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時間をちょっとだけ巻き戻す――
※
更衣室から現れたシンディを見て、チャコは思わず声を上げてしまった。
「わっ、ダイタン!」
ワンショルダーの白いハイレグワンピース。彼女はふざけて、挑発するように長い金髪をかき上げた!
「フフン<ハート> レースクイーン風よ!」
と、言われても、いつものごとくチャコにはなんのことだかわからない。ただ、太古の風俗をよくご存じデスネと、その博識ぶりにカンタンの溜息が出るばかりだ。チャレンジ精神もついでだ、ほめてあげよう!
「チャコもお揃いのにしてくれたら、二人でメチャクチャ目立つのに」
「そんな勇気ないったら!」
「そっかなぁ……ここじゃ、逆にソッチの方が勇気いるんだけどなぁ」
「え、そうなの? え、え、え、そうなの? えー、わたしの、これ、これ普通でしょ?」
チャコはなんのヘンテツもない黒のワンピース。それでも二人でさんざんもめにもめ、ようやく決めた一着なのだ。
「少しキュウクツなスクール水着! それも旧タイプ! それをその歳でこんなトコで一人で着さらすっ!(シンディ、ここでコブシを握りしめる)――ああ、チャコったら、なんて剛胆かつマニアックなんでしょ!」
「???」
チャコにはやっぱり理解不能だ。とにかく、熱心に勧められたトラ縞のマイクロビキニというモノにならなかっただけでも全然マシと思ってる。
「さあ行くゾ! 男どもの視線ぜーんぶ奪っちゃうんだから!」
「ひ、ひぇゃあ!」
ヘンテコな悲鳴を上げ、シンディに引っぱられるようにして浜辺にデビューしたチャコだった。
浜辺の大勢の、とくに男の子の視線が、体に本当に触ってくるような気がする!
逆に、こっちも半裸の男の子の方を見ることができない!
もう、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がない――!
顔が真っ赤になってるのがわかる。蒸気をあげて皮膚がポコポコ沸騰しているかのよう!?
前を歩くシンディの魅惑的な真っ黒い影!
いったいいつまで歩き続けてるんだろう!?
まさかわざと男の子たちのど真ん中を見せつけるようにしてぷりんぷりんあはんあはんと闊歩してるんじゃないかしら? 彼女のことだから!
(――ひゃへあへあへあ!)
チャコはシンディの背中に隠れるようにして歩き――いきなりグイと前に押し出される!
「――!!!」
膝が震える!
もうこの場にしゃがみ込みたくなるくらい――!
「顔をあげて!」
シンディのからかうような、励ますような声が聞こえる。
チャコは、自分の、素足にくっついてる白い砂粒しか見えていなかった。
「――ったら、ホラッ」
シンディの声が、その昔存在したと伝承さる天竺という国ほどの遠くから聞こえる。チャコは――
恐る恐る顔をあげて――
「――!」
「――どうだ!? チャコ! どうだーーー!!」
シンディの自慢げな声。――そこには?
目の前に、ピュアの湖面が、透明に、そして青々と、広がっていたのだった!
聞こえるは……
波の……
浜辺をさやかに滑る音色のみ――!
「――」
ああ、風が暑っつい! ああ、太陽に目が眩む! チャコは思わず前へと歩き出す。
「気を付けてね――」
後ろでシンディの声がした。裸の足を、いとおしいほど綺麗な水が、くすぐり、洗い流れている――!