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いったん泳げるとなったら、それからは早かった! ぎこちなかったがクロールもできたし、古式ゆかしき斜め泳法というのも、なんでもかんでも、とにかく試す物すべて簡単にできてしまった。
「ヒュー!」
水をベッドに、仰向けに浮かぶことさえできた。
「快感!」
明るい高い、青空だ――
「……」
しばし幸福感に包まれるチャコだった。
さて……。
ふと――へんに静かなことに気付いた。シンディの声が聞こえない。浜辺の喧噪も、だ?
頭を起こして――チャコは絶句、目を剥いた。白い浜辺が、糸のように細くなっている!
思わず身体を起こして――
――げっ!?
足が底につかない!
下を見ると、遠浅だったあの透明な水が今や群青色に――
「!」
瞬間的に、シンディに教えてもらったデータが頭にひらめく――最大水深百メートル!
「――」
その名を後で知る。これぞ、離岸流。
巨大な湖の、その強い水流が体をさらに沖へと――
深いところへと――
突然の恐怖がチャコを青黒く鷲づかみにして――!
「き、きゃ!」
がばっ――
水を飲んだ! 体が得体の知れぬ化け物に引きずり込まれるかのようにずぶずぶと沈んで行く――
口と鼻から泡が出た――
もがくほど、なぜか体は鉛のように沈み――
(焦るな――っ、わたし、パニクっちゃ、だめ――!)
(――平泳ぎ! 水を蹴れ! 蹴れ! 上へっ――)
とたん、足の筋が切れたかのような痛みが全身を走った。――こむら返り。
チャコ、これが最悪にして最初の経験だった。
悲鳴をあげたつもりだった。とたん、水が――
顔を内側から引っ掻き回されるような感覚!
なんにも見えなくなった。
再び生理的な恐怖が全身を締め付け――
鳥肌が立ち――
冷たい、暗黒の水の底へと、体が沈んで――