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シンディはチャコの横に降り立った。お行儀よくサーフボードを邪魔にならない所に置き、丁寧に黒バスをハカリの上に戻し、皆の注目の中、やおらエヘン、と咳払いする。
「みなのもの控えおろう! こちらにおわすこのお方をどなたと心得る――!」
シンディ、可愛い厳かな顔。一体コノ子はナニをヤラカス気なのだろう!?
「――諸国漫遊中の二級魔女とは仮のお姿! しかしてその実体は、魔女宮公認、チャコ・唐草特一級魔女様であらせられるぞ! ええーい、頭が高ーい! 控えい、控えーい!」
「まさかほんとに芝居小屋に行ってたの?」
小声でチャコ。シンディはニヤリと答えない。
さて──
当然のようにチャウが怒り狂った。
「ウソだ! な、な、なんたる、たわけたことをっ!? この不届き者めがッ! それとも暑さで脳がやられたか!? 皆の者騙されるでないぞ! あんな子供が、特一級の位であるはずがないであろうが!」
シンディが意地悪に笑み、なにか言い返そうとする。チャコはもう、めんどくさくなって手招いた。
「貴方の自慢の、超魔女級の『あの術』で、こちらにいらっしゃいなさいな。サイフェイ様。できるものならね!」
「なんだと……こ、小娘……!」
「今、このボートの周りに、空間をねじ曲げる力場を張ったわ――」
チャコ、チャウを見据える。
「わたしがウソつきのただの二級位だったら、こんなバリア、貴女にとって全然障害にならないはず。自由に行き来できるはずよね。違う?」
チャウ、顔を真っ赤にして、
「痴れ者――今そのメッキを剥いでくれるわ!」
叫びを残し、姿がかき消え――瞬間移動!――そして――
──
──そして、いつまでたっても、出現、しなかった。
辺りを、不気味な静寂が支配する。
「どこに出ちゃったのかしら、ねぇ……」
とシンディ。太陽を見上げたりなんかしちゃってる。二人を除く全員が青ざめた。
しばらくしてから、湖の中から、あぶくが浮いてくる。
「……溺れると、魔法も何もあったもんじゃないのよね」
とシンディは指さし、力でチャウを引っ張り上げ、ずぶ濡れの彼女をゴエモンのボートに乗せてやる。チャウは、水圧と酸欠、何よりもショックで、ガタガタと震えきっていた。ゴエモンにかけてもらったタオルを身体に巻き、隅の方で小さくなる。
「能力がいびつなのよ。一つだけ突出していてバランスが取れてない。だから、テレポーテーションとバリアを破る術を、まんぞくに併用できなかった。恵まれた境遇に甘んじ、まっとうな鍛錬を怠っている証拠だわ……」
シンディが手厳しく批評する。
それを聞き終わってから、ゴエモンが悠々と、ボートの上に跪いたのだった。
「へへぇいっ! 負けましてござります……」
潔く、深々と頭を下げる。クロダも、そして最後にチャウも倣い、シンディは満足げに頷いたのだった。
「これにて一件落着!」