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 レイクサイドホテルのロビーは、冬の日の空気のように冷え切っていた。


 チャコ、シンディ、ハリーの三人の10メートルくらい前に、同じく三人の人物が立ちふさがっていた。


 その三人の他は、ホテルマンも含めて、誰もいない。

 今だったら、床に衝突する羽毛の音さえ、聞こえるのかもしれなかった。


 目の前の三人組――

 その男(・・・)の右側に、あの男。ついさきほど、ぶちのめしてやったはずの――傷顔の男。

 その男(・・・)の左側に、真っ赤な、大胆に胸が開いたドレスを着た、おそらく三十代の、黒髪の、表情に険がある女性。右手に細いキセルを持っている。

 そして、中央のその男(・・・)――


 大男だった。


 白と黒の市松模様のキモノ。

 赤に銀色の横縞模様の袖無しハオリ。

 えび茶に金色の水玉模様のハカマ。

 足は白足袋に皮草鞋。

 ホログラムのネールアートそして指輪だらけの左手に、吸い口と火ツボが金色の、長さが五十センチほどの、棍棒のような大ギセルが握られている――

 そして。

 そのキモノの上に乗る、でっかい頭。

 黒髪に金メッシュ――なんとマゲを結っている。

 顔には白粉、そして紅色の、隈取りさえしているではありませんかっ――!


 男がキセルを一口吸い、煙を天井に吹き上げる。ギョロリとこちらを睨み付けた。


「エエお若けェの、お待ちなせィ──」


 張りのある、太い声。夢に出てきそうである。

 ハリーが苦い顔をした。

「……親父だ!」

 それを聞いてシンディ、

「うわお……」

 男の顔をしげしげと見つめて的確な意見を述べる。

「……やっぱり貴方はお母さん似!」

「ふん!」

 とこれはチャコ。相手はヤクザの親玉。どうやって引きずり出してやろうかと思っていた御本人だ。むろん、自ら出て来てくれて感謝するわけがない。怒りが再びわき上がっている。男に指さすと、凛と決めつけた。

「ゆるさないからね!」

 男は答えず、余裕たっぷりの所作で、びしっと、ミエを切る。


「石ィ川や――」


「?」


「浜の真砂は尽きィるとも――」


「……」


「世にぬすゥびとの――」


「………………………………………………………………………………………………」


「種は尽きまじ――」


 ……こいつ釜茹にしてやろか、と思った。慌てたふうにシンディが前に出る。

「あのう、自己紹介して頂けないかしら?」

「そっちが名乗るのが先であろう!」

 ピシャリと左の女性。外見通りのキンキン声だ。

「わたしシンディ――」

 シンディは逆らわなかった。

「こちらチャコ。二人とも諸国漫遊中の浪人の魔女よ。で、貴方は?」

「……位が同じだからと、侮っているのでは、あるまいな?」

 シンディは、肩をすくめるにとどめた。

「こんな小娘に――」

「中央が社長――」

 じれったくなったのか、うるさそうに遮り、ハリーが話を進める。

「ジェームス・ゴエモン・石川・チャーチル。左がチャウ・サイフェイ二級魔女。この町の正回転予報官殿。右がクロダ。さっきの事務所の所長だ」

 クロダ、ハリーにどう見ても不気味としか思えない愛想笑いをして見せる。

「で、三人揃って、オレらに何の用なんだよ?」

 ハリーは平然と問いただす。

「その前に――」

 とシンディ。

「――そこのクロダさん、なんでここにいるの? あなた、ハリーのパワーボートよりも、速く走れるのかしら?」

 チャウ魔女がニマッと笑った。次の瞬間その姿が消え、消えたと思ったらいきなりシンディの眼前に出現する。

「!」

 瞬間移動(テレポーテーション)だった!

 彼女はフーッ、とシンディに煙を吹きかける。シンディ、たまらず身を引いた。

 チャウはハリーに艶っぽく振り向くと、指をパチンと打った。とたん、ハリーの姿がかき消える。

 次の瞬間、キンキラキンの社長の前に、ハリーが出現したのだった。

 チャウは色気たっぷりな足取りで、元の場所に歩き戻って行く。

「うわあ……」

 シンディ、顔の向きはそのままで、チャコにだけ聞こえるように、

「今の、超魔女のワザよ……。ほんと世界は広い。旅はしてみるものね」

 チャウが、聞こえたのか満足げに笑む。だがシンディは、こちらも一筋縄ではいかない女だ。

「……でも、多分、あれだけの人ね」

 当然ながらチャウの顔色が激変する。

 今や父親の真っ正面に立つハリーが、めんどくさげに口を開いた。

「だから、一体なんの用なんだよ! さっさと答えろよ!」

 ゴエモンが、意外と可愛らしい、慈しみあふれる笑顔を子供に見せた。声も優しく、

「息子や、そう邪険にするものではない。わざわざ話をつけに、ワシが出向いてやったのだよ……」












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