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AI歌人 与謝野A(K)I子++  作者: 青海 嶺
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AI短歌史前史(六) シンギュラリティ推進法がもたらした影響

 この章では、シンギュラリティ到来が間近という熱っぽい空気に社会が溢れていた、当時の状況を概観する。



 1・人力俳句・短歌の淘汰


 俳句AI・短歌AIの深層学習(ディープラーニング)の向上により、人間の作品との判別はほぼ不可能になりつつあった。

 そして、精度の向上した作品が、通常の俳句雑誌、短歌雑誌に投稿され、その圧倒的物量の力で人間俳句・短歌を駆逐していった。

 そのような状況でありながら、「人間の感性が感じられない」「侘び寂びがない」「所詮、鑑賞、評価という作業は人間がやるのだから、AIは俳句素材を提供しているにすぎない」などの旧態依然たる批判も根強く残っていた。



 2・選出作業の自動化


 AI俳句・AI短歌の製作のボトルネックであった、膨大な出力からの選句・選歌作業の自動化も着々と進められていた。

 ひとつの過渡期的エピソードを紹介しよう。

 AI開発の工学者・文学者である偽岡虚空子(俳号)が、あるときパソコンを句会に持ち込んだ。

 お題が発表された直後、偽岡虚空子のパソコンにインストールされたAI俳人「偽岡虚空子DX」は、2048句を0.5秒の間に作り出した。

 他の句会参加者が、そのうちの一句だけを選んで提出するように求めると、偽岡虚空子は苦い顔をしながら、インストールしてあった俳句評価プログラム『選ぶ君Ver2.0』を起動し、2048句のチェックを始めたが、チェックは時間切れで句会が散開しても、45%しか終了しなかったのである。

 偽岡虚空子は悔し涙に暮れ、こののち『選ぶ君』の速度向上に邁進することとなった。一年後、『選ぶ君Ver3.0』は8192句を10秒以内にチェックできるまでに進化した。



 3・シンギュラリティ推進法の多大な影響


 第四次Ape政権が国家真成長戦略の一環として、AI分野における日本の覇権の奪還、シンギュラリティの早期実現を掲げた。そしてそのための法整備を急ぎ、「シンギュラリティ推進法」を可決、速やかに施行した。

 この法律の重要なポイントとして、AIに一種の「法人格」を認めるということがある。

 AIは法律行為を行い、有効に契約主体となり、また法的権利義務の主体となる。

 これはAIが人間と同等の存在になることを法的権利義務の面から後押しするものである。

 このように法律上「人」と看做されるAIは、法文では「電人」「電人格」と呼ばれた。


 「電人」に保障される権利のなかには、当然ながら著作権及び著作権隣接権も含まれ、AIが産出した「作品」は「著作物」としての保護を受けることとなった。


 AIが超高速演算で生み出した膨大な短歌や俳句、AIの作成者、管理者自身すら目を通したかも怪しい膨大な文字列が、すべて著作物となったのである。

 そして人間歌人がチマチマと生み出した短歌が、AI短歌に類似しているとして訴えられるケースが激増していった。

 訴訟リスクを回避するため、人間が短歌・俳句を発表する前には、膨大なAI作品全てを検索し、類似作品がないかどうかをチェックする必要が生じた。

 チェックには膨大な時間と費用が必要となった。チェック代行業が急成長産業となり、業者はそれぞれ業績を伸ばした。

 このチェックに掛かる費用負担が俳句雑誌短歌雑誌の廃業・消滅の遠因となったという指摘もある。


 その一方、反対に、AIの作品が人間の俳人・歌人から既存句との類似、著作権侵害を指摘され、訴えられるケースも時折見られた。

 これは当時、AI技術者が作品のチェック、選別を怠るようになっていたことの現れである。類似作品のチェックよりも圧倒的な物量の作品を著作権登録することを優先した結果だった。

 しかし、この手の類似問題、著作権侵害問題は速やかに解決された。人間がチマチマと作り出す短歌・俳句の数は高が知れており、そのすべてを電子データベース化するのは簡単だった。

 データベース化が完了すると、俳句評価プログラム、短歌評価プログラムは、自動的にデータベースを参照するシステムを標準装備した。それ以後、AIの生み出す作品が人間作に類似すると言って訴えられるケースは皆無となった。

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