AI短歌史前史(一) AIの芸術への進出
2018年12月5日、朝日新聞に「詠み人おらず」と題する記事が掲載された。
記事は、北大大学院の川村教授のチームが作った俳句を詠むAI「AI一茶くん」が、人間の俳人チームと対戦し、善戦したことを伝えている。
この対戦で最高点を獲得した句は、「AI一茶くん」の詠んだ「かなしみの片手ひらいて渡り鳥」であった。
しかし、記事にも正直に記述されているように、この時点では、AIには完成した句から秀句を選ぶ能力はなかったのである。
この時点では……
近年、AIの進化・発展は、ますます目覚ましい。
チェッカー、チェス、将棋、囲碁などで人間の名人をAIが凌駕したのはそれほど古い話ではない。
しかし、今となっては、プロの棋士が、AI同士の対局の棋譜を研究し、そこから新たな定石を学ぶことはあたりまえの光景となっている。
しかも、人間がその定石を理解したときにはAI棋士はさらにはるか彼方のレベルでの戦いを続けており、人間がそのレベルに追いつくことは未来永劫不可能であり、しかもその差は開く一方である。
明確なルールの存在するゲームにおいて、人間に勝ち目はない。
そこで、人間の限界を見極めた人々は、ルールの定かではないジャンルへと流れた。
すなわち芸術である。
美術、音楽、文学、映画、演劇……
しかし、これらの芸術諸ジャンルにおいてもAIの進出は着々と進行していた。
AIがバッハそっくりの曲を作曲した。
AI搭載ロボット指揮者がオケを指揮したコンサートが開かれた。
AIが深層学習を駆使してオリジナル絵画を制作した。
そしてAIは、文学の世界へも進出したのである。
当時、AIの書いた短編小説が新人賞を受賞し大きな話題となった。
ただしこれは、AI独自の執筆と言えるかどうかで議論をも呼んだ。AIのプログラムを組んだ人間たちの文学的趣味が反映されていたし、機械学習させた素材の要素を組み合わせ直しただけという批判も浴びた。
AIの進出がもっとも脅威を与えた文学ジャンルは俳句や短歌などの短詩の分野だった。
少ない文字数。
決まった音律。
かなり明確なルールの存在。
それらはAIにとって好都合な条件だと言えた。
電子データ化された既存の俳句、俳諧、和歌、近代短歌などの全てをデータベースに詰め込んだAIは、順列組み合わせによって、無数に近い短詩を短時間に生み出すことが出来た。
北大の「AI一茶くん」が活躍したのもこの頃である。
見切り発車ですが、新作公開開始しました……
続きます……