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チャコはロッドの保持に精一杯だ!
「ハリー――動かないよッ! このままでいいの!?」
「おちついて! おちついて。……今おそらく、ソイツ、体力の回復を待ってる。回復したら、一気にフックを外しに来る!」
「どうしたらいい?」
「とにかくラインを弛ませない――」
言い終わらないうち、聞き終わらないうちだった。
腰が浮いた――!?
ひっくり返りそうになる! なんとか踏みとどまるも──
「──来たあッ!」
「わああああああ!」
「野郎! こっち来やがったクソッ急浮上だ弛む外れる急げ早く早くリーリングッリーリングッまわせェ――!!!」
手が勝手に急速回転した!
ハリーが喚き――
ボートが動き――
ゆらり――!
威風堂々、まるで王様のごときその巨体が水面に漂い――
ハリーがタモを突き入れ――
「!」
柄がしなる! ハリー、吠えた!
「うおおおおおおおおおッ!!!」
フッ……と無重力。チャコは放念した。その場にへたり込んだ。
輝く太陽の光で影になってハリーの顔が見えない。その黒いシルエットが何かを持ち上げて──
やがて、ボートの上に、どたんと――
どたりと――
うおおう――!!! 銀色の、でかい、なんてでかい魚体がそこに──!
――!
ハリーが、なにもしゃべらず、ただ親指を、誇りを持って立てて見せた。
「――」
チャコ、泣いてしまったのだった。
そして――
向こうから悲鳴が聞こえた。無感動的に顔を向ける。――ゴエモンが、湖面を見つめ、悔しがっていた。
「タイムアップ!」
ハリーが気合いを込めて宣言した。
「――2匹対19匹。こっちの勝ちだ!」
「……勝てたの?」
ハリーは振り向き、そして精一杯なまでに最高に、やさしい顔を見せたのだ。
「イエス……ディア・チャコ」
「ハリー、あなたのおかげよ!」
「すべて、君の力だよ……」
「あなたの、あなたのおかげよ! あなたがいなかったら、わたし──」
「……乗員の差のおかげだよ。……こっちが二人だけだったのに対し、あっちは三人だ。……ボートの性能と、操船技術に差がないとして、重量が軽い分、こちらは機敏に動き、ランカーバスの動きに対応することができた……」
「ご謙遜と受け取っておくわ」
あるいはそのこともシンディは見越していたのかもしれない……。だかもう終わった。もういいことだった。
「ありがとう……!」
チャコとハリーは、自然に抱擁した。勝った、という実感が、……ゆっくりと、ぬくもりとともにわき上がった。