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互いにそれぞれのボート――ゴエモンのはゴテゴテに装飾された同型機だった――に乗り、沖合に出た。不正を防止するために、お互いが見える位置での、同じ場所における勝負である。つまり逆に言うと、ポイント探しはしなくていいということだ。純粋に釣りの腕比べになる。
ハリーが声を張り上げた。
「用意はいいかあーーー!? じゃ、レディーーーー」
GO――!! チャコとゴエモンの同時のキャスティングでスタート! とたん、チャコのリールは『お祭り』をおこしてしまった。すかさずハリー、慌てず騒がず用意していた別のロッドを手渡す。アドバイスを受け、再キャスティング――今度はうまくいった。リーリング開始――!
ハリーはひどく忙しい!
『お祭り』の処理、ロッドの準備、ルアーの選択、キャスティング、リーリングのアドバイス。そしてボートの操船……。
向こうで歓声が上がった。見ると、かかっている。操船していたクロダが、タモ(玉網)を持ち出して来てかまえる。チャウが満面の笑顔で湖面を見つめている。やがて、ゴエモンは目の前で、らくらくと取り込みを成功させたのだった。ゴエモンは尺上の獲物を振りかざし、残りの二人は親指を突き立てて、こっちにガッツポーズを見せつける。
「……」
ぐうう! 動揺しない!
と自分に言い聞かせていたのに、やっぱり焦ってしまう。チャコは気持ちを押さえつけ、無言でキャスティングした。ところが──
「!」
ゴエモンにまた来た! これで2匹目である。わたしの数は、今のところゼロ。これは……これって……。
この、お互いの数が丸わかり、オープンになっているということは、メリットでもあるしデメリットでも、あるんだなぁ……。世の中の真理におののくチャコだ。
「!」
ゴエモンにまた来た! げげっ、3匹目! 相手はトロフィー保持者だという事実! その実力は、本物だったということだ。
甘かっただろうか? 謙虚になろう――そう思った。ゴエモンを盗み見る。
「……キャスティングの差かしら? あっちは腕力があるから、遠くに飛ばせる。そしたらリーリングの時間を長く取れるし、ヒットの確率もそれだけ上がる」
パンパン、というハリーの鋭く手を叩く音。
「集中! 今やれることを、丁寧にやろう! リーリングを工夫してみよう。バスに魅力的なアクションを、イメージしてやってみるんだ」
「わかった……!」
とは言うものの――
ゴエモンにまた来て。ゴエモンにまた来て。ゴエモンにまた来て。その差は広がり――
気づいたときには、ゼロ対17匹になっていた。さすがにハリーの顔が青くなっている。
チャコは――