その柔らかい小さな手でしっかりと握手してきた。そこにはやはり媚びた感じはなかった。予想とは違ったものだった。
彼女といると心地よい。なんてことを会って数分の間にも感じてしまった。なぜだろうか。
これからは徹底的な男性社員達を牽制していこうと決めた。あまりに即断即決だったが、それほど綾川は、玲花に心動かされたのだった。