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 オーツ南端のボートハーバーに到着したとき、ちょっとした、不可解なことが起こった。

 めざとくチャコとシンディを見つけた男の子たちが笑顔で走り寄ってきて――急に顔をこわばらすと、曖昧な笑みを浮かべて、回れ右して、走り去って行ってしまったのだ。

「?」

 チャコが戸惑っていると、シンディが遠くから声をかけてくる。

「何してんのー? おいてくよー」

 見ると二人してずっと先を歩いているではないか!?

「うわっ、ズルイ! 待って――」

 慌てて追いかけるチャコだ。


 ハリーが案内した店は――正直、さびれた店だった。第一、いい時間だっていうのに、お客が一人もいない。

「……」

 チャコはまたしても、へんな感覚にとらわれた。

 入ってみると、窓からの湖の眺めがとてもいい。店構えも広さも内装も、たぶん南欧を模したのだろう、いい味をだしている。おそらく立地条件、建家とも、一級の評価を受けて当然のお店だった。なのになんでこんなにガラガラなのかしら……?

 料理の腕かしら? そう思ったとたん。

「ちょっと人気(ひとけ)がないけど、味は保証する!」

 ハリーが言葉に力を込めて請け合った。彼は店の奥に向かって大声を張り上げた。

「ラモス! ヘイッ! いるんだろ!? 僕だ! ハリー! ――お客さんだぜっ」

「……」

「……」

「ラモスッ! ったく……」

 やがて、ようやく物音がして、この店の主人と思われる初老の男が、奥のドアをギイと軋ませて現れた。白い半袖の開襟シャツに、膝までの灰色のハーフズボン。サンダルばき。清潔で涼しげな格好。むき出しの腕とすねは年相応の細さだが、これがまた弛みもなくみごとに筋肉で引き締まっている。

 彼はハリーを見て、皺をいっそう深くさせて、もうほれぼれしそうなシブイ笑みを見せた。

「やあ、ハリー……。こいつぁまた……両手に花じゃないか? いらっしゃい、美しいお嬢さん方」

 ハリーは右手を店主に向け、

「紹介するよ。ラモスじいさん。一言で言うなら料理の天才だ」

「料理の世界に天才はいない……いるのは、怠け者と、へんくつだけさ」

 ハリーは呆れたように肩をすくめる。二人を見て、

「ご覧の通りの人さ。とにかくいいからなんでも注文してくれ――ああ! と言っても、自称へんくつだから、そのとおり作ってくれるかわからないけど」

「お客さんによるんだよ……。お前にゃ、作ってやらねえ。キッチンと道具かしてやるから……勝手に自分で作るがいいさ」

「一回も素直に言うこと聞いたためしがないんだ。もう、めんどくさいじいさんだよ!」

 ラモスじいさんは答えずフッフッフと笑う。

 ハリーは肩をすくめ、その、キッチンがあると思われる奥へ行こうとする。チャコ、なんとなくハリーのあとを付いて行って――ハリーが戸惑った顔をした。

「チャコ――」

 さっさと一番いい席に座ったシンディが、余裕をかまして声をかける。

「一緒にトイレ行って、なにするつもり?」

 チャコ、赤くなった。

 ハリーも少し顔を赤らめ、それでも笑顔を残してから奥へそそくさと消える。チャコは小走りするとシンディの隣にどんと座った。

「いじわる!」

 と、ムダと知りつつ非難を試みる。

「へへ〜え?」

 シンディ、流し目をして指をツンツン突いてくる。

「ずいぶん夢中なんだ?」

「ばか!」

 ラモスがフッフッフと笑った。

「……で、嬢ちゃん方、ご注文は?」

 と穏やかにうながした。












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