表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

「もう大丈夫! 観光客? 知らないうちに、離岸流に運ばれたんだね……」

 と、左目の下に軽いアザをこしらえた少年が、優しげな笑顔とともに言った。

 彼はそばに浮いているボート――(驚愕! 合成樹脂製の、中型クラスのパワーボートだ!)――に力強く、かつ、しなやかに乗り上がると、チャコに手を伸ばす。チャコは引っ張り上げてもらいながら、同時にその手の体温――先ほどの、密着した相手の体の体温をしっかりと思い出し、赤らんでしまった。

「チャーコッ!」

 シンディが今になってクロールでやってくる。チャコは泣きが入った声をあげた。

「シンディッ!」

 何やってたのよ……とこれは小声だ。

「大丈夫!?――いなくなったときは、ほんと寿命が縮んだわ!」

 立ち泳ぎし、真剣な顔つきでこちらを睨む。

「ごめーん……」

 彼女もボートにあげてもらい、ようやく一息ついたのだった。


「僕は、ハリー・アイザック・チャーチル。よかったら、ハリー、て呼んでくれないかな?」

 と彼は自己紹介した。とんでもなく珍しいことに、就職せず『上級学校』に通う『学生』だと、さりげなく付け加えた。2年生。――十七才?

 彼はボートの収納棚を開けると、中からいくつかの紙袋を取り出した。袋を破り、「はい、使って」と、二人に新品のバスタオルを手渡す。別の袋から、真新しいビーチサンダルも二人分出してきた。

 そのあと彼はタオルでざっと体を拭き、これまた別の袋から、糊のきいた半袖のホワイトシャツを出し、腕を通す。前はボタンをせず、開けたままだ。もちろん、シャツの下は、すらりと均整のとれた、黒い水泳パンツ一丁だけの裸である。――チャコ、なんとなくうつむいてしまった。男の子相手の、気恥ずかしさ……またぶり返してしまっている。ああ!

 シンディはまったく平気だ。さっそく目を輝かせて質問を発する。

「このパワーボート、あなたの!? すっごい高い品物に見えるんだけど?」

 動力船は――というか今の世の中、機械式動力そのものが非常に珍しい。まして個人の趣味の船舶となると、シンディすら驚愕の叫びをあげるほど、高価なのだ。

「一応そうだよ。……親父に買ってもらったんだ。これだけは、感謝してる……感謝しなきゃ、な」

 語尾が少し濁った。チャコはその言い方になんとなく疑問を感じたが、シンディは無頓着だ。いちいち指さしながら、

「高効率ウルトラソーラーパネル――セラミック系超伝導モータ――直結ワンシャフト・スリーブレードのジェットポンプ――! マッハ社製SRシリーズの最上級グレード機だわ。うわおっ! さぞかし速いんでしょうね!」

 ハリーは驚き、うれしそうに、

「詳しいね? 挺長8.2m幅2.7m、エンジン出力55kw。最高速度は50km/hくらい出せるよ。――どう? お昼時だけど。知り合いがやってる店があるんだ」

「もち、オッケーよ。いつ誘ってくれるかと思ってたんだ。――わたしシンディ。こちらチャコ。チャコ、いいよね?」

「――う、うん。もちろん――」

 このままだとシンディに持っていかれちゃう?! 真っ赤な顔で、チャコは精一杯の勇気を出した。

「――ハリー!」

 彼は輝くような笑顔を見せた。

「イエス! じゃあレッツ・ゴーだ! ――飛ばすぜ? ちゃんとつかまってろよ!」

 ボートは錐モミするような甲高い独特のモータ音をあげ、いきなりドカンと加速した。

「YaaHaaaa――! ――!」

 風がぶつかる! 波にジャンプする! オンナノコ二人はそろってかわいい悲鳴をあげた。

「――!」

 人力でも魔力でもない機械動力!

 人力の到底及ばぬマシンパワー!

 力強く荒々しく――気高い野生の悍馬のごときその魅力!

 それを人が自在に操るという愉悦!

 このときばかりはチャコの『引っ込み』も、どっかに吹っ飛んでいた――!












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ